47 -月光国の状況
便利係の
それでも気付かない嫌雪。
「嫌雪さん、ここっす!」
ティールが声をかけ、やっとクレア達の存在を認識できた。
「ずっと、ここに居ましたか?」
「居たわよ」
「気配を隠していたっす。ささ、嫌雪さんも手を繋ぐっすよ」
そうして輪になり、外が落ち着くのを待つ。
ザファグ砂漠からケプシャルを追う前。
たぶん、敵は執務室へ行かないと思うが──
そう、前置きをした後に新月丸はティールに命じた。
岩の上に刻んだ
「俺の留守中に、絶対、国に攻撃を仕掛けてくる」
大抵の攻撃に耐えられるよう、
そう言ってティールとドラリンを月光国へ向かわせたのだった。
先を見通す力が強いのだろう。
新月丸がティールに告げた通り、攻め入ってきたのである。
街を焼き払い城を落とし、破壊するべく実行に移した。
しかし、それは叶わなかった。
何かの力が邪魔をしている。
ケプシャルが打つ魔法を通さない。
ケプシャルが何度、焼き払おうと魔法を使っても街に火は付かず、それどころかあっという間にかき消されてしまう。遠くから最大限の魔素を込めた火球を飛ばしても、城はびくともしなかった。
国内にダメージが与えられないのであれば、仕方ない。
もう1つの達成させるべくターゲットを探しだす。
連れ帰りたいのは、月光国国王側近に居るという噂の美人だ。
その者は攻撃要員ではなく、あくまでも秘書兼宰相だという。
連れ帰って主に献上し、ケプシャル自身も愉しませてもらう予定であったし、月光国の王への嫌がらせとして最適だと考えたからだ。
しかし、探しはしたものの、残念ながら目的とする存在の気配が全く無い。献上品となる美人秘書がどこに居るか、ケプシャルは見つけられなかった。
クレア達は新月丸の作戦で、ティールが気配を隠している。もし、最初にクレア達の執務室へ向かっても、絶対に見つからないと新月丸は確信していた。
ケプシャルは酷く不機嫌になったが、何の守りもなく1箇所だけ、開かれている所を見つけ城内へ乗り込む。
それが、新月丸の策だとも知らずに。
あえて簡単に侵入できるように開けておいた御用口。
ここに誰も居なければ、作りだけは固くしている御用口に遠隔操作で侵入者を閉じ込められる。同時に、責任感が強い嫌雪が最後まで、御用口に残る確率が高いとも予想をしていた。
案の定、と言うべきだろう。仕事熱心な嫌雪は御用口に最後まで残り、望まぬ来訪者であるケプシャルと対峙する結果となる。
新月丸の様々な目論見は見事に当たり──
「もう、大丈夫そうっすよ」
いつも通り口調も声も、ティールには緊張感が全くない。
巨大な熱球が城に当たり、溶岩と思われるものに包まれた。
振動はビリビリと伝わり、オレンジ色に光りながら窓の外に溶岩は流れ、室内や廊下が不気味に照らされていても「何とかなるっす」と言っていた。
そして今──
窓からの光も熱も落ち着いている。
「もう、外の様子を見てもいいかしらね?」
「そうっすね、見てみるといいっす」
クレアとタロウは窓に急いで近寄った。
ここから見えていた風景は、どうなってしまったのだろう。
窓から街を眺めるのは今や、クレアの日課のようなものだ。
荒れ果てた頃からずっと、復興を願いながら1日に数回は執務中に街を眺めていた。少しずつ整う街並みを見るのは、誇らしく嬉しい。
けれども、あれだけの熱が城を覆えば、少なからず街に被害が出てもおかしくない。侵略者が街に一切、手を出さないなんてあり得ないだろう。
しかし、その不安とは裏腹に……街は普通に静まっている。
そこに住む人々が何名かちらほら、不安げに街を見て回っている様子はあるけれど、大騒ぎにはなっておらず建物にも被害は見られなかった。
大量に垂れ落ちた溶岩状のものは跡形もなく消え、何も起きていない。
いつもの見慣れた街並みが広がり、城周辺も攻撃を受けた痕跡は何も無かった。
「ほら、だから大丈夫っていったっすよ」
「これは……どういう事ですか?」
タロウは率直な疑問を口にする。
「新月様は国全体を守る結界を張っていると仰ってました」
そこに嫌雪が言葉を挟む。
ケプシャルとの対峙、その結末。
そして、ここに避難しろと言われた経緯。
それを事細かに、クレアとタロウへ説明した。
「それだけじゃなく攻撃で発生した、全てのダメージあるものを消し去る仕掛けもしてあったっすよ」
ティールは話を続ける。
「皆様はまだ、新月様との関わりが数年しかないっす。だから、どんな力を持っているとか、よく知らないっすよね」
クレア、タロウ、嫌雪は神妙な顔をして、それを聞く。
少年ぽい見た目。
どこか幼さが残る雰囲気。
それでいて、落ち着き過ぎているところがある。
何が起きても動じず、口調も軽い上におふざけ感を出す。
それなのに、近くにいれば安心してしまう、独特な気配を持っている。
確かに謎が多い。
強いだろう、というのは解る。
解るけれど、それはとても曖昧なものだった。
「僕が今ここで、新月様のことを皆様に話をしてもきっと、嫌がらないと思うっす。僕の知っている限りになるっすが、皆様に伝えるっす」
……でも、他言は無用っすよ?
どこか王に似た、いたずらめいた言い方でそう付け加え、ティールは語り始めた。
現王、新月丸の能力の一端を──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます