17 -タロウとドラリン
王は旅支度をしに自室へ戻って行った。
執務室に私と先輩とが残された部屋でなんとなく不安になる。
王が居るとどこか安心してしまうのだから、王の威光は凄い。
今後しなければならない準備を考え、私は憂鬱な気持ちになっていた。
***様への返信は私と先輩とで考え書いたので問題はないと思う。
しかし送り方をどうするかをまだ、決めかねていた。
内容と相手から考え配達業者に任せるのは避けたいところだ。
となると国と国で直接、渡せる方法となるが私はそこで悩んでいた。おそらく先輩も迷っていると思う。
方法としては大きく分けて2つある。
1つは国から誰かを選び、書簡を届けてもらう方法。
これは
もう1つは
「先輩、どうしましょう?」
「そこよね…」
どうしましょう?だけで何の事か伝わった。
やはり同じく悩んでいたのだ。
「私が行きましょうか?」
「その間、私だけで仕事をするのは難しいと思うのよね」
「ですよね…先輩が行くと言えば私もそれは同じです」
「でしょう?」
返信内容は丁寧に、そして諂った感じに上手く書き上げたけど送り方でこんなに
王が
新月様の事だ。
何か騒ぎを起こしてしまう確率は高いと私も、そして先輩も思っている。
今回は相手が神なので無茶はしないはずだけど何か事を起こした場合、後から丁寧に
そうなると帰路の期待は出来ない、行った先で命を消されてしまうと説明した上で物怪や使い魔に届けてもらうしかないだろうか。
新月様を好いていて忠義に厚いあの
「思い切って業者に任せようか」
「
「そうね…たぶん、しないと思うのよ」
「慣例からは外れていますが、急ぐ必要と命を奪われない、という両方を考えるとそれしかないかもしれません」
そこまで話を進め先輩が業者に問い合わせをたけれど、結果は散々だった。
この方法は避けたいと当初は考えていたが、そもそもどの配送業社も依頼は拒否で頼めない。
建国して間もない国から古からある神都へ書簡を届けるのは、危険が高く受けられないとの事。過去に似たような仕事を引き受け届けた所「不敬である」という理由で配達員が裁判にかけられ、死刑執行となった例があると配送業者代表が聞かせてくれた。そんな前例があるのなら、社員の安全を考え
どうしたものかと2人で考え込んでいると
「じゃ、ぼくがてがみをはこぶよ」
と少し高めの澄んだ声が聞こえてきた。
それはドラゴンを形どった、ぬいぐるみ系
名前は「ドラリン」。
新月様の名付けは単純過ぎる、で有名だ。
このこも例に漏れず単純な名が付けられていた。
私の名前「タロウ」もどうやらリックが住まう
私はこの辺りの生まれではない。私の人種で付けられる本名は人種間でしか発音が不可能なので、月光国での名として王がくださったものだ。いただいた時は何も思わなかったが、それを知ってからは王の名付けのセンスを疑っている。
ドラリンは私を見て話を続けた。
「はねもあるし、とべるし、いちおうひもはける。ぼくならとどけたあとに、にげのびられるかもしれないよ」
「でも、2度と戻って来られない可能性も高いのですよ?」
「だれかがいかなきゃならないんでしょ?」
「そうですが私達は行かせたくないのです」
「王だって嫌がると思うわよ」
「じゃ、どうやってとどけるの?」
そう。
方法がない限り、そこに行き着いてしまう。
現段階ではそれしか方法がない。
防御を上げる魔法を出来るだけ強固にかけ、身を一時的に透明化る魔法水を持たせる。神都に張られている結界を貫いて効果を発揮するかは解らないけど、緊急回避としてテレポーテーションの巻物も持たたせておく。
きっと、王が着くより早く所管を届けられるだろう。
「戻ってきてください」
「がんばるよ」
「帰って来ないのは嫌よ?」
「うん。でも。かえってこられなくても、かなしまないでね」
「悲しまないのは無理。だから戻って来て」
「このからだにいのちをあたえてくれたしんげつさまに、おんをかえせるのならぼくはよろこんでいくよ」
私と先輩は苦い気持ちになりつつも、ドラリンに書簡を託すしかない。
荷造りを始めたが、心の中は暗い気持ちで一杯だ。
どうか…どうか、無事に戻ってきて欲しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます