第25話 勇者召喚

「それで、タロンはどこに行ったんですか」

「捕らえられている。というか俺達が突き出した」

「そうですか。まあ、言ったことが暴言だったんでしょうな」


 タロンは仲間の間でも厄介者だったらしい。信用されていない。


「とはいえ、そんな奴でも仲間、どうか解放してやってくれませんかね」

「どうしよう。魔族って言っただけで牢屋に普通に放り込まれてたけど返してくれるのかなあ」

「無理なら仕方ないと諦めます」

「すいません......こんなことになると思わなくて」


 俺はターガに謝る。タロンは彼らに仲間としては認められていたようだ。


「これからどうしましょう」

「俺が宿代を提供します。金貨8枚は持ってますしすぐ集められます。


 俺は全員分の宿代を集めることにした。マンティコアをまた狩ってくればすぐに儲かるだろう。


「すいません。何から何まで、ですが、これからは私達で儲けさせてもらいます。私たちの中で腕に自信のある者もいますので」

「それはありがたいことだ。お言葉に甘えさせてもらうとしよう」


 俺は金貨8枚をターガに渡した。そして、俺達は学園に向かう。朝から忙しいが今日も平穏な一日になってくれるのを祈るのだった。




 火山のマグマが流れる。セントヘレナ山。ここで魔王ユーライアは復活していた。その長い深緑色の髪が靡く。その姿に跪く赤毛の短い青目の鎧を着た男がいた。

「わが主、どうか魔族のためにまた指揮を下さい」

「結局私は復活しちゃったか。すぐに勇者が召喚されるんだろうな。ねえ、どんな子の依り代をよういしたの」

「奴隷で身寄りのない少女です。死にたがっていたので犠牲ではないと判断しました」

「死にたがってるなんて今の世の中も昔と変わってないのかな。私が復活した以上今度こそ神を殺さないと。さて、クオーク王国のあの場所に向かわないとね。そこで貴族としてふるまって教会を狙うわよ」

「仰せのままに」


 魔王は復活し神を狙う。ルークたちの知らないところで魔王が復活していたのだった。




「ここはどこだ」

「ここは現実と死の世界の狭間。佐藤神威。私はお前を召喚する。勇者として働いてもらうが、失敗すればどうなるか思い知れ」

「何だよ。どこから声が聞こえている」


 俺、佐藤神威は白い空間にいた。そこで手錠をかけられている幼馴染天上舞を見せられながら。


「この者がどうなってもいいなら何も言わない。勇者として魔王を倒してもらうそれができればこの者は解放しよう」

「おい、舞、大丈夫か」


 舞は気を失っている。俺はただ舞が心配で手を伸ばした。だが、その手には電撃が走り離れる。


「何なんだよ一体。俺は舞が勝ち組であれるように離れてたのに」

「そういうお前は潜在的にとてつもないスペックを誇っているようではないか。その力我のために振るってもらおう。そう、くれぐれも我のことはいいように話してもらおう、そうでなければこの者がどうなるか分かっているだろうな」

「分かった。お前に従う。だから舞に酷いことしないでくれ」


 そう言った時俺は西洋の教会らしきところにいた。俺の担任とクラスメイトも一緒に。さっきまで教室で授業をしていたはずだった。当然のことだが舞はいなかった。クラスメイト達は混乱している。俺もだった。クラスメイト達はざわめいていた。突然こんな場所に連れてこられたのだ。無理もない。そう言えばさっきの白い空間にいたのは俺と舞だけだった。俺だけがあの空間に連れてこられたのだろうか。


「皆、静粛に」


 教会の神父らしい格好をした人間が言葉を放つ。分からない言葉の筈だが意味は分かる。一体どうなっているのだろうか。


「貴方方は召喚されました。この中に勇者がいるはずです」

「ふざけるな。俺達を元の世界に帰せ」


 最初に突っかかったのは不良の匂坂郷司だった。彼の声に押されるように数々のクラスメイト達が神父らしき人物に反抗する。


「そうだそうだ」

「俺達を元の世界に帰せ」

「警察に突き出すぞ」


 全体が騒ぎになる。


「皆さん落ち着いて、こんな時に騒いでいても解決しないでしょう」


 担任の山本幸久が場を静めようとする。その声で割と場は静まった。


「ご助力感謝いたします。早速ですが誰が勇者か調べさせてもらいます」

「やっぱ勇者って明じゃねえ。このクラスだとそうだろ」


 嫌な奴が騒ぎ始めた。篠原明を持ち上げるこいつは、刈谷誠。場違いな奴を粛正することが多い奴だ。確かに篠原明はクラスの中心ともいえるほどには優秀だ。今ここで俺が勇者だとばれるとこいつに難癖をつけられるのは確実だろう。


「そんな、僕が勇者なんて恥ずかしいよ」

「ではこちらに来てください。調べますので」

「そういや天上さんはどこだ」

「確かに、いないし」


 明が恥ずかしがる中、舞がいないことが騒ぎになっていた。


「みんな。騒いでいても仕方ない。僕らはできることをしないと」

「ありがとうございます。ここに祈りをささげてください」


 明がそれらしいことを言い場が静まる。明は神父らしき人物の言うことに従い、祭壇に祈りをささげる。そして、明が驚いた顔をした。


「これって僕の能力なんですか」

「そうです。ジョブは何でしたか、勇者でしたか」

「いえ、魔法戦士です」

「では、あなたは勇者ではありませんね」

「んなわけねえだろ計りなおせ糞神父」


 さっそく誠が突っかかっていた。そしてクラス中がざわめき出した。


「まあまあ、誠、君の気持ちは嬉しいけど神父さんが困ってるじゃないか」

「俺等のクラスにお前以外のリーダーはいない。他の奴が勇者だったとしても俺はついて行かない」


 俺も私もという声が続いた。俺が勇者だったとしても誰もついてきてくれないということなのだろう。だが、全員というわけではなかったのが救いだろうか。まあついてきてくれるとしてあの最低な神の手伝いをさせられるのだ。少なくてもいい気がする。とは言え舞の命がかかっている。最悪俺だけでも何とかして魔王を倒さなくては。


「次は誰が神託を受けますか?勇者かどうかだけでなく能力が分かりますよ」

「受けてやるよ糞神父。ああ、どうか勇者の隣になるようなものじゃありませんように」


 こうして、誠から順に神託を受けていった。そして、俺の番になる。


「では、祈りをささげてください」


 俺は祭壇に祈る。すると光のような文字が頭の中を走った。


佐藤神威

ジョブ【勇者】

体力110

魔力105

筋力108

防御力102

素早さ105

スキル【聖剣】【成長促進】【光魔法】


「どうでしたか。貴方が勇者ですか」

「......はい、そうです」

「ふん、陰キャの癖に勇者か良かったな。俺はついて行かないけどよ」


 誠が突っかかってくる。予想はできていたことだが傷ついた。


「神威くんが勇者かあ、私は賢者だったよ」


 そんな中話しかけてきたのは乾桃花だった。


「舞とは幼馴染だったよね。聞いてるよ、本当は凄いんだって」

「そんなんじゃないよ。舞の方がすごい」


 桃花と舞は仲のいい友達だった。舞は俺のことも彼女に話しているようだった。舞には俺がどういう風に映っていたのかは分からないが、俺は目立つのは避けたかった。このクラスには見ての通りクラスカーストがある。そんな状況が嫌で目立つのを避けてきた。ただの陰キャにしては確かにスペックは高いかもしれないがこの状況で目立たないでいることはできないだろう。既に目立っているし。


「乾さん、こんな陰キャといても穢れるだけだよ」

「それは私が決めることでしょ刈谷くん。貴方が篠原くんといるように」

「ちっ。覚えとけよ佐藤、どんなに勇者として頑張ってもクラスカースト最上位は明なことは変わらないからな」


 誠は捨て台詞を吐き去って行った。


「ねえ、神威くん。舞、どこに行ったんだろうね」

「さあ......俺は、心配だよ」


 神には舞のことは隠すように言われている。守らなければ舞がどうなるか分からない。


「そうだよね。私も心配、神威くんは舞とどういう関係だったの?」

「幼馴染だよ。でも最近はあんまり話してなかったな」


 俺達がそんな話をしていると最後の人が神託を受けるようだった。最後はいじめられっ子の佐々木高次郎だった。殴られていつもボロボロの彼は祭壇に祈りをささげた。


「ジョブは何でしたか」

「言いたくない」

「分かりました。詮索はしません」

「こいつ、言いたくないってことは馬鹿な奴なんじゃない乞食とかさ」

「あはは、乞食かそりゃ言えねえよな」

「違う、乞食じゃない」

「お前に聞いてねえんだよ」


 高次郎が反論したらあざ笑っていた奴らは殴りだした。これは止めなければならない。


「おい、やめろ」


 俺は高次郎を殴る奴等を止める。


「はん、佐藤かよ。お前も勇者だけど弱そうだよなあ」

「神威、僕はいい。君までいじめられる」

「俺は勇者だ。そうそう負けない」

「いい気になりやがって。おい、誠、こいつを排除しちゃわないか。邪魔だしよ」

「賛成だな。勇者だからって調子に乗りやがって」

「やめろ」


 突然高次郎が怒りだした。俺を追い出そうとしていることを怒っているようだった。何か透明のものが誠やいじめっ子達を包む。


「お前、自分の立場理解してんの」

「俺には手を出しても神威には手を出すな」

「なら、お前に俺のスキルを試す時が来たな。痛撃だっけか。やるぞ」


 そう言って高次郎殴るが何も発動しているように見えない。


「あれ、どういうことだ」

「さあな。ほら撃ってみろよ」

「お前何かしたな」


 騒ぎが大きくなる。俺は高次郎を庇い離脱した。


「神威くんはやっぱりすごいんだね。いじめを止めるなんて普通はできないよ。明くんは黙って見てるだけだし」

「いじめはゆるせない性分でね。乾さんも何かあったら守るから」

「ありがとう。他の人は知らないけど私は貴方について行くよ。神威くん」

「俺も神威についていくよ。俺のジョブは愚者。さっきあいつらからスキルを奪った」

「そうなのか。確かにあんな奴らだからな。この面子で魔王を倒しに行くってことになるのかな」


 こうして、魔王を討伐するメンバーが一旦出来上がった。まさか、昔の友来栖太陽の転生者にこれから戦うことになるとはこの時の俺は思いもしていなかった。

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