第10話 転生者と名前の無いダンジョン
「ふう、彼を隷属させることはできるみたいね」
「へえ、お前があれを起こしたのか」
「っ。誰」
「アムネシア。お前がジゼリウス様を奴隷にしようとしていたのか」
「ちっ。そうよ。彼は私のものになるんだから当然じゃないの」
2組でアムネシアが偶然ジゼリウスの隷属の話をしていると思ったら、隷属の実験をしていたようだったので話しかけてみた。このアムネシアは何者なのだろうか。
「私を出し抜けると思ったのでしょうけど残念だったわね。貴方には魅了されてもらうわよ」
俺は魅了防御の結界を張っているので当然のことながら魅了は効かない。それどころか怒りが募ってきた。
「どうしてそんなことをする。お前は何者だ」
「私は王女よ。この国では何でも手に入る。だからお前もひれ伏せよ」
「誰がするか。このことを風紀委員にばらしてもいいんだな」
「あら、私がやった証拠があるのかしら」
「ジゼリウスがここにいたとしてもそれが言えるか」
「よう。アムネシア。お前のことは見損なったよ」
「何ですって」
ここにはジゼリウスも連れて来ていた。アムネシアが実行しようとしていたことはこれでジゼリウスにも耳に入ったようだ。
「何よ。こんなのゲームのシナリオには無い。一体どうしてよ。私は全部手に入れられる側にやっと回ったっていうのに」
「ゲームか。お前転生者だな」
「まさか。あんたもそうなの。モブのくせに私を罵倒しやがって」
「もういいルーク。ここは私が収めよう」
「アハハハハ。私の魅了にかかってた王子様が言うじゃない。私には逆らえないくせに」
「こうして見るとあんたは魅了だけで男を手玉に取ろうとしてたわけか」
「ルーク。魅了防御の魔法はかけてくれたようだな。なら私がこの剣を持ってこいつを成敗する」
「なっ。私を殺すつもり、戦争になるわよ。それでも王子なの?」
「黙れ外道」
ジゼリウスの一太刀がアムネシアの腕を切る。
「嘘。私の第二の人生が」
「次があるならもっとまともにやるんだな」
「お前。ジゼリウスをたぶらかしやがって許さない許さない許さない」
「その首も切られたくなかったらこちらに従えアムネシア」
「ひっぐ、こんなのってこんなのって無いよ。あんまりだよー」
「その声は、アムネシア。無事か」
「うう、シリウス君。ジゼリウスが私のことをいじめるのだから守って」
「分かってる。どういうことだジゼリウス。お前もアムネシアを慕ってるんじゃなかったのか」
「その意気込みなら消えた。お前もかかってくるなら自由にしろ。お前事成敗してやる」
「それは、アムネシアごと殺すのか。それはできない提案だな。シリウス今回ばかりは俺も手助けしてやる」
「アレクサンドルぐーん。ありがとうぅ」
「ちっ。増えたか。ルーク。助けを借りていいか」
「分かりました。俺が2人を相手しますからアムネシアを逃がさないようにしてください」
「アハハハハ。あんたモブのくせに私の王子様たちに適うって思ってるの」
「ここはゲームとは違う。これがその証拠だ」
俺は土の初級魔法ストーンバレットを光速で二人に放ち気絶させた。
「嘘。私は何でも手にすることができるお姫様で」
「もうあきらめろアムネシア。お前に助けは来ない。ここも包囲されている」
「くそ、全員私に翻れ」
強引に魅了を包囲している軍団に使った様だ。包囲している軍団が俺達に向かってくる。だが、俺はその軍団を一瞬で鎮圧した。これくらいできなければシルヴィアの生徒ではないと思う。
「嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」
「とどめだ。シルヴェニア王国の第一王女にも第二王女にも許可は貰っている死ね」
「嘘だー」
最後に泣きながら連呼した王女はジゼリウスによってその命を落とした。
「ジゼリウス様。私たちはなんてことを」
「気にするな。お前らは操られていた。それよりルーク。私の国で騎士にならないか」
「それは、お断りですかね。私はこの国の領土を任される長男ですから。それにエレンとも結婚する予定ですし」
「いや、それらもすべて用意しよう。お前達の望む結婚式も領土もすべて用意してやる。いい返事を待っているぞルーク」
「それって」
「爵位をわが国で与えようと思う。今の暮らしよりも良くなると思うぞ。それにお前が収めている領土は実質的にはミレルアルカ家のもの。そう悪くない話ではないか」
「分かりました。考えておきます」
これは父のアーサーに相談しなければならない話だと思い。この話を家に帰ったら持ち込むことにした。
「ちなみに返答はいつまでですか」
「夏季休暇が終わるまででいい。お前も実家に相談する時間位欲しいだろう」
「配慮いただきありがとうございます。俺からは前向きに検討します」
「いい返事を期待してるぞルーク」
こうして、俺はジゼリウスの国の騎士になる話を実家に持ち込むことになった。ジゼリウスはゲームでも王位に権力が高い。彼はそれを隠しているようだが、俺には打ち明けたようなものかもしれない。そして、ことが済んだ後、俺は授業に戻った。今日はもう20分ダンジョンでのタイムを縮めるのが目標のようだ。俺はダンジョンに潜り30分時間を縮めることができた。
「そろそろだな」
「何がですかシルヴィア先生」
「そろそろもう一つランクが上のダンジョンを潜りに行こうと思うのだが」
「マジっすか。ちなみにもう一つ目はどう呼ばれてるんですか」
「あそこの呼び名はまだない。クリアした人間がまだいないからな」
「そんなところに行ってシルヴィア先生は大丈夫なんですか」
「私の事なら大丈夫だ。それに今のお前なら生きて帰るくらいはできるはずだ」
「どうして、断言できるんです」
「私も一階潜ったことがあってな。次のダンジョンはボスまで倒さなくていい。危険だと思ったらすぐに撤退するように」
「シルヴィア先生にも攻略できないダンジョンがあったんですね」
「ああ、だから願わくば私と共にダンジョンを攻略しに行こうではないか。私の教えられることも残り少ない。攻略できた時最終試験を完全に突破したと思っていい。私もお前に私を超えてほしいと思ってるからな」
「そこまで信用してくれてありがとうございます。俺、頑張ります」
俺は、もう一つ目の呼び名の無いダンジョンの攻略に向けて気合を入れた。そうして今日も座学をエレンと行って、楽しく学生生活を送っていた。
「ルーク。また、あの噴水の場所に行こう」
「そうだなエレン。あそこならイチャイチャしていても見られてないし」
「あんなにきれいな場所なのに何でいつも人がいないんだろうね」
「そういえばそうだな。何でだろう」
「あそこはそういう風に作られてるからだよ。ルーク、エレン」
「マチルダ。そうなのか」
「ああ、あそこには空間魔法が使われていて昔からカップルの集まる場所にしてある。ここには結婚相手を探しに来る人物もいるからその配慮としてあそこがあるんだよ」
「そこにマチルダが入れたのはどういうことなんだ」
「カップルの絆を試すために入る者は拒まない魔法らしい。私はそうして入って来たということさ」
「もう、あんなことはしないでねマチルダ。恥ずかしかったんだよ」
「分かってるさエレン。まあ、悪意のある人間はあそこを認識すらできないから避難所にもなるんだけどね」
「ありがとう。マチルダ。ってことで俺達は行ってくるけどアムネシアはどういう処分をされるんだ?」
「一応蘇生して奴隷落ちだそうだ。この国の王の命令だそうだからそう簡単には覆らないだろう」
「待て、生き返ったのか」
「ああ、魔法ではそういうこともできる。アムネシアには奴隷として働いてもらってその罪を償ってもらう予定なんだそうだ」
「王女の身分から奴隷に落ちるか。敵国に負けた時じゃなければほとんどないシチュエーションだな」
「まあ、あの王女は何年か前に何かにとりつかれたように変になった話だから元はそうじゃなかったらしい」
「そうなのか」
俺の転生とは違い憑依しての転生なら、本物のアムネシアが可哀そうな気もするが、今のアムネシアは転生者だ。ゲームの知識を知る者だがその知識が枷になって判断力が鈍ったのかは分からない。だが、日本の常識でも人を奴隷にすることはいけないことだという倫理観はなかったのだろうか。
「あの王女は悪事を企てていたのは前からの事のようでな。裏で魔女狩りともつながってたらしい」
「捕らえておいて良かった気がする。あのままじゃ何をしでかすか分からないし」
「ルークの判断は正しかったというわけだ。私達ではあの魅了に対抗できなかったかもしれないしルークがいて助かったよ」
「俺は魔女狩りの奴らは許せないと思う。人を相手に非人道的な実験を行ったりする奴らだしな」
本当は何よりエレンが心配だからなのだが、エレンが魔女であることを伏せておこうと思い話さなかった。こうしている間にも聞き耳を魔女狩りの輩に立てられていたら良くないと思ったからだ。
「ルーク。行こう」
「ああ、暗い話になったけどエレンとは明るい話をしよう」
「魔女狩りは怖いけどルークがいれば大丈夫かなって私は思うよ」
「そうだな。ルークがいれば案外大丈夫だと思う。それにその強さなら魔王にも敵うかもしれない」
「俺はもとより魔王より強くはなろうとは思ってるよ」
「一体何と戦おうとしてるんだルーク」
「エレンと敵対する全てを相手しても守れるようになりたい」
「それは過保護じゃないか」
「そうかもしれないが、俺はエレンを守りたいと思ってる」
「ルーク。そう言ってくれるのは嬉しいけど無茶はしないでね」
「大丈夫。次もっと厳しいダンジョンに行くけど笑って帰ってくるからさ」
「約束だよ」
「ああ、約束する」
俺はこの後エレンと噴水に行ってディープキスを何分もしたその時に互いに抱き合っていた。唾液が交じり合いほぼお互いが交換し合ったと思われた時にその唇は離れる。
「ルーク。ずっとずっと大好きだよ」
「エレン。愛してる永遠に」
俺は互いに見つめ合いながら言った後もう一回ディープキスをした。今回もお互い抱き合っている。この時間が永遠に続けばいいのにと俺は思った。エレンは顔が紅潮している。きっと俺も同じだったと思う。この暖かい時間は長いようでとても短く感じた。もっとエレンとはしていたかったと思った。
「帰ろっかルーク」
「ああ、今日もありがとうエレン」
「こっちこそ。ルークありがとう」
こうして俺達は昼休みを終え授業に戻った。この幸せがいつまでも続くのを願いながら。
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