第8話 幼馴染み

 魔法の訓練の授業の後は座学だった。この時間は講師によれば楽しい授業なのだろうが、そこまで面白くない話をする講師だったので退屈だったが平穏だと思った。席はエレンと隣同士だ。というか好きな席に座れるので前世の学校の時とはそこが大きな違いだった。近くにはアルティもいる。授業の内容は講師の説明が下手であまり入ってこない。ノートに先生の出した重要そうな部分を書き出してその日の授業を一個終えた。


「ルーク。もう大丈夫なの?」

「ああ、先生との訓練の時はこんなの普通だったし。もう大丈夫だよ。心配してくれるのは嬉しいけどさ」

「何かあったら言ってね。力になれたらなるから」

「ありがとう。俺は頑張ったからエレンとのラブラブな時間を過ごすことを所望します」

「っ。恥ずかしいよ。人がいるでしょ」

「またあそこの噴水でどう」

「そうだね。あそこなら」

「二人ってラブラブだね。私のことなんて見えてないのかな」

「わっ。アルティ。びっくりした」

「私も話くらいは混ぜてよ。友達なんだしさ」

「そうだな。アルティも混じりたいよな」

「アルティ。何かして遊ぶ?」

「そうね。って言っても休み時間あとちょっとよ」


 そう言っている間にチャイムが鳴る。次の授業の時間になった。アルティとの交友はこれから考えていこうと思う。次の授業も座学でほとんどが授業は座学だった。休み時間にアルティにしりとりを教えやっていた。この世界にはしりとりがないらしくエレンもアルティも面白そうにやっていた。そうして一日が終わろうとしていた。俺は流石に女子寮までは行けないので男子寮に行った。


「ちょっといいかお前」

「お前はアレスか。何のようだ」

「お前はあの赤髪と恋人なようだが。警告しておく。あれは魔女だ。今すぐ縁を切れ」

「そんなことはしないね。俺はエレンのために生きている」

「はあ、魔女はこんなにも人をたぶらかすのか」

「さっきから魔女魔女言ってるけどそれの何が悪いんだアレス」

「魔女は魔王が復活するために依り代になったり、魔王に添い遂げたりする奴のなるジョブなんだよ。そんな不吉な奴にこれ以上関わるなと言っている」

「俺はそんな運命がエレンに待ち受けているならその運命ごとぶち壊してやる」

「切る気はないようだな。なら俺はお前を敵として認定する」

「お前で俺に勝てるとでも?決闘してやろうか」

「くそ。なんで俺には力がないんだ」


 こうしてアレンは逃げ去って行った。そこへ白髪紫目の美少年が現れる。


「あいつはどうしてああなんだ。アルティのこともいじめるし、君も大変だな」

「君は1組にはいなかったね」

「クリスっていうんだ。クリス・ラバー、それが俺の本名だよ」

「クリス君か。俺はルーク・ジルベルト。アルティってさっき言ったけどどういう関係なの」

「幼馴染さ。俺は魔法も勉強もできなくて4組なんだけどその先にアレスがいてとてもむかつくんだよ」

「俺もエレンと離れ離れは嫌だな。なら魔法を訓練するの手伝ってやろうか」

「いいのか。俺は貴族の中でも低い位だぞ」

「貴族の位なんて関係ない。それにお前はアルティの幼馴染なんだろ守りたいと思って当然だ」

「そう、かな。これは秘密だけど。俺、あいつを少し好きっていうかなんて言うか、そうだっていうかそうじゃないっていうか」

「気になってるのか」

「そうそう。でも俺は彼女から離れてしまった。昔みたいに話していたいよ」

「なんか原因があるのか」

「ある時嫌がらせに会って俺とアルティが会えないようにされたんだ。あった日にはアルティの靴に画びょうが入っていたりした」

「それは酷いな。でもお前がいてやった方がいいんじゃないか。アルティは孤独だったみたいだぞ」

「俺がもっと強ければよかったんだ。強ければお前みたいにアレスを退けられる。だけどその時俺は退けられなくてアルティの方から俺を傷つけまいと去って行ったんだ」

「訓練は今からでいいか」

「してくれるのか。なら今から頼む」


 俺はクリスに同情していた。そして俺はアレスというふざけた人間を放っておけなくなった。次会った時にはボコボコにしたいと思ったが、それについてはやめることにした。アレスは確か身分は高い。それにアレスをボコボコにするのはクリスの役目だとも思ったからだ。そうして、俺はクリスに魔法を教えた。だが、魔法が一切使えていなかった。


「どうしてなんだ。一体何があってこんなことになるんだ」

「分からない。昔からこうだったんだ。医者には病気って言われてるけど俺は魔力が使えないって言われた」

「そうなのか。何かもっと俺も考えるよ。魔力なしでも強くなれる方法とかさ」

「ありがとう。でも何で俺にそこまでしてくれるんだルーク」

「俺が弱かったらお前みたいになってたかもしれないからさ」

「はいはい。そこの話してる方々。そろそろ門限ですよ。早く領に戻ってください」


 先生に言われて俺達は急いで領に行く。共同部屋だった。


「おう、お前が的を壊した奴か。よろしくな。俺はカイル・ジルコニア。4組の落ちこぼれだ」

「よろしくカイル。俺はルーク・ジルベルト。俺が的を壊した奴で合ってるよ」

「そうかい。まあ楽しくやろうぜ。っていうか俺カレー作ってんだよ。手伝ってくれ」

「分かった」

「カレーが分かるのか」

「ああ、何を切ればいい」

「ううん。人参を切ってくれ」

「分かった」


 俺は人参を切りながらカイルの様子を見る。スパイスが置いてあり、作るのはスパイスカレーのようだった。この世界には当然のことながらカレーのルーはない。やはりスパイスから作るカレーを作るのが一般的なようだ。


「カイル。魔法が使えない奴ってどうすれば強くなれると思う?」

「え、ああ、そういう奴は剣士になったり魔道具を使うことで強くなればいいんだよ。何かあったのか」

「ああ、クリスってやつが魔法が使えなくて、俺が魔法を教えようとしたんだけど」

「魔道具を作るならお前にもできるはずさ。ちょっと難しいって聞くけどよ。魔道具は魔法を使える奴が作れるって話だぜ。にしてもクリスか。あいつも苦労してるみたいだよな。でもいいよなあんな子と親しかったなんて」

「アルティの事か」

「ああ、お前もいいよなエレンっていう可愛い子がいてよ。俺にも恋愛運がありゃいいのに」

「そういう関係を作りたいなら俺が手伝ってやろうか」

「いいのか。感謝するぜルーク。約束だぞ」

「ああ」


 俺はカイルに恋人を作ってやる約束をしてカレーを食べ始めた。


「はあ、こういう時にビールがあれば最高なんだけどな」

「カレーにビールって合うのか」

「合うさ。でもここにはねえんだよな。それよりエレンとお前ってどこまで進んだんだ」

「婚約者さ。キスも抱き合うのもしてる」

「そこまで行っちゃってるかすげえな。そんな奴が恋愛の手伝いしてくれるんならすげえ助かるよ」

「そんなに期待されてもな。あんまり期待はしないでくれよ」

「それはまたご謙遜を。期待してるぜルーク」


 カレーを食べながら話しているがカレーは美味しい。だが、期待は圧が大きい気がして期待に応えられなければどうしようかとも思った。


「まあ、気長にやってこうぜ。俺だってすぐに恋人ができるとは流石に思ってはいないよ」

「それを聞いて安心した。でもできる限り手伝うからさ」

「その言葉だけで充分さ。そういえばルークって授業中にダンジョン潜ったそうじゃねえかそれもSランク冒険者が数人で挑むようなダンジョンに」

「もう情報が行き渡ってるのか。そうだよ。久しぶりに会った先生にしごかれた」

「久しぶりって、会ったことがあるのか?」

「ああ、子どもの頃家庭教師をしてもらった人でシルヴィア先生だよ」

「ダンジョンに潜らせた人が家庭教師って......それは大変な授業だったのか」

「ああ、大変だった。でもあの人がいたから俺は学園でも強くあれている。だから感謝してるよシルヴィア先生には」

「ったく。俺には無理なことをお前は平気でやってのけてやがる。だがまあ、俺にも魔法の訓練つけてくれるか。クリスにもしたんだろ」

「ああ、いいよ。俺は先生とは違って優しく教えるから」

「頼むぜルーク」


 俺達はカレーを食べた後、ベッドで横になり眠った。こんな楽しい日々が続けばいいと思った。

 翌朝、ベッドから這い上がり、カイルを起こそうとするがまだ眠っている。俺は洗い物をして、カイルに書置きして出て行った。そして、エレンの元へ向かう。そこは噴水だった。


「ルーク。来てくれたね。ここで一緒にいよう」

「ああ。エレン。大好きだ」


 俺とエレンは抱き合う。お互いの鼓動がお互いを紅潮させる。しばらくすると離れて俺達はキスをした。下を絡め合うディープキスだ。最近覚えたのだがエレンの方が恥ずかしがっていて成功したのは今日が初めてだ。


「ルーク。愛してる」

「俺もだエレン。大好きだよ」

「ルークが、私のことを好きになってくれたのっていつごろからなの?」

「気づいたらさ。会って親しくしてるうちに気付いたらそうなってたよ」

「私もよ。ルーク愛してる」


 もう一度俺達は抱きしめあいディープキスをする。お互いが紅潮して時間が流れていく。天国があるのならこのようなところだろうと思った。死んで天国に行くと言われてもエレンがいなくては天国ではないと俺は思った。


「ルーク。もっと愛して」

「ああ、エレンももっとな」


 キスをしおわりまたディープキスをする。お互いの唾液がどれくらい交じり合ったか分からないほどにそのキスをする行為は続いた。そして、抱き合い続けながらやっていたものなのでお互い紅潮していた。


「おはようエレ、わっ。これは邪魔しちゃ」

「おはようアルティ。今いいところだったのに」

「アルティ。クリスがお前を心配してたぞ」

「クリスが......クリスには私悪いことしたのだから離れないとって」

「そうじゃない。クリスはお前と離れたくなかったらしいぞ。どこぞのアレスなら俺が追い払ってやるからクリスと仲直りして来い」

「そう......分かったわ。じゃあ手伝って、クリスをこっちに連れてきて。じゃないとアレスに何されるか分からない」

「分かった。会いに行こう」


 こうして俺はクリスをアルティの元に連れてくることになった。アレスが邪魔をしようとしてくるのは俺が止めるつもりだ。これで二人に平穏が戻ればいいと思っている。俺はクリスを呼びに男子寮に向かうのだった。






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