第6話 入学試験と2人目の友

 冬の寒さも和らぎ温かくなってきた春、俺とエレンはエレノール学園へ向かっていた。太陽は馬車の中からも俺達を照らしている。


「ルーク。楽しみだね」

「ああ、学園で魔法をもっとすごくできるかは分からないけど。エレンとの学校生活は楽しみだよ」


 そう言っている間に馬車がエレノール学園に止まる。4時間くらい馬車で走っていた。


「着きましたよお二方」

「「ありがとうございます」」


 俺達は馬車を降りる。馬車はエレノール学園の門の近くで止まったようだった。エレノール学園の建物は大きく、前世の大きい大学くらいはあった。領もあるようだが、俺達はそこで生活することになるらしい。俺達は学校の門から入った。


「今年の入学生ですね名前をこちらに書いてください」


 受付の教師らしき人物が紙を渡してくる。俺はその紙に自分の名前を書いた。エレンも書いている。そして俺達は紙を提出した。


「試験がありますので中に入ったら誘導に従ってください」


 俺は誘導に従って筆記試験会場に向かった。エレンも後についてくる。席について開始を待つ。机には裏返された試験の用紙があった。試験だがこれで落とされることはなく点数でクラスが決まるようだった。


「では、開始」


 俺は問題を解いていく。試験は俺には簡単だった。計算問題は簡単なものだったし、歴史の問題は暗記してある物が出た。他も問題なく回答出来て筆記試験はひとまず成功したと言えるだろう。そして、次に魔法の実技の試験に向かった。魔法と剣術で選択できるようだが、俺は剣術はしていないので当然魔法の試験にした。皆、的に向かって魔法を放っていく。魔法で火の玉を的に当てたり石の塊を的に当てたりしていたが、俺のと比べると威力が弱い。俺は初級魔法を全力で放って点数を稼ぐことにした。


「次、ルーク・ジルベルト」


 俺は土の初級魔法ストーンバレットを全力で放つ。石の塊が音速で飛んでいき的を破壊した。その際すごい音がして周りが騒いだ。やりすぎてしまったかもしれない。


「まさか、君、どこでこんな魔法を覚えたんだ」

「家庭教師がすごい人だったんで」

「あの的ってオリハルコンでできてるんじゃなかったけ」

「それを一撃であんなに」


 騒ぎは大きくなっていく。俺はそんな中試験を終えた。試験結果は翌日発表されるらしい。それまでエレンと一緒にいようと思いエレンを待った。


「ルーク。終わったね。やっぱりルークの魔法は凄いよ。あんなことができるなんて」

「エレンはどうだった?上手く当てられた?」

「私は的には当てられたけどルークほど凄いことはできなかったよ」

「一緒のクラスになれるといいな」

「うん。私試験の方には自信があるよ」

「俺もだ」


 この自信が正しければいいが、それは確認のしようもない。分かるのは明日だ。俺達はたわいもない会話をしながら校内を歩き回った。校内には噴水がある場所があってそこに二人で座る。


「この噴水綺麗だね」

「ああ、2人で見るのにはいいな」

「うん。ここで一緒にいるのはいい感じ。ルーク、ちょっと目瞑って」


 俺は言われた通りに目を瞑った。すると唇に温かい感触がした。


「今は誰も見てなかったし、これくらいいいよね」

「秘密だぞ。でも俺は嬉しいよ」


 俺達はそのまま二人だけの時間をその噴水で過ごした。だが、俺は急に人の気配を察知して身構える。


「エレン、人が来た」

「そうなの?誰かな」

「そう警戒しなくてもいいのではないか。そのまま続けてくれていても良かったんだがね。私は風紀委員のマチルダ・アロンダイトだ。風紀が乱れていることを直感で悟ったがこうもイチャイチャされてはな」

「見てたのか」

「否、お前に察知されて見てはいないよ少年。名前は何という」

「ルーク・ジルベルトだ」

「ルーク、戦うの?」

「いや、まださ。話し合いで解決できるならそうしたい」

「ほう、だが、この学園は実力主義でね。ルーク・ジルベルトに決闘を申し込む」

「マジかよ。何が目的だ」

「上級生の威厳をここで示さなくては何になる。決闘で私が勝ったら学園にいる間は君たち二人でイチャイチャするのをやめてもらう。負ければ私が言うことを何でも聞く。それでいいか」

「はあ、あなたに言うことを聞いてほしいわけじゃないんですが」

「決闘しないのか?我々風紀委員はいかがわしい行為をしたと思われるなら貴様らを追尾する権利はある。そのまま実行してもいいのか」

「分かったよ。決闘する」

「ルーク、怪我しないでね」

「大丈夫。エレンの応援があるんだからな」

「ルークったら」


 エレンが顔を赤くしながらこちらを見る。俺はマチルダとの決闘を行うことになった。


「審判はその赤髪の女がするように」

「エレンだ。彼女の名前は」

「おっと失礼。では始めの合図をくれエレン」


 エレンは動揺しながらも俺達の真ん中に立つ。そして、開始の合図をした。


「始めてください」


 その言葉と共に俺はマチルダにストーンバレットを放つ。ものすごい音がしてマチルダが吹っ飛んだ。マチルダは血を吐き出し吹き飛んだのだった。そして、大木に思いっきりたたきつけられた。


「やばい。こんなに弱かったのか回復魔法を使わないと」

「ルーク。勝ったけどこれはやばいと思うよ」

「エレン、マチルダ先輩を回復させるの手伝ってくれるか?」

「うん」


 俺はマチルダに駆け寄り回復魔法をかけた。傷がみるみる塞がっていく。


「あのさ、ルーク。私がマチルダ先輩を持ってこうか」

「いや、その必要はない。素晴らしかったぞルーク」


 マチルダは気を失っていたわけではなかったようだった。そのままマチルダは立ち上がる。


「約束通り何でも言うことを聞くぞ」

「なら、これから風紀委員が狙ってくるのを牽制してくれ」

「分かった。とは言えその実力なら風紀委員程度なんてことないのではないか」

「マチルダ先輩。あんたは風紀委員の中でどれくらいの実力なんだ」

「上の方だよ。君はさらに上をいくだろう」

「ルークはやっぱりすごいな」

「とにかく。これで君たちを邪魔する者はいなくなったわけだが、ルーク、私とも友達になってくれないか」

「はあ、いいけど」

「そうか。ありがとう。先輩としての敬語もいらない友達として扱ってくれ。君の方が強いのだし」

「わ、分かった」

「ちょっと。ルークが困ってるじゃん。マチルダ先輩、ルークから離れて」

「先輩はいらないぞエレン。君とも友達になろうと思ってるからな」

「えっ。いいの?」

「もちろんさ」


 思わぬことでエレンに友達が増えた。学園ではこういうことがあるのかと感心していると、マチルダは俺に近寄りそれをエレンが跳ねのけた。


「いいではないか。友達なんだし」

「距離が近すぎ。ルークは私のもの」

「そんなものかな。だが気を付けるんだぞ。今年の入学生に魅了する目を持った女子生徒がいるらしいからな。そいつは王族で権威も高い」

「待ってくれそれって」

「ああ、アムネシア・フォン・シルヴェニア。この国の第三王女だ」


 ときめき王女様のゲームの主人公アムネシアだ。魅了を使うとはゲームには書いてなかったが、ゲーム内でそれが知れていたらやばい奴として認識されていただろう。まあ、原作者が主人公が魅了を使えるとは書けば人気は下がるからだろうかこのような美化はゲームでもしかしたらもっとされているかもしれない。注意していこうと思った。俺は魅了を防ぐ魔法は使えるが、エレンがもし使われたら大変だろうと思った。


「ちなみに魅了って他の奴で使える奴はいるのかマチルダ」

「詳しくは分からないが、王子ジゼリウスも相手によっては使ってくるらしいぞ」

「そうなのか。ならエレンに魅了から防御する魔法をかけないと」

「エレンは確かに可愛いがな。ジゼリウスに魅了されるとは思えんがな」

「ルーク。例え魅了されてもルークのことは大好きだからね」

「よし、かけるぞ」


 俺はエレンに魅了を防御する魔法をかけた。これが続くのは一日程度だ。ジゼリウスは確か攻略対象の一人だ。ゲームではエレンに厳しく当たりアムネシアに甘く接していたが、実際はどうなのだろうか」


「私もいいけどルークにもその魅了を防御する魔法掛けてね」

「そうだな。分かった。俺が魅了されたら仕方がないからな」


 俺も俺に魅了を防御する魔法をかける。これで一日は魅了にかからない。エレンが心配してくれているのは嬉しい。そして俺はエレンの心配もしている。お互いが思いあうが故にこういう行動をとっているのだった。


「ふう、これで安心かな。ルーク、他の女の人に靡いちゃ駄目だよ。ずっと私だけを見ててね」

「エレンは独占欲が強いな。それだけルークが大切なのか?」

「大切だよ。私の中では一番大切だもん」

「そこまでか。愛が深いな。ルークの方はどうなんだ」

「当たり前だ。俺もこの世界で一番エレンが大事だよ」

「両想いが凄いな。まあ、カップルなのだし普通なのかもしれないな」


 マチルダが俺達に愛の程度を聞いてきたが俺にとってはエレンが言った通り一番好きだった。エレンもそう思っていてくれて嬉しいと思った。


「ルーク。マチルダが友達になってくれるって言ったけどやっぱり貴方が私の一番」

「ありがとう。でもマチルダも大事にしてくれよ」

「うん?どうしたんだ?友達いないのか?」

「マチルダには言ってなかったがエレンに俺以外の友達はいない。髪の色が原因で避けられててな」

「そうだったのか。髪の色より人の人格でその人間は決まるのにな」


 マチルダはエレンが友達がいない理由を聞いて悶々としていた。彼女の正義感からなのだろうか。


「なあ、マチルダは何で風紀委員に入ったんだ」

「昔の話だ。私は悪党に親を殺されてな。その悪党は殺せれば誰でもよかったらしい。この悪を成敗するのには正義が必要だと思って今の仕事をしている。まあ、さっきの介入は私も不本意だったんだがな。負けて良かったよ」

「それでも俺達を襲ってたけど。勝ってたらどうしてたつもりだ?」

「それでも注意だけしただけだと思う。思いあってる人間を邪魔するのは正義だとは思えない」

「そうか。これからよろしくなマチルダ」

「よろしくねマチルダ」

「おう、そうだな」


 こうして俺達は風紀委員のマチルダと友達になった。エレンと共にこの世界に来てから2人目の友達だった。

 

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