第5話 婚約

「で、君を呼んだのはエレンとの婚約の件なのだが」

「はい、ランス伯爵。俺はエレンと結婚するつもりです」

「君にそう言ってくれるほど愚女は価値があるのか」

「価値などではありません。私との交流が深くお互いが愛し合っているからです」

「なるほど。次代の英雄となりうる君が言うか。だが、赤髪だぞ」

「彼女のその部分も俺は愛しています」

「そこまで愚女が好みか。本来ならもっといい姉たちをお前に与えようと思っていたがこちらとしては助かる。早速婚約を取り付け始めよう、正直愚女の処理に困っていたんでな」


 俺は婚約をしようとした数日後、ミレルアルカ家に呼び出された。それでこうしてエレンの父ランスと婚約について話をしていた。話は順調に進んでいる。エレンはやはりこの家で相当低く見られているようだった。その点に関しては気に入らなかったが、このエレンの父は俺とエレンを結婚させてくれるようだ。これは喜ぶべきことだろう。この家からエレンを開放してやれる。


「結婚はお互いが成人してからでいいな」

「はい、ありがとうございます。ランス伯爵」


 内心この父親にイラついていたがそれは隠しながら丁寧な態度で笑顔の仮面を被る。ここで怒ったところで何も得られることはないと思う。それよりかはこのエレンを馬鹿にしている父親を利用して結婚まで進めるのが得策だろう。これで話は終わりだ。俺はエレンを連れて外に出る。これからは屋敷に入ることもしてもいいらしい。だが、その場合は慎重にするのがいいだろう。


「ルーク、ちょっと怒ってる?」

「ああ、エレンの親父さんがエレンに対して酷い気がするからさ」

「そうなのかな。親ってそういう物だと思ってた」

「俺の家族を見てれば分かるだろう。俺は大事にされている。それが普通だと思うんだ」

「私はあの人に逆らうのはちょっと怖い。でも、ルークと結婚させてくれるのは感謝してるよ」

「エレンはそれでいいのか」

「私は親はいいよ。ルークがいてくれればいいもん」


 エレンもエレンで親への愛は無いようだ。俺への愛情が深いことは嬉しいが、現在でエレンが心を開いている相手は俺だけになる。それは少し不安なことだった。俺がいなくなった場合、彼女はどうするのだろうか。俺とは他の友達も作ってくれたらいいのかもしれないが、この町ではエレンは赤髪であることを理由に避けられている。今は俺が寄り添ってあげなければいけない。もちろん仮にエレンが俺以外の友達を作ったとしても寄り添い続けるつもりだが、今エレンを一人にしたらいけない気がした。そういえば、エレンには昔友達だったと言っていた猫がいたらしいが死んでしまったという。そのことについて少し聞いてみたいと思い聞いてみることにした。


「なあ、エレン。昔猫と友達だったって言ってたけど。どんな感じだったの」

「あの子は私が寂しい時にボロボロになってたところを助けて仲良くなったの。野良猫だったんだけど、私が定期的にご飯を持って行った。でも病気になって死んじゃった。家ではペットは禁止らしいから病院にも連れて行きたかったけど子どもで何もできなかった。もっとあの子とも一緒にいたかったな」

「その猫と友達だった以外には友達は?」

「ずっと孤独だった。声かけてくれる人って言ったらいじめてくる人ばっかりだし。私は孤独から逃れたかった。でもそんな時ルークが来てくれた。そういうルークはどうなの」

「俺も友達はエレンだけだけど、友達はいることはいたんだけど」

「それはどういう友達」


 俺はエレンに前世の話をするか迷った。だが、エレンに隠し事はしたくないと思い思い切って話すことにした。こちらの世界に来てからの初めての友達であり恋人である彼女には隠し事はしないことにした。


「俺な、前世の記憶があるんだよ」

「えっ。それってルークって転生者ってこと」

「そういうことだ。他の人には秘密でお願い。エレンにしか言ってないから。エレンには隠し事したくないんだよ」

「えへへ。私だけね。それで転生前に友達がいるってことなのね」

「そう。友達にはまあまあ恵まれた人生だったけど恋人はこっちに来て初めてできたかな」

「私がルークの初めてか。いいな」

「それでさ。俺はこの世界を元の世界で物語として知ってるんだよ」

「そうなの?どんな話?」

「王女様が恋愛する話だよ」


 俺はゲームについて話したが、エレンが悪役令嬢であることには触れなかった。エレンを無駄に傷つけたくなかったからだ。エレンに隠し事は無しと言ったが無駄に傷つけたいとも思わない。それにゲームでのエレンとは今のエレンは違う。ゲームでは孤独ゆえに人を傷つけていたが今は俺がいる。


「へえ、そんな話が元いた世界であったんだ。その作品書いた人って何者なんだろうね」

「確かに。今まで疑問に思ってなかったけどそうだな」


 作者というよりは製作元の会社が作っているのだろうが、どうやってこの世界の情報を得たのだろうか。真相は闇の中だが、こればかりは調べようがないと思う。それはさておき俺は秘密をエレンに打ち明けエレンと前世についての話をしていたが、俺の話は明るい話でとても盛り上がった。


「ルークの転生前の世界ってだいぶ面白そうだね」

「こっちにいる人からすればそうかもしれないけどこっちの世界には魔法があるから俺は最初にそれにこっちの凄さを感じたよ」

「私からすれば魔法無しでいろいろできちゃうルークの元いた世界の方が興味深いよ」

「こっちの人からすればあの世界はそうかもしれないな。こっちで魔法無しっていうのは考えられない生活になってるしな」


 こちらの世界には魔道具と言われる魔法の力で動く品がある。それが元の世界での家具替わりのようなもので食べ物を冷蔵したりするなど生活用品になっている。生活以外にも魔道具はあるが、主なものは生活用品だ。戦うための魔道具もあるが魔道具を使って戦うよりも強い魔法使いを育てる方が戦いにおいては効率がいい。兵器として魔道具を開発している国家もあるとも聞くが今のところは魔法使いを兵士として使う方が理に適っている。


「ルークのいた世界って不思議。魔力なんて感じたことも無かった人が今は魔力がとても高いし」

「これはシルヴィアさんに鍛えられたからだよ。今日も魔法の特訓やる?」

「うん。少しでもルークに追いつきたい」


 こうして、俺達は魔法の特訓を始めた。俺がエレンに指導していく形でいつも行っているが今日もそうしている。火の魔法を的に当てる練習をしたりして、俺も強大な魔法や基礎の魔法どちらも練習した。強大な上級魔法を使った際には下手に行えばクレーターができたりするのでそこらへんは注意して行った。


「はあ、はあ。やっぱりルークの魔法は凄いな。もっと頑張らないと」

「あんまり無理はしないでくれよエレン。何なら肩貸そうか」

「ありがとう。でも肩貸すんじゃなくて抱っこしてくれる?」

「いいよ。エレン愛してる」

「えへへへ。私もルークのこと愛してるよ」


 エレンは俺に抱っこされ俺はそんなエレンにそのまま口付けをした。恋人としてだいぶ慣れてきた気がする。このように数日でエレンも積極的になってきた。数日前まで恥ずかしがっていたのが嘘のようだ。そんなふうにふるまっているエレンが可愛くて。俺はつい手が出てしまうのだった。草原で一緒に寝たこともあるが、外なのであまり深くは行わなかった。それにまだ婚約なので抱き着いたりキスしたりする程度までということになってはいる。一線を越えるのは結婚するときと決まっているらしい。俺達はそれまで行為に関しては我慢するが、この後たくさんキスをしたり抱き合ったりしてイチャイチャした。

 そんなこんなで日はあっという間に沈んでいった。俺はエレンとたくさん遊び修業しイチャイチャし、エレンを家まで送って行った。


「じゃあね。ルーク、また明日」

「エレン。じゃあな。また明日会おう」


 俺はエレンを見送った後家に走りで帰ってマリアに出迎えられた。


「お坊ちゃま。お帰りなさいませ。今日もエレン様とラブラブな日を過ごしたのですか」

「ああ、俺達はラブラブだよ」

「弟のアンディー様にも接してあげてくださいね」

「そうだよ。兄上、あの人とラブラブなのはいいけど僕の魔法も教えてよね。僕は外に出られないんだから」

「アンディー。家庭教師は雇ってないのか」

「雇ってるけど。僕はもっと派手に魔法を使いたいんだ。兄上みたいな上級魔法とか」

「アンディー。それはまずは初級魔法や中級魔法ができてからだ。基礎がしっかりしてないと上級魔法は使いこなせないし魔力の消費も大きい。それに初級魔法でもすごいことはできるんだよ」

「何、見せて兄上」

「訓練場に行くぞ」


 俺は弟のアンディーを連れて訓練場に向かい的に向かって土の初級魔法ストーンバレットを目にもとまらぬ速さで撃った。銃撃よりも速いそれはアンディを驚かせた。


「凄いよ兄上。あれで初級魔法?」

「そうだよ。初級魔法でも極めればこれくらいできるんだ。家庭教師に言われていることを守りながら頑張るんだぞ」

「すごく速くて見えなかった。兄上、ストーンバレットであんなことができるならお父様より強いんじゃないの?」

「やってみたことないから分からないけど。多分そうだと思う。でも父さんと戦おうとは思わないな」

「それをやってくれたらこっちの方が困っちまうな」

「父上。来てたんですか」

「ああ、それよりルーク。ランス・フォン・ミレルアルカはどんな反応をしていた」

「エレンに対する態度が酷いと思いました。俺に対してはもっと優秀な姉をやってもいいほどだという評価を得ました。でもエレンが見下されてて腹が立ちました」

「そうか。だが、なぜお前がそこまで欲しがられるのだ」

「シルヴィアさんが関係してるらしいです」

「なるほどな。シルヴィアか。英雄となりうるとでも言ったのかもしれないな」

「エレンをこの家で生活させる日を待ち遠しく思ってるよ。父さん。父さんは母さんとどうして結婚したの」

「政略結婚だよ。だがお互いに惹かれあった。幸せな結婚だったと思う。お前はほぼ恋愛婚だ。私たちの時よりもいいじゃないか。実際俺もマルティと同じでお前たちが羨ましくなる位さ。お前もいい領主になってエレン嬢を幸せにしてやれよ」

「はい。もちろんです」


 俺は本当に幸せな結婚をしようとしているみたいだ。そのことに感謝しながらその日は休んだ。そうして幸せな生活を送ること2年が経過し、俺とエレンはエレノール学園に通うことになった。魔法学校でここに通うことで貴族同士で交流したり、魔法を訓練するらしい。俺とエレンが10歳の頃だった。





 

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