第3話 出会い

 俺は5歳になった。それまでは外では森に行って魔物を討伐することをしていたが、これで外に自由に出られるようになる。


「行ってらっしゃいませ。お坊ちゃま」

「見送りありがとうマリア。行ってくるね」


 俺は屋敷から出る。屋敷のすぐ外には町がある。町は賑わっており、人がたくさんいた。今日は町の観察でもしようかと思ったが、せっかくだし同い年くらいの子と友達になろうと思い、町から少し離れた場所の草原に行った。森に行っていた時には通らない場所を通り、町のにぎやかさがよく分かった。そうして子どもの遊び場である草原にたどり着いた時、目にしたのはいじめだった。


「この人参が。ここは俺達の遊び場だ。出てけ」

「「「そうだそうだ」」」

「うっ」


 赤い髪の三つ編みを二つに分けた緑色の目をした女の子がいじめられていた。よく見たら殴られた怪我をしている。俺は咄嗟にその子が殴られそうになるのを庇う。


「何だお前。やるのか」

「兄貴に逆らうつもりとはいい度胸だな」

「今から兄貴にやられるのを見るのが楽しみだ。正義のヒーローぶりやがって」

「大丈夫?」

「えっ。あ、ああ。大丈夫です」

「大丈夫じゃないじゃないか。怪我をしてるよ」

「兄貴を無視とはいい度胸だな食らえ」


 俺はいじめっ子の一人の拳を軽々と受け止める。そして、殴りを入れて気絶させる。同い年の子がここまで弱いとは思わなかった。俺は訓練をしていたから当然か。


「ひっ。来るな」

「覚えてろよ」

「おいお前ら、逃げるのか」


 女の子を人参と直接言っていたガキ大将らしき一人以外の取り巻きが逃げ出した。俺はガキ大将の方向に向く


「な、何だよ。そいつが悪いんだろうこんな目立つ髪しやがって」

「はあ、友達を作りに来たのにこんな奴と友達は嫌だな」


 そう言って俺はガキ大将を殴り飛ばす。ガキ大将も気絶したようだ。俺は赤い髪の子に向き直って傷を見た。そして回復魔法をかける。


「ありがとう......ねえ、君の名前は?」

「俺はルーク。ルーク・ジルベルト。君は?」

「私は、エレン。下の名前はまだ覚えきれてないけどよろしく」


 俺はエレンと聞き、この少女が前世最後にやった乙女ゲームときめき王女様の悪役令嬢と一致することに気が付いた。確か、名前はエレン・フォン・ミレルアルカだが、それを言うのは怪しまれる気がするのでやめるとして、家に帰ったら領土を調べてみることにした。魔法があると聞いて魔法以外のことは勉強してなかったので塵についてはノーマークだった。


「なあ、エレン。俺と友達になってくれないか」

「えっ、いいの?でも、私といても君に迷惑がかかるかもしれないよ。さっきみたいに」

「あんなのは大丈夫だよ。俺は自分で言うのもなんだけど強い」

「本当に友達になってくれるんだね」

「当たり前だろ」

「ありがとう」


 気が付くとエレンに涙が出ていた。孤独だったのだろう。ゲーム内でも昔いじめを受けていたという情報はあったが、髪のせいでいじめられるのは改めて残酷なことだと思った。俺はエレンにハンカチを渡す。


「ああ、涙、出てたね。ありがとうルーク」

「友達なんだからこれくらいは当然だよ」

「友達かあ。昔はいたんだけどな」


 エレンはハンカチを渡すと泣き止み涙を拭いた。そうしてハンカチを俺に返す。俺はこの暗い雰囲気のままなのも何なので子供らしく何か遊びをしようと思った。


「エレン、しりとりしないか」

「しりとり?何それ」

「ああ......順番に言葉の最後の音を取ってそれで始まる言葉を言って続けていく遊びだよ」

「面白そう。やろう」


 俺はこの世界にしりとりがなかったことを知らなかった。だが、この世界でやるしりとりは俺も新鮮だった。言葉の音が前の世界とは違う。俺達はしりとりを30分くらい続けた。その間にガキ大将とその取り巻きが起き、逃げて行った。


「覚えてろよ人参ども」

「ひっ。兄貴何なんすかあいつ」

「はあ、明日からは俺がずっとついてないといけないかもな」

「えっ、ルーク。そうしてくれると嬉しいけど迷惑じゃない?」

「大丈夫だよ。エレンは俺が守る」

「そう言ってくれるなら守ってもらおうかな。私の家に来てくれるルーク?」

「分かった。時間になったらそこから迎えに行けばいいしな」


 俺はそうしてエレンの家、ミレルアルカ家を訪れた。町を見渡せる場所にある。やはりエレンは貴族なようで屋敷は豪華なようだった。ジルベルト家よりも大きい屋敷だった。


「ここが私の家。ここに朝9時から来てくれればいいな」

「道を覚えておかないとな」

「待って、地図持ってくるよ」

「大丈夫。俺の家も貴族だから地図くらいあれば分かるはずだから」

「本当に大丈夫だよね」

「大丈夫さ。俺の家にも来てみるか?」

「ルークの家か。行ってみたい」


 俺は、エレンの家に着いた後、俺の屋敷までエレンを案内した。ここからだと結構距離がある。歩いて50分くらいしたとき俺の家に着いた。


「やっぱり迷惑かな。こんなにかかるなんて思ってなかったよ」

「大丈夫。俺は9時にエレンの家に行くつもりだよ」

「ルーク、どうしてそこまでしてくれるの?」

「エレンがいじめられてるのを俺は見てられない。それに友達だしな。それとそこまでしてくれるって言ってもまだ約束しただけだろ」

「そうだね、ルーク。約束だからね。9時に私の家に来て」

「分かった。約束する」

「それで、良かったらルークの家に入ってもいい?」

「ちょっと待ってて、エレン。家のメイドに確認するから」

「分かった」


 俺は家に入るとマリアを呼び、事情を説明した。エレンが貴族だというのを聞いたマリアは緊張しているようだった。


「坊ちゃん。まさか貴族の令嬢を連れてくるなんて。結婚相手として考えてますか」

「まだそんな年齢じゃないだろ。エレンを案内しよう」

「そうですね、坊ちゃん」


 マリアと共に家の扉を開ける。


「エレン、家の中を案内するよ」

「ルーク、よろしく頼むね」


 こうして、俺達は家の中を行き来した。父親のアーサーに見つからないようにしたつもりだが、家の中を歩いていると見つかった。


「ルーク。隣のお嬢さんは、ミレルアルカ家の令嬢か」

「やばい、見つかった」

「見つかったらやばいの?」

「いや、そうでもないけど」

「こちらの反応に答えろルーク」

「多分そうだったと思います。私、家の名前をあんまり覚えてないんで」

「何だと。こんな対応は失礼だぞルーク」

「エレンとは友達ですよ父上」

「だとしてもだ。エレン様とは上下関係をわきまえなさい。ルーク」

「あの、私は今のルーク君の呼び方でいいですけど」

「父上、堅苦しいのは無しでいいんじゃないですか。友達ですよ」

「はあ、あの家のお方にどう声を掛ければいいことやら」

「まあいいじゃないですか貴方」


 俺とエレンとアーサーの仲介に入ってくれたのは母マルティだった。貴族としての振る舞いをエレンに心がけていたらこんな口調にならないのかもしれないが、俺の思いを汲んでくれたのだろうか。


「ええと、そっちはルークのお母さん?」

「そうだけど」

「初めまして、マルティ・ジルベルトと申します。エレン嬢」

「ええと、ルーク、どう接すればいいのかな」

「そこまでエレンの地位って高いんですか母上」

「ええ、ルーク。貴方もせめてミレルアルカ家では敬語を忘れないようにね」

「分かりました」

「ルーク、私はこのままの呼ばれ方でいいよ」

「分かってる。でもエレンの家では敬語で呼ばせてもらうよエレン様」

「もう、ルーク。元の呼び方に戻して」

「大丈夫、大丈夫。エレン、元の呼び方では外では呼ぶから」

「家の外ではね。分かったわ。これも約束ね」

「ああ、約束する」


 俺は冗談を交えつつも最後にはエレンの呼び方を外では対等な呼び方で呼ぶことを約束した。そうしているうちに夕方になった。俺はエレンを連れてミレルアルカ家まで足を運ぶ。そして、エレンと別れ、家に戻った。やはり自分の家からエレンの家まで行くのには時間がかかる。帰りは途中から走りで戻ったが、それでも20分はかかった。だが、明日行き始めるのは8時にしようと思った。歩きで行っても問題ない時間だと思う。走りで行くような場所ではないと思ったのもそうだし、遅れたくはないからだ。そうして、俺の家に着いた頃には父親のアーサーから説教を受けた。


「貴族の令嬢をあんなふうに呼び捨てにするのは良くない。お前に礼節を叩き込んでやる」

「貴方、まあいいじゃないですか。本人も気にしていないみたいですし」

「私の面子がつぶれるかもしれないじゃないか。マルティ」

「父さん。エレンとの約束は守るつもりだよ」

「はあ、分かってはいる。だが、相手は私よりも上位の貴族だ。ミレルアルカ家はジルベルト家よりも統治している領土も大きい。不敬罪にでもされたらたまったものではない」

「それは大丈夫だと思う。エレンはそんなことしない」


 俺はそう断言した。父アーサーとの会話は夜遅くまで続いた。明日に響くのでやめてほしかったが、続いてしまった。だが、寝るのが遅くなっても約束は果たそうと思い6時には目が覚めていた。そこから支度をしてエレンの家に向かおうとしていた。


「行ってらっしゃいませ。お坊ちゃま」

「行ってくるね、マリア」


 俺はエレンの家に向かう。8時に出発したが、無事間に合った。予定通り10分ほど待ってエレンもやって来た。


「おはようルーク。来てくれてありがとう」

「おはようエレン。今日は何する?」


 こうして、新しい朝が始まる。昨日の草原に行ってエレンと鬼ごっこをしようとしたが、俺がエレンよりも何倍も速かったのでやめて、またしりとりをすることにした。


「しりとりって楽しいねルーク」

「ああ、でももうちょっとひねった遊びをしてもいいかもしれない」

「例えば?」

「真ん中の音を取ってやるしりとりとか、何か限定した対象のしりとりとか」

「面白そうだけど私はもうちょっと普通のしりとりをしてたいな」

「分かった。エレンがそうしたいなら」


 俺とエレンは今後共に遊ぶことが多くなった。新たな仲間ができるわけでもなく、魔法の鍛錬も欠かさず3年が経過した。俺達は一緒に神託を受けることになった。










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