第2話 修行

 俺は、シルヴィアさんの指導を受けた。だが、その指導が外でなければならないらしく4歳の俺は特別に外に出してもらった。


「これからやる鍛練は地獄の特訓だ。それを耐え抜く覚悟はあるか」

「やります」

「そうか、ならあの森でオーガキングを狩って来い」

「いきなりですか?」

「今のお前なら出来る。何せ中級魔法が余裕で出来るのだろう行け」


 そうしてシルヴィアに俺は投げ飛ばされた。文字通り投げ飛ばされ森の奥にあっという間にたどり着いてしまった。


「滅茶苦茶だ」


 体は身体強化の魔法で覆っていたためあまり怪我はしていない。だが、オーガキングというのはAランク冒険者が倒せる魔物と聞いている。俺に倒せるのだろうか。そう思っていると早速体に響くような大きな魔物の足音が聞こえてきた。これはオーガキングではない。もっと大きい魔物だった。大きな象の魔物だった。毛が生えていて象というよりはマンモスに近いだろうがそれが問題ではない。俺でこれを倒すことができないと本能的に悟った。それほど殺気が強かったからだ。


「あれはヤバい。こんな森でオーガキングを倒せって流石に無茶過ぎるだろ。でも倒さなきゃ強くなれないか」


 俺はオーガキングを探した。探したがそこはオーガの群れだった。赤い肌の巨大な人体が俺を萎縮させる。さっきのマンモスの2分の1位の大きさだ。あれを何匹も相手をするのは大変そうだった。

 だが、恐れていても何も変わらない。俺は覚悟を決めて突っ込んだ。まず、先頭のオーガの眉間に銃弾の如き速さの初級土魔法ストーンバレットを叩き込んだ。それによって一撃でオーガ達は倒れたが、次から次へと出てきた。その間ストーンバレットを打ちまくり、魔力は結構減った。最後の一匹は眉間にそれを打っても死ななかった。オーガキングのようだ。俺は身体強化魔法をかけながら体勢を立て直し中級魔法ストーンランスを眉間に放つ。だが銃弾の速さの如きそれはオーガキングの動体視力によって避けられてしまった。今度は地面を沼にする魔法を使い足を止めようとした。 だが、構わずオーガキングは向かってきて拳をぶつけようとしてきた。俺は身体強化魔法で体を強化して躱す。ギリギリで避けることができた。俺はその避けた拳に土の魔法で枷を作る。ストーンバインドという土の中級魔法だった。


「ガー」

「とどめだ」


 俺は手の自由が奪われたオーガキングに火属性の中級魔法、ファイアーランスを放った。文字通り炎の槍の魔法だ。オーガキングは焼けて暴れる。そして、土の中級魔法ストーンランスを眉間に放ってこの勝負は終わった。石の槍の魔法だったが中級魔法はオーガキングに通った。俺は勝った。

 俺は証拠としてオーガキングの目玉を取ってシルヴィアに見せに行くべくこの森をさまよった。だが帰り道の方向を見失ってしまった。このままでは迷ってしまうと思った時、シルヴィアが箒に乗って魔法で空を飛んでやって来た。


「流石ルーク君。本当にオーガキングを倒すとは」

「流石に無茶ですよ」

「無茶じゃないだろ。ルーク君は生きてるじゃないか。それにこの先こんなことが起こることも多いかもしれないよ。近々魔王が復活するらしいしさ」

「魔王......か」


 魔王と聞いてあの神様の声を思い出す。神威も別に召喚すると言っていたが、魔王はどれくらいの脅威なのだろうか。久しぶりに神威のことを思い出して会いたいと思った。思えばこの世界に来てから友達はできていない。赤ん坊の妹はいるが、まだまともに話せない。それはさておき、俺は1つ目の課題をクリアした。


「今日のところはこれまでにしよう。ちなみに今日の特訓はアーサーさんには内緒ね」

「分かりました。でもあんまり厳しくされすぎるとぽろっと口から出ちゃうかもしれません」

「君は強くなりたいから魔法を習ってるんだよね。ならそういう訓練に耐えてこそだよ。明日はもっときつくするから覚悟してね」

「マジかよ。まだきつくなるのか」


 俺はこの後、家で休んだ。ベッドが俺を優しく包み眠気を誘った。あのまま森にいたらこんなに休むことも出来ない。俺は安心感の中眠りにつくのだった。

 次の日、何やら家が騒がしかった。


「うちのルークにオーガキングを倒させただと。ふざけるなシルヴィア」

「すいません。でもその方が強くなると思って」

「貴様は今日で契約を切る。もう2度と来るんじゃないぞ」

「待って父さん。俺はシルヴィアさんに教えはじめてもらったばかりだよ。こんなに早くやめるのは嫌だよ」

「ルーク。お前はもっと安全を考慮しろ」

「だけど。シルヴィアさんの修行方法は荒っぽいけど強くなれる気がするんだ。俺はやめないつもりだよ父さん」

「シルヴィア......お前はこの子をどこまで強くしようとしているんだ」

「本人もこう言ってますし続けさせてください」

「はあ、だが1ヶ月だぞ。流石に何回も息子を危険に晒す訳にはいかん」

「1ヶ月なら充分です。その間にこの子を最強にして見せましょう」


 そうして、俺はAランク級の魔物を倒すことを1日に何回も行った。魔力が空になるまで体を動かして休憩を取ったりした。オルトロスやミノタウロスなど強い魔物をたくさん倒して魔法の精度も上がってきた。徐々にそういった中で上級魔法を教わった。そんなこんなで1ヶ月は長いようで早く過ぎ去っていった。


「ルーク君。今日は卒業試験だ。私に一回魔法を当てられたら合格だよ」

「先生に当てるのは危なくないですか」

「大丈夫。直後で結界を張るからその結界に当たったら合格だよ」

「いつからですか?」

「今からでもいいよ」


 こうして俺はシルヴィアに魔法を当てるため土の魔法を放った。易々と躱される。結界は張られていない。


「上級魔法も使ってOKだからね。それで当てられればいいけど」

「使えませんよこの家がただじゃ済まない」

「その余裕消してみようか」


シルヴィアが上級魔法を使ってきた。制御が上手く、俺だけに放たれるマグマの強大な魔法だったビームのように俺を追ってきて、俺の攻撃範囲も狭めてきた。床がマグマで溶けている。これは父さんに怒られそうだと思いつつ俺は氷の魔法を床に放ち、火を止めた。そこへまたマグマの一撃が飛んでくる。魔力はシルヴィアのほうが上だ。このままでは埒が明かない。


「ほらほら。守ってるばっかりじゃつまらないじゃないか。攻撃してみなって」

「しますよっと」


 俺は氷の塊をシルヴィアに打つマグマの勢いでその威力は小さくなっているがその粉末はシルヴィアに届きそうになる。


「ふう。これは流石に攻撃とは言えないね。もっと強いのを出しなよ。それこそ上級魔法みたいな」

「やるぞー」


 俺は上級魔法、ウォーターストームを放った。水で竜巻を発生させる魔法を使ったのだ。だが、その魔法はより強いマグマの魔法に掻き消される。


「どうした。そんなもんじゃないだろうルーク」

「ああ、おれの全力見せてやるよ」


 俺は極限まで魔力を練り上げ光の魔法を発動した。中級魔法だが魔力が超過していて威力が高い。


「なるほど。光は速いだが届かないな」


 シルヴィアは鏡の魔法を放ち光をそらした。そして鏡が俺を襲う。俺は口から血を吐いた。


「っと。回復は......もうしてるか」

「伊達に先生に鍛えられてませんからね」


俺は距離の詰まったシルヴィアに最速のストーンバレットを放った。それは光速だった。


「はあ、もうちょっと粘りたかったんだけどなルーク君の勝ちだよ」

「はあ、はあ。先生これまでありがとうございます」


 俺はめでたく卒業ということになるらしい。1ヶ月は大変だったが、強くなれた実感がある。シルヴィアには感謝の思いでいっぱいだった。


「今日で最後だねルーク君。餞別だよ」


 シルヴィアは定規位の長さの魔法の杖をローブの懐から取り出し俺に渡した。この杖は魔法を使う上で役立つのだろう。


「この杖は魔法を放つとき威力を倍増してくれる杖でね。友達の職人から買った物だよ」

「ありがとうございます。先生、俺からもありますので屋敷に来てください」

「ほう、私にもあるんだね。そういうところしっかりしてるね」


 そうシルヴィアに伝え、俺は屋敷の自分の部屋にあった買ったクッキーを渡した。プレゼント仕様にラッピングもしてある。


「ありがとうルーク君。君はこの1ヶ月でかなり成長したよ」

「先生のお陰です。ありがとうございます」


 そうして俺はシルヴィアに別れを告げた。

俺は少し寂しかったが、また会う機会はあるかもしれないと前向きに考えることにした。別れが済んだ後、父アーサー・ジルベルトに呼び出された。


「指導は終わったか。だいぶ鍛えられたのではないか」

「そうだよ父さん。できれば今後も外出の許可を出してくれると助かるよ。鈍らないようにね」

「はあ、私も心配していたんだぞ。まあ、あの特訓は強くなるためには良かったのかもしれないが外出については明日までに考えておこう」


 父は俺に呆れているようだったが、外出の許可を取れそうで俺は嬉しかった。


「それで、何で呼び出したの父さん」

「お前がどこまで強くなったか私にも見せて欲しいんだ」

「分かった。場所は訓練場でいい?」

「それでいい。相手は用意してある」

「シルヴィアさんとの卒業試験を見に来れば良かったんじゃないの」

「私はこの場所を離れられい用事があったからな。とにかく私の騎士相手にどれくらい戦えるか見せてくれ」

「分かった」


 話している間に訓練場に着いた。父の言っていた騎士は訓練場で構えていた。鎧を纏っていて顔や体は見えない


「お初にお目にかかります。私、クラウス・ボナファティウスが相手します」

「ルーク・ジルベルトです。よろしくお願いします」

「では手合わせいたしましょうか」

「はい」


 クラウスは剣でこちらに向かってきた。それを結界魔法で防ぎストーンバレットを打つ。兜の真ん中に当たった。


「見事です。アーサー様。これはもう少し威力が高ければ私の方がやられてました」

「なるほど。クラウス、ご苦労だった。ルークも実力を見せてくれてありがとう」


 父は俺の実力を知ったようだった。


「はい。これが今の俺の実力です。父上」

「その力、正しく使うように心がけなさい。じゃあ今日はもう好きにしていいぞ」


 俺は父に実力を見せた後休んだ。強くなるためにここまでやってきたが、力を正しく使うのもその通りだと思った。父の言葉を噛み締めながら休みにいくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る