俺は幼馴染である悪役令嬢を守るため奮闘する
禿鷹吟
第1話 転生と魔法の才能
夏のさんさんとした太陽が照りつける5月、俺は友人の佐藤神威と共に学校に行きながらしゃべっていた。
「なあ、太陽。ときめき王女様やったか。俺達男にも面白いゲームだぜ」
「やったよ。1日でクリアした」
「マジかよ。ってやっぱ攻略見たのか」
「手っ取り早くストーリーを理解したいからな。ゲームの全てくまなく見てった土日だったよ。でもあれって悪役令嬢の子が可哀想じゃないか?」
「確かにそうかもしれないけど主人公のお姫様もいじめられてる時は可哀想じゃないか。RPGの要素もあるし面白かったと思うぞ」
「俺があの世界に転生したら悪役令嬢のエレンを攻略するだろうよ」
「そこまでか。まあエレンの人気はあるにはあるからな。でも所詮はゲームだ。現実で彼女作りたいよなー」
俺達は恋人がいない。友人の神威はイケメンだが女子といると緊張して話せないようだった。俺は普通な外見だがこのゲームにのめり込んでしまったのは、悪役令嬢のエレンが俺の好みの外見だったからだ。クリアした後には下着姿の登場人物の絵が解放されると聞きやったが、エレンの下着姿の絵は無かった。ゲームに出てくる攻略対象の男達の下着姿だった。やはり女性向きの乙女ゲームである。
「現実に彼女作るのはお前は苦手なんだよな神威」
「そうは言っても欲しいものは欲しいんだよ」
俺達は他愛もない話をして盛り上がっていて歩道にトラックが突っ込んでいることに気付かなかった。
「あっ、神威。トラックが」
俺は神威をトラックのいないところに引き飛ばし俺だけがトラックに轢かれたのだった。そうして俺は死んだ。死んだ後何やら神威が俺を呼ぶ声が耳元に響いていた気がするが気のせいだろう。俺の魂は俺の体を抜ける。そして次の瞬間には真っ白な空間にいた。
「来栖太陽。お前の死はこちらのミスだ。本当は佐藤神威に死んでもらう筈だった」
「はっ?何だこの声。どこから響いてるんだ」
俺は白い空間に放り出された後、謎の声に戸惑っていた。俺はやはり死んだのだろうが、この声は魂に響いているようだった。
「佐藤神威は後で召喚するとして、お前には選択肢がある。このまま昇天するか、異世界に転生するかだ」
「貴方は誰なんですか。混乱してて頭が回りません。姿を見せてくれますか」
「残念だが姿は見せられない私は神だからな」
俺は混乱している頭を整理する。俺は異世界転生するかこのまま死ぬかを選ばなければいけないそれをこの神様らしき声に言われた。
「さあ、どうする」
「異世界に転生します」
「助かる。向こうの世界は危機が迫っていてないずれその脅威となる魔王とお前も戦う運命になるだろう」
その直後俺の意識は飛んだ。そして目を覚ますと、手足が短く思うように動けない。そして目の前には俺より背の高い女性が俺を見ている。寝心地からしてここはベッドだろう。転生したということは赤ん坊になっているのだろうか。
「おんぎゃあ、おんぎゃあ」
声を出そうとすると泣き声が出た。他の色々な人が集まって何か言っているが日本語ではなく聞き取れない。俺はこの世界でまず言葉を覚えようと思ったのだった。
そうして過ごしている内に言葉を話せるようになった。それまでは母親の母乳を飲むということをしていて、精神年齢が16歳の俺には嫌らしいことのように思えてしまうのだが、この体の本能もあったし、飲まなければ俺に食料はないので飲んだ。母は金髪のロングで青目の美女でマルティという母だ。この世界で一番長く接している。そしてこの世界には魔法があると知った。言葉を覚えたのでその練習をしようと思い使用人に言った。俺の家は貴族の家だった。なので家もなかなかに豪華だった。だが、5歳になるまでは外出は禁止のようだった。そして俺のこの世界での名前はルークだった。ジルベルト家なのでルーク・ジルベルト。格好いい名前になったものだと思った。
「魔法の練習がしたいのかルーク。いいぞ訓練場を使わせてやる」
「やったー」
俺は父のアーサー・ジルベルトに魔法を練習したいと言って頼んだところだった。許可は出た。後は魔法の本のことを実践しよう。俺は使用人マリアに連れられて訓練場に向かった。彼女は茶色く首辺りで切った位の長さの髪で青目の美人だった。メイド服を来てその様子は可愛らしく写った。
「ここで魔法が使えるんだねマリア」
「ええ、簡単なものであれば教えてあげますよお坊っちゃま」
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
俺は使用人のマリアから水の魔法を教わった。自分の中の魔力を感じる練習をしてからやると、すぐに結果を出すことができた。水の球体が的に辺り湿った。魔法は魔力とイメージが重要なようだった。
「も、もうできたんですか。アーサー様に言わないと」
「そんなに凄いことなの?」
「イメージといってもそんなに簡単にはできない筈です。坊っちゃんには魔法の才能があるようですね」
俺は才能があると思われたらしいが、前世のイメージ力によるものだろうと思った。だが、そんなに難しいイメージだろうか。マリアは父を呼びに行ってしまった。俺は自習していくことにした。魔法書に書かれていることは魔法の理論と実践が少しだった。初級の魔法書なので実践で難しそうなものはなかった。
「火の魔法はまずいかもしれないから次は土かな」
俺は石が的に飛んでいくイメージをして魔法を放つ。魔力の消耗と共に石が飛んでいった。
「すごいすごい。もっと色々試したいな」
そう言って魔法書をまた読もうとした時、父親とマリアがやってきた。
「これは土魔法か。それに的が湿っている。水魔法も使えるのか」
「イメージしたら普通に使えたよ」
「ほう。なら魔力を上げる練習をせよルーク。お前は将来立派な跡継ぎになってもらうつもりだからな」
「分かったよ父さん。俺は魔法をたくさん使えるようになってこの領地を守る」
父親に言ったのは俺がジルベルト家の長男だからだ。将来この家の跡を継ぐことになるのだ。
「まあ、8歳になるまでの神託まで待っていい加護をもらえたらその地位も確立するがな。魔法の練習に励むといい」
「ありがとう父さん」
「それと今はいいが外では父上というんだぞ。そして敬語も忘れずに」
「分かってるよ。貴族は敬いが大事なんだよね」
父、アーサー・ジルベルトには貴族が上の立場の者を敬うことの重要さを聞いていた。そういう社会らしいがそういうのがあまり得意ではないのでできれば避けたいところだった。だからといって俺は長男。その立場から逃げるわけには行かない。
そうしてその日は魔法を打てるだけ打ち、魔力の限界まで打って休んだ。子どもの立場はいい。いつもが休み時間なので好きな時間に休める。そして俺は自分の魔力を増やすために魔力を強くできるハーブティーを飲んで寝た。今日のような日が何日も続き、初級魔法でも強い威力の物を放てるようになったある日、俺に家庭教師がつくようになった。名前はアベル・セレス。茶髪で金色の目の筋肉質なイケメンだった。
「今日からルーク君を担当することになったアベルだよ。よろしくねルーク君」
「よろしくお願いします。アベル先生」
アベルは俺の態度を見ると驚いたような表情をしてこちらを見た。
「ルーク君は礼儀正しいね。よろしく。後、あんまりかしこまらなくてもいいよ」
「貴族は礼儀が大事だと父に聞いています」
「俺はそんなに偉くないから大丈夫だよルーク君。それより、魔法をあの的に打ってみてくれる?」
俺はいつもの訓練場で土魔法を打った。銃弾のような勢いでその石は辺り的がその石を弾いた。
「凄い。流石は......」
「どうでした」
「ああ、凄いね。ちょっとびっくりしたよ。もっと凄い魔法をこれから教えるよ。中級魔法を教えてあげよう」
「ありがとうございます。嬉しいです」
俺はその後中級魔法書をアベルさんからもらった。そしてその魔法を教えてもらい使ってみた。消耗は初級魔法に比べれば激しいものの余裕はある。使った魔法は中級魔法の土魔法、アースランスだった。
「一発でできるなんて......」
「先生、次は何ですか」
「ああ、次は」
そうして俺は次々と中級魔法を習得していった。火炎放射のような魔法に土の壁。たくさんの魔法を伝授してもらった。その全てを一発で行えた俺を見て、先生は言った。
「ごめん。もう教えることない。というか魔力がそんなにあるのなら魔法は上級魔法でも数回は大丈夫だと思うよ」
「えっ。もう終わりですか」
「教えなくても大丈夫だと思う。アーサー様にも伝えておくよ。次は俺より凄い人を雇って貰ってね」
「そんな。先生と今日会ったばかりじゃないですか」
「そうは言っても。でも短い間だったけど楽しかったよ。ありがとうルーク君」
「先生。俺も楽しかったです。ありがとうございました」
そうしてアベル先生は俺の父のアーサーに話しに行って、話は通ったらしい。俺は、次の家庭教師を待つ前に中級魔法を練習し続けた。そうして魔力ももっと高くなった。次の家庭教師は女の人らしい。この領では最強戦力と言われている人のようだった。
「こんにちはルーク君。私が貴方の家庭教師をするシルヴィア・カンターレよ」
「よろしくお願いします。シルヴィアさん」
「それと覚悟してね。私の鍛え方は鬼だから」
それを言うなりシルヴィアは魔法を放ってきた。光のレーザーのような魔法だ。それを土の壁の魔法ストーンウォールで防ぐ。
「へえ、流石ね。アベルが認めるだけある」
「シルヴィア先生、いきなり何を」
「失礼、貴方の実力が見たくてつい」
シルヴィアの銀髪が風に靡いて太陽の光を反射する。その紫色の澄んだ目はこちらの強さを見定めようとしているようだった。彼女も美人だが、この世界には美人しかいないのだろうか。
そうして俺はこの日から地獄の特訓をすることになった。それは俺の魔法を全て使ったとしてもギリギリな修行なのだが、このときの俺はそれを知る由はない。知ったら絶望するほどのことを彼女はしようとしていたのだった。
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