番外編 顔見せと舞踏会そして嫉妬1
「――顔見せ? 国王陛下に?」
「そう」
と。
リーンが素っ頓狂な声を上げたことに、ノアが平然とうなづく。
それは、ある日の夜のこと。
リーンがキルキスの王城で与えられた客室で、夜のルーティーンである
父親が、自分の婚約者の顔見せをして欲しいと言うから、今度の舞踏会に出ることになった――と。
「今度の、舞踏会で?」
「だから、そうだって」
「それはつまり――、私もでるってこと?」
「そりゃ、リーンの顔見せなんだから。リーンが出ないと意味ないでしょ」
リーン、正式に俺の婚約者になったでしょうに――と。
ノアのゴリ押しで、リーンが第三王子(つまりノアのことだが)の正式な婚約者となった後。
あの――、顔だけは誰よりも優れているが、誰よりも掴みどころのない第三王子が?
婚約者ができた?
どんな物好きだ――、いや面食いか?
と、方々で噂になっていたのだ。
まあそれはリーンの知る由のない話なのだが。
「一応言っておくけど、私、舞踏会とか出たことないんだけど」
「問題ないだろ。多分、本当にリーンのこと見たいだけなんだろうし」
作法だなんだは別に何も言ってこないと思うよ、とノアがのほほんと言う。
「……思う……?」
「仮になんか言ってきても、黙ってろって言い返すから大丈夫だって」
仮にも国王陛下に黙っていろと言えるあたりは、王子だからなのか……? とある意味感心に似た何かを思ったが、そこまで言うなら作法だなんだでこちらが責められることはないのだろうなとリーンは少し安心する。
「それを私に言ってくるってことは、ノアは私に参加して欲しいんだよね」
「うーん……」
一応、確認のために尋ねてみたリーンだったが、返ってきた返事が思いのほか曖昧な返事だったので、思わずリーンは顔を顰めた。
「……え?」
「いや、出て欲しいかと言うと……」
着飾ったリーンは見てみたいけど、人目につくところに出したくないと言うか。
まあ、こんだけ牽制してたら、さすがに命知らずなバカは出てこないと思うけど……。
と、ノアがなんだかわからないことを呟きながらうんうんと唸る。
「結局どっちなの」
「いやまあ、結果出てもらうってことで決定事項だから……」
「なんだ。じゃあ私に確認する必要なんてなかったんじゃない」
それならそれで、そう決まったとはっきり言えばいいのに、とリーンは言ったが「これはこれとして男心は複雑なんだよ」と悩ましげで顔で笑われた。
とまあ、こんなやり取りがあったわけだが。
総括して、かくしてリーンは、キルキス王室主催の舞踏会に、参加すると言うことが決定したのである。
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