第43話 エピローグ
「……本当に着いてくるの?」
「婚約者が行くっていうからね」
あれから――。
あの、マルベイユでの戦いが終わってから3ヶ月が経ち。
リーンとノアはまた、キルキス城の城門前で、押し問答していた。
あれから結局、諸々のことを終えてキルキスに戻ってきたノアは、リーンに言った通り諸外国とのやりとりを行った後『現在魔王は存在していないことが勇者によって確認された』ということを世間に公表した。
と、さらりというのは簡単だが、実際のところは相当大変だったらしい。
一連の件が済むまで、証人兼客人としてキルキス城に滞在していたリーンだったが、騎士団の訓練に混ぜてもらいながら横目で働くノアの仕事ぶりを見る限り、外交問題も相まってだいぶ難航しているんだろうなと思っていた。
そうして、キルキス城で結果を待ちながら滞在している間に、なし崩し的にノアの婚約者にさせられてしまった。
させられてしまった――、というのは外聞が良くないが、実際そうとしか言いようがないのだから仕方ない。
「気の済むようにしていいと言った」という言質ひとつで、リーンが心配していた身分差など何もなかったかのようにすべて跳ね除けて、気がついたら公的に婚約者という立場に立たされていたのだった。
正直なところ。
嬉しいか嬉しくないかと言ったら――、嬉しかった。
自分がノアに対して特別な想いを抱いていることは、自分でもわかりすぎるほどに自覚していたのだから。
色々とノアの性格に思うところもあるし、なんだかんだと文句を言いながらも、リーンはもうノアがいない人生を考えることなどできないのだ。
――それでも。
キルキス城で騎士団の訓練に加えてもらいながら、リーンにはもうひとつ、ずっと考えていたことがあった。
それは、残存する魔物――魔族たちのことだ。
王を失い、寄るべなく彷徨う彼らを、自分の力で救うことができるのではないかと。
人間になりたいと思うものがいれば、願いを叶えてやることもできる。
人に害をなそうとするのであれば、魔王はもう存在しないし、そもそも魔王自体がそれを望んでいなかったと伝えてやる。
いわゆる、残党狩りみたいなものだが。
彼らから王を奪った自分。
そして、その自分が持ちうる能力ですべき、できうることを。
実行してみるのもありなのではないかと、ずっと考えていた。
エゴだと言われてもいい。
それでも――、と思っていたリーンを、誰よりもリーンを見ているノアが気づかないわけがなかったのだ。
ある日。
「行きたいんだろ?」とリーンに向かって聞いてきたのは、他でもないノアだった。
それに対して「そうだ」と答えたリーンに対して、驚くべき速さで旅に出るためのお膳立てをしてくれたのも。
そうして、リーンの望みを叶え、旅立つ手配を整えてくれたノアと、いま再びキルキス城前から出発しようとしているのだった。
「私のわがままのために、第三王子を振り回すのは気がひけるんだけど……」
「いいんだって。みんなもう、俺が言い出したらいうこと聞かないってみんなわかってるし。それに、俺がリーンをひとりで外にほっぽり出して、おちおち安心していられるわけもないだろうに」
まあ、新婚旅行だと思って辛抱して貰えばいいんじゃないか――? と。
いつもの軽い調子でノアが言う。
その様子に、思わず胸がくすぐられて、リーンがふっと笑う。
「あー、あと一応言っとくけど。今度から宿を取るときは、ダブルベッド一択だからな」
「――は?」
せっかくいい雰囲気になりかけた場を、またしてもノアがいつもの軽口で吹き飛ばす。
「当たり前だろぉ、婚約者なんだから」
なんだったら、既成事実を作って早々に結婚してもいいし、と。
「……ノア」
いつもの調子でおちょくり出すノアを、リーンがジロリと睨みつける。
■■
こうして、各地を旅する王子とその婚約者は、やがて各地で魔物を制圧していくことで『剣聖令嬢』と呼ばれるようになるのだが。
それはまだ、先の話だ。
リーンたちの旅は、まだこれからなのであった。
- 完 -
――――――――――――――――――
【後書き的なお礼】
ここまでお読みくださり、ありがとうございます!!
なんとか、剣聖令嬢も無事完結いたしました!!
少しでも「面白かった!」等々思っていただけましたら、
この作品トップページにある「★で称える」で評価やレビューをいただけると
今後の創作の励みになります!!
今後ですが、
このお話の番外編をいくつか用意しているのでそちらを更新していく予定です。
最後までお読みくださりありがとうございました!
引き続き、次次回作くらいまでの構想はありますので、
また楽しみにお待ちいただけたらと思います。
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