第31話 魔物の増加と村人の失踪
レナードたちと無人になった村で一晩明かした翌日。
「ここもか……」
隣の村に足を踏み入れたレナードが、この村にも人っ子一人いない惨状を見てため息混じりに呟く。
あれから再びみんなで話し合い、近隣の村を回り噂でもいいから何か話が聞けないかと思って行動してはみたが、結局見つかったのは村の近くにたむろしていた魔物ばかりで、人っ子一人見つからなかった。
そのたむろしていた魔物たちを倒し、村人は無事かと急ぎ駆けつけて来たところ、誰もいなかった、というのが現在の状況だ。
「魔物が出るという噂が出回って、村人たちが逃げてしまった、とか……?」
「それにしたって、生活してた感がむんむんに残りすぎなんだよなあ」
そう言って、剣を納めながら言葉を返したリーンに対し、レナードは村の様子を見ながら反論する。
「逃げるなら金目のモンとか思い出の品とかは持っていくだろ。でもそんな感じでもないし」
作りかけだったと思しき料理。
無造作にテーブルに置かれた金銭。
血生臭さのない静けさだけが残る村。
「どうなんだろ。こういうのってさ。金目のものとか盗賊に持ってかれないように集めて整理とかしておいた方がいいのかな」
自分達が拝借することはないが、このまま放置してもいつか訪れた誰かに盗まれてしまう可能性がある。
そうならないようにせめてしまっておいてあげた方が良いのかと口にするレナードだったが、ライナスがそれを即座に否定する。
「止めたほうがいいだろな。こっちに盗む気がなかったとしても、手をつけているところを見られた時点でアウトだ」
それに、これは俺らの管轄じゃなく国の管轄だろ、とライナスが続ける。
「ま、そりゃそうだな……。リーン、その辺、ちゃんと騎士団に報告しておいてくれよ」
「あ……、うん。そうね」
言われて、自分が騎士団に報告義務があるということを失念していたことにリーンは気づく。
懐から、出発時に騎士団から渡されていた簡易報告用のメモを取り出し、さらさらと報告事項を端的に書き付ける。
それに火をつけて燃やすと、紙に書いた内容が騎士団本部にある連絡帳に転写される仕組みになっているのだそうだ。
「へえ。便利なモンだな」
「私も、今回これをもらってこんなものがあるって初めて知った。実際に使うのも初めて」
感心するレナードに、リーンが苦笑しながら答える。
「しっかし、どうしたもんか……。明らか、魔族が関わっている気がしてならないが、肝心の魔族の居場所もわからないんじゃなあ」
ライナスはお手上げだというように肩をすくめて、困り顔でため息をついた。
「魔族が村人たちを攫ってる、ってことか?」
「攫ったところでなんのメリットがあるんだか。まあでもその可能性も無きにしもあらずだな」
「とりあえず、村人がいる村を探して先回りするのが先決なんじゃない?」
ライナスとレナードの会話に割って入って提案してきたのは、それまで黙って話の成り行きを聞いていたノアだ。
「と言っても。どの村に人がいるとかわかんのかよ」
「え? わかるけど」
レナードのぼやきに、ノアがしれっとこともなげに答える。
「は?」
「人がいる村でしょ? わかるよ」
多分、あっちの方角の村はまだ被害に遭ってないと思う、とノアが指を挿しながら言う。
「は!? なんでわかんだよそんなこと!?」
「え〜、気配……?」
意味わかんねえ、と言うレナードに、ノアはきょとんとした顔のまま。
そのやりとりを見ていたリーンがふとノアと目が合ったが、合った瞬間昨日のやりとりを思い出し、バツが悪くなってばっと目を逸らした。
「なんだぁ? 喧嘩か?」
そのやりとりをめざとく見つけたレナードが、にやにやと面白そうに笑いながらリーンとノアを
「いーじゃんか。旦那が嫌になったらいつでも俺んとこ来ればいいよ。リーンみたいな美人ならいつでも大歓迎だ」
「は? 殺すよ?」
死ぬ覚悟できてて言ってんの? と言いながらリーンの腕を引いて抱き寄せようとするノアだったが、気恥ずかしさが勝ったリーンがぱっと逃れるように身を
「おろ」
肩透かしを食らったノアは、自分の手のひらとリーンを交互に見比べていたが「……ふざけてないで早く行こう」と背中を向けて歩き出したリーンに「あーい」と微笑で返して後をついていった。
■■
「おお……、ほんとに人がいる……」
ノアの示した方向に歩いてきたリーンたちは、そうして示された先で辿り着いた場所で、久しぶりに人々がちゃんと生活している村を見て、感動にも似た何かをおぼえた。
「なんか、こんなにも人がいない村を見た後だと、やたら感動すんな……」
「感動するのは後にして、聞き込みをしましょう」
しみじみと言葉を漏らすレナードに、そう言って先陣を切ったのはヘレナだ。
「私とリーンが女の人たちのところに話を聞きにいくから。あなたたちは酒場とか男の人たちが集まるところに話を聞きにいってきて」
テキパキとヘレナが場を仕切る中、リーンはヘレナに腕を取られて否と言う間も無く連れられていく。
「へ、ヘレナ……」
「相方の人と、一緒に居づらいんでしょ」
突然のヘレナの行動に戸惑うリーンだったが、そう言ってヘレナがリーンに向かって微笑んで見せてくれたのを見て、気遣ってもらえたのだということにようやく気づく。
「……ありがとう、ヘレナ」
「なにが? 私は効率よく聞き込みをする選択をしただけよ」
謝意を告げるリーンに気遣わせまいとするヘレナの振る舞いが、いまのリーンにはとてもありがたく感じられたのだった。
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