第25話 リーン、口説かれる

「大丈夫ですか?」



 魔物との戦闘が終わり、リーンは助太刀に入ったパーティーの、リーダーらしき人物に声をかける。


 

 剣士、魔術師、僧侶の3人で構成されたパーティーは、少人数ながらよく連携が取れており、リーンが入ってもその連携が崩れることなく協力しあいながら魔物を倒すことができた。



 リーンは、おそらく仲間に指示出しをしていたこの剣士の男がこのパーティーのリーダーなのだと目星をつけ、声をかけた――のだが。



「結婚してくれ」



 と。

 突如、そのリーダーらしき人物が、近づいていったリーンの手を取ったかと思うと、勢いよくひざまずいて告白をしだした。



「は……?」

「うわっ!」



 ひざまずいた男が驚愕の声を上げたのは、リーンが疑問符をあげたのとほぼ同じタイミングで。

 それは何者かが、リーンの手を握った男の手元めがけて、かまいたちのような攻撃魔術を仕掛けてきたせいだった。

 言わずもがな。その何者かというのは――。



「あっぶねえ! 何すんだ!」

「――殺すぞ」



 そう言ってノアがいつのまにか――リーンのすぐ後ろまで転移をしてきて、そのまま抱きこむようにリーンを抱え込んだかと思うと、驚いて騒ぎ立てる男の眼前で眼光鋭く囁いた。



「人のものを奪うと、痛い目を見ると教えてもらわなかったのか?」

「ノア……!」



 リーンの耳元を、ノアの響く熱い低音がくすぐる。

 思わず静止の声をあげるリーンだったが、横を向こうとするとあまりにすぐ隣にノアの顔があったため、慌てて目線を反対に向け目を逸らした。



 ――ち、近い。



 思わずどぎまぎし、逃れようともがくリーンだったが、それ以上の力でノアが押さえつけて来るためあえなく叶わず。

 逆に、もがけばもがくほどに力強くノアに抱きしめられるという事態が発生してしまう。

 


「……なんだ。……わりい、もう付き合ってたのか」

「つ、付き合ってはない!」



 その様子を目の当たりにしたレナードが二人の関係性を察したのか(察するも何も実際いまのところなんの事実もないのだが)申し訳なさそうに謝罪をしてくるが、リーンとしては付き合った覚えはなかったので強く否定する。



 ――しかし。


 

 見目麗しい男が自分のものだと主張して抱き込むのに対して、否定はしながらもほんのりと顔を赤め強く振り解けない少女。

 どう見ても、周囲から見られる光景はとてもその否定に説得力は感じられず。



「いや、隠さなくてもいいよ。俺別に、横恋慕とかするつもりないし」



 悪かったな、と言いながら、男がリーンとノアに向かって握手の手を差し出して来る。



「俺はレナード。レナード・シルヴァンだ。助けてくれてありがとな」



 レナードと名乗った男は、そう言ってリーンに向かって爽やかに握手を求めた。

 


「あ、ええ。私はリーン・セルヴィニアです。よろし……」


 

 く、とリーンが言い切る前に、差し出されたレナードの手を握り返そうするリーンの手を、ノアがぐっと掴んで阻止する。



「ノ、ノア……!」

「ダメでしょリーン。浮気だよ」



 先ほどからずっとリーンを抱き締めたままのノアが、背中越しにたしなめてくる。

「う、浮気……!?」と狼狽うろたえるリーンだったが、握手を阻止された方のレナードはわかったような顔で「はいはい。旦那の方が嫉妬深いってことね。おーこわこわ」と二人に向かって両手を上げた。



 旦那でもない! と否定をしたい気持ちはあったが、ここでそれ以上話をこじらせるといつまで経っても本題に入れないと悟ったリーンは、ひとつ大きくため息をついて気持ちを切り替えた。



「……あの、それで。お聞きしたいことがあるんですけど」

「なんだ?」



 改まって問いかけるリーンに対し、レナードは依然として気軽さを崩さぬまま先を促す。



「あなたが、神託を受けた勇者ですね?」



 と。



「ああ……、そうだな、そのとおり。俺が勇者だ」

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