第8話 一方その頃、グレイブは
「おいヨーゼフ! 前衛で全部仕留めたら、こっちに敵が来ないじゃないか!」
グレイブは、戦士のヨーゼフに向かってそう叫ぶ。
ヨーゼフはリーンの代わりに入った新しい仲間だ。
今は、冒険者協会から新しく受けたBランクの依頼の最中で、村はずれに現れる魔物退治を行なっているところだった。
まずはBランクの依頼で、新しく入った仲間の腕試し、ということだったのだ――が。
「はあ!? ってかなんで勇者が後衛にいんだよ!?」
前衛アタッカーが戦士1人とか意味わかんねえだろ!? とヨーゼフが吠える。
「変に仕留め損ねてこっちがやられたら元も子もねえんだ!! お飾りの勇者なら家で布団でもかぶってろ!!」
クソが! と叫びながら、ヨーゼフは魔物を倒し続ける。
その言葉に、グッ、と歯噛みしたグレイブは、剣を強く握り直し一歩前へ踏み出そうとする――も、結局はヨーゼフが撃ち漏らした魔物に怯み、元の場所で構え直す。
「チッ……! 腰抜けが……!」
横目でそれを見たヨーゼフが、グレイブに向かって聞こえるか聞こえないかの大きさで悪態をつく。
それに対して、グレイブは苛立ちを覚えないではなかったが、ヨーゼフが撃ち漏らした魔物がグレイブ達に襲いかかってきたためそちらに意識を向け直す。
「この……っ!」
グレイブが剣戟を振るうも、いつもは簡単に倒せるはずの敵が倒れない。
「きゃっ……!」
「おい! 何やってんだよ! 後衛が崩れたらこっちはもっと状況がキツくなるじゃねーか!」
グレイブが倒せなかった魔物がアニーに襲いかかったことで、ヨーゼフの前にいた敵を牽制していたアニーの魔術も止まる。
「あっ、いま回復を……」
「ほっとけ! かすり傷の治療より先にやることがあんだろーが!」
軽い怪我をしたアニーを回復しようとする僧侶に、ヨーゼフが怒声をあげる。
確かに、状況が劣勢な今、優先すべきは致命傷でない傷の回復よりも、魔物の攻撃を妨害するか、味方の攻撃力を底上げする方が先であった。
「す、すみません……」
気弱そうな僧侶が、ヨーゼフの怒声を受けてもたもたと援護に回る。
「なによ! あんたが仕留め損ねるから後衛が崩れるんでしょうが!」
「お前がノーコンでろくに援護もできてねーからだろーが! どいつもこいつもクソしかいねえ!」
そんなことを繰り返しながらようやく魔物を討伐した時には、全員が全員、満身創痍という有様だった。
「はあ……。勇者パーティーって聞いてきたから、期待してきたのによお……」
大振りの得物を背中に背負った鞘に収めながら、ヨーゼフがぼやく。
そこに、グレイブがパーティーのリーダーとして(業腹なのをおさめながら渋々ではあったが)、ヨーゼフを窘めるべく声をかけた。
「……君の言い分もわかる。しかし、僕は君と違って代わりがきかないんだ。だから悪いが、君にはその分頑張って欲しい」
「ああ?」
グレイブの言葉に、ヨーゼフが「何言ってんだ?」と声を荒げる。
「前任の剣士は、君と同じポジションで、僕に魔物を仕留めさせて討伐数が増えるよう計らいながら戦闘をしていた。君ほどの実力者なら、もっとそれが容易にできるだろう?」
「は? 冗談じゃねえ!? 今でさえこんな体たらくなのに、これ以上強い敵が出てきた時にも、さっきみてーにお荷物抱えながらやれってのか?」
ふざけんな、てめーももっと身体張って前で戦えよ、とヨーゼフが続ける。
「勇者である僕が
「はっ? 知らねーよ。いつか誰かは倒すだろーよ。少なくとも、お前みたいな他人任せの腰抜け野郎じゃねえことは確かだな」
「……」
ヨーゼフの言葉に、グレイブは眉を
目の前の男は、冒険者協会が推してきただけあって確かに腕はいいが、主張が強すぎてどうにも御しきれない。
このままパーティーを組んでいても、早晩解消することになるであろうことは目に見えていた。
とは言え、じゃあ他を探すとしても、すぐには見つからない以上、必然的にしばらくはグレイブが前衛に立たないといけないことになり――。
「わかった。僕ももう少し、前に出て戦うよう善処しよう」
「……善処っていうかお前、それが普通のことだぞ……?」
呆れたように吐き出すヨーゼフの言葉も、グレイブには響かない。
しばらくはヨーゼフの言うことを聞き、前衛での戦いを学びながらやってみることにするが、並行して新しい仲間は探そうと思った。
もしかしたら、いっそ盾役を入れればいいのかもしれない。
もう一人くらい仲間を増やして、ヨーゼフと盾役で前衛を作るのもよいのではないだろうか。
(そうだ。勇者というのは戦うだけが能ではない。魔王討伐という大きな目標に向けて、パーティーを育み導いていくのも僕の役割なんだ)
グレイブは――、決して頭が悪いわけではなかった。
彼の考えはある意味では正しくはあるのだ。
ただ一点――。
彼が、自らの手を汚さないということだけを除けば。
結果。
最初からBランクの依頼を受けるには不安があったので、しばらくはCランクまで落として依頼を受けながら旅を続けた。
それで、なんとか依頼をこなしていけるようになってきていたので、油断していたのだ――。
Cランクの報酬だけでは、冒険者四人の生活を賄っていくのが難しかったということを。
路銀が尽きはじめている一行がそれに気づくのは、もう少し後の話だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます