第6話 ソードマスターのクラス
さて。
めでたく新パーティーが結成された二人の第一歩は、というと――。
「とりあえず、ソードマスターのクラスでも取っておけば?」
と。
キルキス城内のノアの部屋で昼食をとりながら、部屋の主がそう提案してきた。
「実際、リーンはソードマスター取れる実力はあるでしょ。せっかく王城にいるんだし。ここで取っておいて損はないんじゃない?」
もぐもぐとサラダを咀嚼しながらノアが言う。
確かに――、ノアのいう通り、リーンにはソードマスターをとれるだけの実力があると言われていた。
それをしなかったのは――、グレイブの存在があったからだ。
グレイブを差し置いて、女のリーンがソードマスターのクラスを取得するべきか?
だったら――、グレイブが取得できるまで待って、一緒に取れば良いのでは?
グレイブの家との間でそんな話になり――、そうしてそんなことを言っている間に、グレイブが勇者として神託を受け、旅に出ることになってしまったのだ。
リーンとしては、正直ソードマスターというクラスにあまりこだわりはなかったが(単純に剣術を極めることが好きなだけで、肩書きに意味があると感じていなかったからなのだが)、ノアが言うのなら何か意味があるのかと思い、問い返す。
「それは――、取っておいた方が良いものなの?」
ちなみに、パーティーを組む、と腹を括った時点で敬語はやめていた。
ノアから『距離を置かれているみたいだからやめてほしい』と懇願されたのと、リーン自身も、ノアの――よく言うと気さくな、悪く言うとやや軽薄な――キャラクターに当てられ、まあいいか、という気持ちにさせられてしまったからだ。
「まあ、単に箔が付くってのと、各国の王城を訪れた時にいろいろと融通が効きやすいっていうのが利点としては一番大きいけど」
肩書きって意外と効果がある場面も多いしねえ、とノア。
そもそもソードマスターというクラスは、他のクラスと比べて少し特殊なところがある。
他の剣士や魔術師などの多くのクラスに関しては冒険者協会が取りまとめ付与しているが、ソードマスターについては各国の王国騎士団が管轄となる。
ただ剣士としての腕が立つだけでなく、技術面と精神面含めて後進の指導ができる者――。
また、集団での戦闘となった時に、集団指揮が取れる者。
そういった資質を兼ね備えた者が、ソードマスターとして認められクラスを付与される。
故に、ソードマスターのクラスを持つ者は、冒険者としても優遇されるが、国が認めたクラスという点で、国を跨いでの騎士団や軍部において効力を強く発した。
「ちなみに、リーンの冒険者ランクっていくつだっけ?」
「……C」
冒険者ランクは、Dから始まりAに近づくほどにランクが高くなる。
それよりさらに上位になるとSやSSといったクラスも存在する。
その査定基準は討伐した魔物の脅威度と討伐数が基準となるため、ほとんどの魔物を、グレイブにとどめを刺させていたリーンのランクが上がらなくなるのは当然だった。
「じゃあまあ、やっぱり取っておいた方がいいかもな。ソードマスターを付与された時点で、自動的にランクがAまで底上げされるし」
王国騎士団でソードマスターと認められたものは、特例として冒険者ランクAを付与される。
それは稀に、一般の冒険者で討伐不可能な依頼を王宮騎士団のソードマスターに依頼することがある、というところから生まれたという話なのだが――。
ランクによって当然受けられる依頼のレベルも変わってくるし、謝礼金の額も変わってくる。
ここで地道に討伐数を増やしてランクを上げていくよりも、ソードマスターの試験を受けるチャンスがあるなら、そちらにトライしてみてもいいのかも、とリーンも思った。
「キルキスで取るんだったら俺の顔も利くし。やっぱり、ここでソードマスター取ってから出発するのでいいと思う」
それにまあ、勇者探しなんて別に急ぐ旅でもないしなあ、とノアが言う。
「――急がないの?」
「だって、考えてもみなよ。いまから1週間1ヶ月で魔王が倒されると思うか?」
実際、まだ魔王がどこにいるのかも誰も知らない。
さらに言うと、魔王が誕生したからといって、魔族たちが人間に総攻撃をしかけてくる、ということも起こっていない。
今のところ、魔王の誕生前後で人々の暮らしが大きく脅かされていることもない。
下級の魔物の被害や、はぐれ魔族が時折気まぐれに暴れる時に冒険者協会に依頼が入るが、それとて魔王の有無で依頼件数が変わったわけでもない。
「俺が言うのもなんだけど。一般人にとっては魔王討伐っていうのは
だから必然、勇者たちも魔王討伐を急ぎはしていない――どちらかというと、確実に魔王を倒せるよう、鍛錬をしながら旅をしているというのが現状なのだ。
「つまり――、だからこそ、急いで勇者を追いかけるよりは、先にソードマスターのクラスを取得しておいて、各国の行き来をスムーズに出来た方が良い、ということ?」
「そう。まさにその通り」
「ノアの王子としての肩書きは?」
「王族がふらふらと冒険者やってるなんて大っぴらに出来ないだろ。だから基本、普段は普通の冒険者として振る舞うからな。それも含めて、リーンがソードマスターを持っていてくれた方がやりやすい」
それもまた、【キルキスの王族が勇者査定の旅をしている】ということを公にしたくない故の措置なのだろうとリーンは察した。
「わかった。ソードマスターの試験を受ける」
実際、受けたところで本当にソードマスターのクラスが取れるかどうかはわからなかったが、とりあえずノアの提案にのり、やれるだけのことはやろうと思ったのだ。
「きまりだな」
リーンの答えに、ノアが嫣然と笑う。
ソードマスターのクラスを取得するのに、約2週間。
試験中は、ノアの部屋の隣にリーンの滞在用の部屋を用意してもらうこととなった。
「俺としては、リーンと同じ部屋でも全然構わなかったんだけど」
と、こちらに向かって軽口を叩くノアを、リーンはジロリと睨んで一蹴したのだった。
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