第3話 勇者の真実
「リーンは、今この世界に勇者が何人いるか知ってる?」
「5人です。グレイブと、その他に4人神託を受けた者がいると聞いています」
そう、正解だ――、とノアが答える。
「でも、そのうちの4人は偽物だと言ったら――?」
5人のうち、1人だけが本物で、残りが偽物の勇者だとしたら。
ノアの言葉に、リーンは眉根を寄せる。
「……つまりそれは、他の4人には偽の神託をくだしている、と?」
「ご名答。察しがいいね。話が早い子は好きだよ」
と、ノアがにっこりと微笑む。
ノアが言うには、こうだ。
数百年ぶりに魔王誕生の神託が出たのに数年遅れて、勇者の出現を知らせる神託が下りた。
しかし、中央神殿からその報告を聞いた王国連合は――、1人の人間に『勇者だ』と神託を下すことに、リスクがあると考えたのだ。
明確に誰か1人を勇者として名指ししてしまうと、まず間違いなくその者が魔族からの集中攻撃を受ける対象となる。
故に――、本物の勇者と年頃の近い子供たちをダミーの勇者として立て、魔族たちを惑わそうというのが王国連合の取った策なのだと。
「じゃあ――、グレイブは本物の勇者じゃない、ということ?」
「さあねえ。実際のところ、俺も誰が本物の勇者なのかまでは知らされてない。王国連合も一枚岩じゃないし、さらに言うと、やつらは魔王さえなんとかしてくれれば、それが本物だろうが偽物だろうがどうでもいいのさ」
例え偽物の勇者だったとしても、倒してしまえば本物になる。
自国の勇者が魔王を仕留めれば、その国は他の連合国から多額の謝礼金を受け取ることになる。
だから、各国の為政者たちは、自国の勇者が本物であるか無しかに関わらず、総力を上げて勇者たちを支援するのだ。
「よく出来てるよ。魔王討伐まで競争社会だ」
そう言って、ノアがどこか嘲るように笑う。
「それで――、それは殿下が冒険者をやっているのと、何の関係があるんです?」
そもそもの疑問の出発点はそこだ。
勇者の話を切り出されたことで、本筋を危うく忘れかけそうになったが、一番聞きたかった肝心なことをリーンは尋ねた。
「――王家の三男坊っていうのは、なんとも宙ぶらりんでね。やることがないなら、各国の勇者の資質と可能性を見極めてこいって言われてる」
――長男は王位継承者。
次男はその補佐、ないし
これといって役割のない三男は、ならばせめて国の役に立つことでもやってこい――と。
「幸いというかなんというか。魔術の腕だけはべらぼうに高かったんでね。さくっと冒険者登録して、無事賢者の職種を得たってわけ」
「――。」
ノアはさらりと言うが、其の実、言っていることはとんでもない。
普通、賢者の職種を得られるのは、魔術師になって4大基礎魔術を極め、さらにそれとは別属性の治癒魔術を極めたものだけだ。
その逆も然り。
だいたい、そのレベルに達するまでに、どんなに優秀な魔術師でも数十年かかると言われている。
しかしどう見てもノアは、20代そこそこにしか見えない。
たとえ王族だからといって、職業判定に
――つまりは、この目の前の男は。
正真正銘、魔術の天才、という事だ。
「あれ? もしかして何? ちょっとは惚れ直してくれた?」
「……直すも何も。そもそも惚れてないです」
ノアの軽口を、リーンがバッサリと切る。
「つまりは、それが理由で――、これまで勇者パーティーを探して渡り歩いてきた、と」
「まあ、そういうことになるかな」
ノアの答えに、リーンはなるほど、と納得する。
言っていることは確かに筋が通っている。
なんでノアがリーン達のパーティーにわざわざ入りたいとやってきたのかまでは納得できる。
でも。
「グレイブじゃなく私に興味があるって。あれはなんなんです? あと花嫁って」
――そう。
なんでこのキルキス城に戻ってきただけで、あんなに花嫁扱いで盛り上がったのか。
いままでの勇者の話と全くつながらなくて、リーンはノアに説明を求めた。
「あれは――、まさか王家の人間が勇者査定の旅に出るなんておおっぴらに言えないでしょ。だから、表向きはお嫁さん探しって体で外に出ていて」
「……はぁ」
「それで、満を持して俺がかわいい女の子を連れてきたから、みんなが誤解したと」
「誤解なら誤解と、ちゃんと周りにも説明すべきでしょうが!」
「いやあでも、俺個人としては別にまあいっかなって。あいたっ!」
あくまでもふざけた態度を崩さないノアに、リーンはティーカップに添えられていた角砂糖を手に取り、ノアの額に向けてつぶてを放つ。
「まあいっか、じゃないでしょう!? 人の人生を……!」
「いや待って待って! まだ話は終わってないから!」
続きがあるから、続きが! と、二個目のつぶてを放とうとするリーンに向かって、ノアが額を抑えながら慌てて言い募る。
「続き?」
「さっきの、勇者についての話」
「…………」
ああ痛い、と大仰に額をさするノアに、リーンは手にしていた角砂糖を皿に戻し、話を聞く体制に戻る。
「勇者の話はあれで終わりじゃなかったの?」
「うん、まあ……。これは俺の仮説なんだけど」
あのさ、と、ノアがこちらに身を乗りだし――、聞かれて困る相手がいるわけでもないのに、声を
「
――と。
「…………」
「ああ、やっぱりね」
「まだ何もいってませんけど」
「いや、言わなくてもわかるよ」
顔に書いてある、とノアが言う。
「――っ」
「いやでもやっぱり、そうだよなぁ。それだと辻褄合うもんな」
「だから、なにが――」
「わかってるんだろ? うっすらとは。ここまでの流れで察しない方がおかしいだろ」
「……」
ノアの追求に、リーンが押しだまる。
「本当に神託が下りたのは、グレイブじゃなくリーンだった、って可能性をさ」
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