Realm 2. 白亜への道 -betrayal in chalk-

1. 天使の追撃、白い影

 グロウバレーの路地に逃げ込んだ俺たちは、去ってゆく二人のゴーストアバターを見送った。


 そのとき、メイナがオレンジ色に発光しながら飛んできた。


「ねえユージ、反応だよ! くる、かも……」


 いつになく緊迫した声だ。俺はダガーがおさまった腰のホルダーに手をのばし、


「どっちだ? エンジェルか?」

「上だよ! 上空に……」


 俺は顔を上げてビルに挟まれた空を見上げた。


 すると、空を横切るエンジェルの影が見えた。


 大通りのほうからどよめきの声が聞こえた。


「おい! あれ、エンジェルだろ?」

「だれか、騒ぎでも起こしたんじゃねえか?」

「おいおい、こっちのほうにくるよ……」

「やばい! 離れようよ、ここから!」


 エンジェルの姿はビルに隠れて見えなくなった。


 俺はダガーの柄に手をかけ、腰を落として身構える。


 そのとき、頭上で羽ばたきの音がした。見上げるとちょうど、エンジェルがビルとビルの間に降下してきたところだった。


 大きな黒いローブと翼をビルの壁に擦りつけ、足で壁を蹴りながら、滑り落ちるように突っ込んでくる。


「きたよー!」


 と、メイナは大声を出して飛び回る。


「わかってる! 静かにしてくれ!」


 俺はそう言って、ダガーを抜く。


 エンジェルは波打った刃の長剣を抜いて、ミオを目がけて上から迫ってくる。


 ミオを逃すことも無理だ。覚悟を決めて、俺はミオをかばいながらダガーを突き上げた。


 かろうじてエンジェルの剣を弾いたものの、俺はミオとともに弾き飛ばされ、ビルの壁にぶつかった。


「大丈夫か?」


 とミオに呼びかけると、


「うん。なんとか……。それより!」


 そう言ってミオはエンジェルを見上げる。


 エンジェルは剣を右手に持ち、ネズミでも狩るように悠然と迫ってきた。


 そして長剣が動く。


 俺はミオを抱えて避けようとしたが、足がもつれてしまった。体勢を崩したところに、エンジェルの剣が空を斬って襲いかかってくる。


 俺はミオをかばうように抱きしめた。




 そのとき、白い影がエンジェルの前に踊り出た。


 その人物は白いフードを目深にかぶり、同じく白いローブをまとっていた。そいつはすかさず、長剣を構えて受け太刀した。


 激しい金属音がして、エンジェルの剣が弾かれた。


 エンジェルは警戒するように、いちど飛び退いて距離をとった。


 すると、白いローブの人物は振り向いて、こう言った。


「まったく、きみらしくない動きだね。ユージ……」


 そう言って、そいつは白いフードを跳ね上げ、その中の見事な金髪をあらわにさせた。


「マティアス!」


 思わず俺は彼の名を呼んだ。すると、マティアスは微笑して、


「ひさしぶりだね」


 次にマティアスはミオを見て、左手を自身の胸に添えて言った。


「それに、そちらの可愛らしい、フリージアのようなお嬢さん。怖い思いをしたね……」

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