31話 商品開発



 オーガロードの討伐からゲーム内時間で数週間が経った。あのPKはヒナにちゃんと装備品を返したみたいだったが、オーガロードの討伐以降リアルの用事でヒナのログインが少し遅れたのもあって、ゲーム内時間では数日間ずっと苦しんでたみたいだ。


 そして今俺はギルドの自室で少し悩みを抱えていた。というのもギルドの力を借りた代わりにギルド管理長のベルウッドさんにお願い(強制)をされたからだ。

 そのお願い(強制)の内容がギルドで販売してるアイテムの在庫の追加生産と新商品の開発だ。在庫に関しては主に回復アイテムこ生産を頼まれたのだがこれは大して問題では無い。最上級クラスまでは素材を取りに行かなくとも簡易生産で作成ができるし、超級クラスに関しても素材を渡されているので10秒あれば100個は作れる。なので問題は新商品の開発だ。


 新商品か。ギルドで売るとなるといつも思いつきで作ってるような低クオリティのアイテムや生産度外視のリソースにものを言わせたアイテムじゃ駄目だ。利益も考えつつ実用的か人気の出るようなアイテムじゃないとな。

 前回作ったのって結構前だったよな…あの時は3日悩んだ末に作れず、気晴らしに適当調合したらたまたまとある素材の特性を発見して出来たアイテムだったもんな。今では爆丸くんは中級者まで御用達の売れ筋アイテムだ。


 エグスタでの新商品開発の1番難しいところはやはりアイテムの内容を考えることだろう。現実ならその後のアイデア実現のための工程も難しくなってくる事が多い思うが、エグスタでは現実には存在しない様々な素材があるのでそこはさほど難しくはない…と思う。


 そもそもエグスタでは結構な時間が経っているのでアイデアなんて基本出し尽くされてる。爆丸くんもアイデアを出したんじゃなくて既存の商品をコンパクトにしたものだ。そうそう良いアイデアなんて出るわけが無い。

 そんな理由もありかれこれ俺が悩み始めて3時間位が経とうとしてる。


「駄目だ。こんな机に突っ伏してても何も思い浮かばねー。アイデア探しにどっか行くか」



 ☆



 とりあえず最初にやってきたのは訓練場。ここではギルド所属のプレイヤーが技を試したり装備の試運転をしたりしている。

 訓練場は主に2種類あり、個室か解放されてるエリアか。基本的に違いはない。交流しながらできるか個人で黙々とやるかだ。個室なら周りから見えないようにすることも可能だが、アドバイスが欲しい人も結構いるので、個室使ってる人も割と半分くらいは公開設定だ。


 ちなみに俺はギルドの人とはあまり面識がない。もちろん全くない訳では無いが、戦闘関係の人とはほとんどないな。各副団長さんや生産職の何人かや、少ない知り合いを除いたらあとは管理職の人くらいか。なんなら管理職の人が1番面識あるな。


 こうなってるのも俺が基本的にマイホームに引きこもってレベル上げをしてたり装備品を作るからだ。欲しい素材がある時は基本的にリアと一緒に取りに行ったりギルドのアイテム倉庫から貰うからだ。副団長の権利を行使しているので、余程のレア素材じゃなければ無料で沢山ぶんどれる。その分使えそうなアイテムが出来たら倉庫に入れてるので許して欲しい。


 ギルド内には4人の副団長がいるが正直1番俺が働いてないんじゃなかろうか。運営担当はいちばん忙しいだろうし、戦闘担当は最近攻略会議で忙しそうにしてるし。生産担当は後発育成に力を注いで忙しそうだし。

 俺そろそろこの地位返上した方がいいかな…陰でなんか言われてたら心にきそう。



 ☆



 とりあえず訓練場に居るのはやめてギルドが経営してるアイテムショップにやってきた。

 あそこに居てもなんも得られなそうだったし、今日は雷殿らいでんさんがいたから眩しくて目に悪かったし。


 今いるアイテムショップは初心者向けのコーナーで今も人が結構出入りしてる。ギルドメンバーから全く関係ないプレイヤー、一般NPCまで様々な人が利用してる。ちなみにギルドメンバーはギルド内のアイテムが全て半額になる。


 初級ポーション1個30マーニ…確か原価が6マーニくらいだから利益率が80%くらいって考えると結構ぼってるよな。

 まぁどちらかと言うと安い部類の値段だから良心価格なんだけど。文句があるなら初級ポーションくらい自分で作れってのが常識だ。


「おい兄ちゃん。そういうのは迷わずに買った方がいいぞ?いざって時の出費は安く済ませちゃ駄目だからな」


「??……そうですね」


 俺が回復ポーションを持ちながら立っているとでかい鎧を着たおじさんに話しかけられた。多分初心者プレイヤーに間違われたのかな?

 そういや装備してる弓が初心者のものだったか。外すの面倒だしずっと装備してたのが仇になったかな。とりあえず持っているポーションと追加で3つくらい籠の中に入れておく。


「えーっと、貴方は?」


「いきなり話しかけて悪かったな。俺はロンドって名前で…まぁ上級者手前位のプレイヤーだ」


「上級者手前ってことは結構強いんじゃないですか?」


「そうだなー。かれこれ長くこのゲームやってるしな。そんな俺からの助言なんだがそういう事前準備でケチってたら本当に困るぞ。俺も何回かやらかしてからやっと分かったからな」


 ロンドさんは見るからに重戦士みたいな見た目をしてる。背中に背負ってる武器も自分よりも一回りも大きい戦斧だし。


 鑑定してみたら上級者手前ってのは少し謙遜してるみたいで、全然上級者帯のプレイヤーみたいだな。ただ装備の製作者を見るにエデンのメンバーでは無いみたいだな。


「ロンドさんみたいな人がなんでこんな初心者エリアに?」


「ああ。実は毎回クエストに行くついでに下級の薬草とかでも採取してるんだ。それをこの店に届けにきたって訳だ」


 薬草採取のクエストは冒険者組合ではどの店からでも依頼される低ランクでは定番のクエストだが、同時に初心者がやりたくない不人気ランキングにもランクインする。

 みんなせっかくこんなVR始めたのに薬草なんか採集したくないらしい。


 このロンドさんはそういう滞ったクエストをやったり俺に話しかけてくるあたり相当な善人なんだろうな。

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