5話 久しぶりの戦闘

 

 そんな訳でやってきました。王国の領地の1つインファスト、通称始まりの街。そしてその周辺にある草むらの奥の森。


 ここで主に出没するのはファストウルフ。初心者御用達の魔物だ。草むらではスライムやアタックラビットが出現するが、スライムは何もしてこないしアタックラビットは攻撃が弱すぎて避けの練習にしかならないので、初心者のちゃんとした初戦闘はだいたいファストウルフになると思う。


「いや[剣士]になって魔物倒すとか、ゲーム内時間じゃほんとに数十年ぶりかも」


「装備は弱いんだから油断して死なないでね」


「いや流石にステータスもあるし初心者の魔物では死なんやろ」


 とりあえず防具は街で売ってる初心者装備1式。剣もレア度1のカス剣。


 ちなみにコンバートで[剣士]になってもステータス引き継ぎだから強いでしょ、って疑問に思う方もいるかもしれないが、火力システムに大きく関わるステータスはATKとSTR。


 STRは腕力みたいなもので、いくら生産職が戦闘系ステータス上がりにくいと言っても、鍛治とかは普通にSTR上がるし全然高くはなるので気にしてはいない。


 だが問題はATK。


 生産職の中でも全く上がらないステータスであることに加え、俺の一番の原因になっているのは、生産職の1部のスキルの中では戦闘系のステータスにとんでもないマイナス補正がかかるものがある。しかもパッシブスキルである。いくら1000ジョブ極めたとはいえ、ただでさえ上がらないステータスに、マイナス補正を合わせたら俺のATKは初期くらいと変わらないのである。むしろいい感じに初期値に近いので想定されてるんじゃないだろうか。


 その他の戦闘ステータスでも同じようなことが起きているので、今の俺は戦闘系ステータスはまぁ初心者よりかは強いくらいなのである。


 いくらなんでもマイナス補正ヤバすぎんか?と思う人もいるかもしれないが、あのジョブは取らない選択肢がないくらい強かった…


 とは言ってもDEXは結構高い数値を持ってる。[剣士]だとLUKの次にクリティカルの発生率に関わってくる数値だ。


「ガルゥゥ…」


 そんなことを考えながら探索してたら現れたな。鋭利な牙をたくさん並べ、そこから大量のヨダレを垂らしているモンスター。


 胴体は茶色の毛並みに覆われ口から覗かせる牙は、いかにも凶暴な狼って感じのイメージを抱かせるモンスターだ。

 初心者の頃は普通にビビってた記憶があるが、さすがに今ではこんなモンスターにビビる訳もないので、さくっと終わらせてやるとする。


 戦闘初心者の俺が戦闘する上で大切だと思っているのは、よく見る、という事である。

 敵が攻撃モーションをするという事は何かしらの予備動作があるということ。さらに言えばこいつは初心者モンスター、予備動作が顕著でかつ攻撃が単調で、大掛かりな飛びかかり攻撃とか、爪を大きく振って攻撃とか隙がとにかく多いのである。

 つまり予備動作で攻撃するのを確認し、さらにどのような攻撃が来るのかを予測し、それを避けて敵に攻撃をしやすい。実に完璧な流れだと言えよう。


 改めてファストウルフを観察する。敵はこちらを見ながらゆっくりと円を描くように左に動きつつ距離を詰めてくる。

 それに対して俺も距離を詰められないよに後退しながら一定の距離を保つようにする。


「ガウァァ!」


 痺れを切らしたのかファストウルフは思いっきり後ろ足を曲げ、大きくジャンプしながらこちらに飛びかかってくる。


 その行動を待っていた!

 俺はファストウルフが前右足をあげていることから引っ掻きだと判断しする。

 馬鹿め、ジャンプをしながら引っ掻きをすれば着地がしにくいのは当然。俺は後ろに避けながら敵が着地した瞬間の隙を狙って攻撃。


「ギャオン!」


 だがエグスタの敵は高度なAIを持っている。雑魚だからある知能は程度下げられてはいるが、ファストウルフは俺が横に降った剣を地面を強く蹴ることで横に飛び、致命傷を受けることは回避した模様。


 だが完全には避けきれていないので傷を負った体からは赤いポリゴンのエフェクトが吹き出している。

 更に不完全な体制で避けたのでバランスを崩しているファストウルフに俺はスキルで追撃を浴びせる。


「スラァッシュッ!」


「ガウァ!」


 俺が降った剣はファストウルフに命中したが、敵も無理やり転がることで避けたので前足を切断するだけに留まった。


 またも敵が隙を晒してるが、こちらもスキルの反動で少し硬直したのでさらなる追撃を浴びせることは出来なかった。


 だが片方の前足を失って、傷を負ってるファストウルフが俺に勝てるはずもなく、大した応酬もなく無傷で俺はファストウルフとの戦闘を終わらせた。


「どうだった!?」


「いやそんな眩しい笑顔で言われても…うんまぁ25点ってとこかなぁ…」


「それは50点満点の?」


「いや100点」


 高得点だ思っていた俺はリアの言葉に絶望して膝を着く。


「何故だ…俺の戦闘は完璧だったはず…無傷での勝利だったのに…」


「オーバーなリアクションしても点数あげないよ?それにその無傷での戦闘を評価しての25点だよ。まず時間かかりすぎ。今の戦闘4分くらいあったけど初心者でも1分かからないよ?」


「うせやろ…」


「次に無駄が多い。ちゃんと観察してたのは偉いと思うけど、1回目の攻撃の時にスキル使ってたら倒せてたよ?

〈スラッシュ〉て振りが素早くなるし威力も上がるし。そもそも飛びかかりは後ろに下がるんじゃなくて、すれ違いざまに切りつけるんだよ。あと一体に観察しすぎてたけどファストウルフなんて集団行動してるのが普通だし多分集団なら…」


「分かった!それ以上言わなくていいから…」


 思ったよりもダメだしくらったせいで俺はもう立ち上がれないや。


「やっぱアルの戦闘スタイル的に後衛が向いてると思うよ?」


「後衛かぁ。やっぱ魔法使いとか弓とかあとはバフデバフ専門の付与師とか?」


「まぁ弓とかでいいんじゃない」


 弓か…とりあえず〈弓使い〉にコンバートするか。

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