第152話 謎の骸骨騎士現る

■グリエル


巨大な化け物が剣を振り下ろしてくる。幼馴染の親友、オクロンが剣を抜いてそれを受け止めようとしている。馬鹿野郎、止められるものか!


お前は逃げろとオクロンが叫んでいるが、お前を残して逃げられるか! 俺は気がつけばオクロンの元へ駆け出していた。


ほんの数歩の距離。だが、間に合わない。化け物の剣が振り下ろされる。まぁ間に合ったとしても、俺とオクロンであの巨大な剣を受け止められるわけもないのだが。


だが、剣が振り下ろさる直前、空中に魔法陣が浮かび、猫人が現れた。【転移】か! 猫人がやらせないと叫ぶ。その手の先には小さな魔法陣が浮かんでいる。おそらく魔法障壁で受け止めるつもりなのだろう。あんな小さな猫人があの巨大な化け物の剣を受け止められるようには見えないが、奴は街全体の結界を張ってみせた【賢者猫】だ、なんとかしてくれるかも知れない……


その期待は裏切られる事はなく、化け物の大剣は城壁の前の空間で止まった。そして、次の瞬間にはスケルトンキングは吹き飛ばされ、縦に二つに分かれて地面に落ちていった……。


「やった……カイト! 助かった!」


カイト「……いや、やったのは俺じゃないにゃ……」


オクロン「ああ、俺にも見えた。なんか状況がさらに悪くなったような気がするのは気の所為か……?」


見ると、両断されたスケルトン・キングの前に、誰かが立っている。


それは…


 …人ではなかった。骸骨の剣士だ。


グリエル「……スケルトン同士の仲間割れ?」


『仲間扱いはやめて下さい……いや、この後仲間にする・・予定ではあるのですが…』


オクロン「喋った……!」


その骸骨はゆっくり振り返り、その空虚な眼腔で城門を見上げた。


グリエル「ぐっ……なんという禍々しい闘気だ……これは……」


眼の前で、巨大なスケルトンキングを両断して見せたスケルトンが放つ禍々しいすぎる空気。それは、スケルトンキングやヘカトンスケルトンのそれを遥かに凌駕している。何もしなくても、ただそこに居るだけで、人知では計り知れないとてつもない怪物である事が嫌でも理解できてしまう。


スケルトンキングやヘカトンスケルトンは危険度SSランクの怪物である。それを上回るとなるとSSS級……おそらくたった一体で全人類を滅ぼす魔王級の存在ということになる……


スケルトン「おっと失礼……」


だが突然、その恐ろしい気配がふっと消えた。


スケルトン「闘気を出しっぱなしにしてしまっていました。人間の方々には少しシンドかったですよね、すみません」


カイト「お……お前は誰にゃ?」


古龍を前にしてもビビる事のなかったカイトの膝が少し震えていた…。カイトでも、いや魔力に敏感なカイトだからこそ、その骸骨剣士の危険性を感じ取っていた。この存在とは戦ってはいけないと本能が訴えている…。


スケルトン「おや…? ケット・シーではないですか? これは珍しい。あ、ご安心下さい、私は敵ではありません。私はランスロット。通りすがりのスケルトンです。名前以外に説明しようがないですが」


カイト「敵じゃないにゃ? なぜそのデカい骸骨を倒したにゃ?」


ランスロット「いえ、たまたま近くを通りかかったら、大量のスケルトンの気配を感じましてね。近くのダンジョンから溢れたようですね。見れば街を襲おうとしていた模様ですが、……彼らは全て私が貰っていって良いですよね?」


グリエル「貰って……???」


ランスロット「ええ、拠点に連れ帰り再教育します。ダンジョンで生まれたばかりの“野良スケルトン”は野蛮で品がないので、放置しておくとスケルトン族の面汚しになりますが、キチンと教育すればみなすぐに立派な兵士になれますよ」


オクロン「り、立派な兵士にって……その後また人間を襲いに来るって事か?」


ランスロット「いえいえ、そんな事はいたしません。我々は人間の敵ではありません。と言っても味方でもないですけどね。強いて言えば無関係? 我々と人間が関わる事は普通はありませんので。で、頂いて行って構いませんね?」


グリエル「ああ、連れて行ってくれるならむしろありがたいくらいだが……」


ランスロット「では……」


次の瞬間、ランスロットの周囲に大量のスケルトン兵士が現れた。


オクロン「やっぱり街を攻める気か!」


だが、新たに現れたスケルトン兵士は街に背を向け、街から離れたところに散在している大量のダンジョン・スケルトンに向かって行った。そして新旧スケルトンが交戦を開始するが……それは交戦というよりはただの蹂躙であった。新たに現れたスケルトン兵士はダンジョンスケルトンよりはるかに強いようで、ダンジョンから溢れたスケルトンは一方的に切り裂かれていくだけなのだ。


カイト「再教育って、みんな殺されているみたいだけどいいにゃ?」


スケルトン「いえ、死んではいません。バラバラにはなってますけどね。拠点に連れ帰って不死王様に直してもらいますから問題ありません」


カイト「不死王?」


グリエル「不死王ノーライフキングだと?!」


カイト「知ってるにゃ?」


グリエル「すべてのアンデッドの頂点ともいわれる伝説の存在だ…不死不滅の存在で、その力は魔王でも足元にも及ばないとか…」


ランスロット「だいたいあってますね」


グリエル「実在していたのか……お伽噺の存在かと。


……まぁ、妖精猫が存在していたんだから、不死王が居てもまぁ不思議ではないか」


ランスロット「私もかつては人間だったのですが、死んだ後、不死王様にスケルトンとして復活させて頂きましてね。以来、不死王様のお手伝いをしています」


オクロン「人類を滅ぼす手伝いか?!」


ランスロット「だからそんな事はしませんて。何か誤解があるようですが、不死王様はあなた方…人間の世界に興味はないと思いますよ。不死王様はあなた方人間とはかけ離れた次元におられる、人の世界とは無縁の孤高の存在です。不死王様が人間の世界を征服するメリットなんて何もありませんから…お互いに、関わらないほうが幸せでしょう。放っておいても人間の文明は勝手に滅びては復活してを繰り返しますし…」


グリエル「別の次元…?」


ランスロット「ええ、我々は普段はこの世界とは違う、別の次元の空間に居ます。ただ、たまにこうして地上にアンデッドが溢れる事があるので、兵士を回収・補充する事にしているのですよ。スケルトンは人間の死者からしか生まれませんからね。」


オクロン「スケルトンにされた人間は……その魂は永遠に…お前たちの地獄のような世界で苦しみ続けるという事か……?!」



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