第151話 衛士長、死す …?
カイト「瘴気のブレスを貰ったから、お返ししにゃいとにゃ。確かドラゴンブレスを収納した空間は……あった、これにゃ」
次の瞬間、カイトの眼の前からとてつもないエネルギーの奔流が吹き出し、百本腕の骸骨に向かった。
凄まじい轟音と閃光、そして…
大地は大きく抉れ、その先に居たはずの百本腕の巨大なスケルトンは影も形もなくなっていた……。
どうやらヘカトンスケルトンも、古龍のブレスの前にはひとたまりもなかったようだ。スケルトン・キングは脇に寄っていたため射線からはずれて無事であったが、ヘカトンスケルトンが居た場所を見て口を開けている。
カイト「スケルトンも呆然としたりするんだにゃ」
カイトのつぶやきが聞こえたのか、スケルトンキングはハッとした様子で、カイトの方を見る。そして、そのままクルリと回れ右をして逃亡を始めたのだった。
周囲のスケルトン軍団もそれを見て、慌てた様子でキングを追って街から離れていく。
グリエル「……もしかして、脅威は去った?」
オクロン「助かった……みたいだな」
カイト「逃さないにゃ!」
カイトはそう言うと、城壁から飛び出し、空を飛んでスケルトンを追っていく。
グリエル「あ、おい! ……飛んだ? アイツ、空飛べるんか……」
オクロン「さっきのブレス? と言い、一体、奴は、何者なんだ?」
グリエル「……賢者……猫だそうだ」
オクロン「賢者猫? ってなんだ?」
グリエル「賢者猫は……賢者猫だよ………」
オクロン「そ…そうか……」
+ + + +
■カイト
俺は逃げるスケルトンキングを追い、乗っていた城壁を蹴って飛び出した。グリエルは一瞬、俺が城壁から落下したと思ったようだが、俺はそのまま空中を飛んでいる。―――実は落下していることにはかわりないのだがな。傍から見れば飛んでいるように見えるだろうが、実は重力の方向を水平に変え、自由落下しているだけである。
重力魔法で重力を水平方向―――スケルトンキングが逃げた方向に変え、そこに向かって落下しているわけだ。
重力加速度というくらいで、自由落下ではその落下時間が長いほど速度が増していく。…理論的には。だが、やってみると実は速度に上限があるのを身を持って知る。空気抵抗と釣り合うところまでしか速度が上がらないのである。(抵抗を無視して際限なく速度が上がるならパラシュートは意味がなくなってしまうからな。)
さらに速度を上げるためには、空気抵抗を減らすか重力を強くすればよいのだが、まぁ今回はそんな事をしなくともあっという間にスケルトンキングに追いついた。俺はそのままキングの上空を追い越しその前に着地する。
前方の地面に降り立った俺をみてスケルトンキングが足を止める。キングと目が合う。骸骨なので目は穴しかないのだが、眼窩の暗い奥になんとなく薄く赤く光るナニカがある。…気がする。
一瞬のにらみ合いの後、俺は再びドラゴンブレスを収納した亜空間を準備。ドラゴンブレスの残弾は残り三発あるのだ。
(なくなったらまた魔の森の深奥あたりに居るだろう古龍のおばちゃんを捕まえてもらってこよう。なんとなく、袋にゲロ吐かせてるみたいな絵面になってしまうのだがな…。)
街に向かってブレスを放つと街が消滅してしまう。だが俺は地面の上、相手は巨体なので、ブレスは斜め上に向けて発射される事になるので、街に被害は及ばないだろうと亜空間を開いたのだが…
キングはなんとマントを体の前に持ってきて防御した。あのマント、凄ぇなおい。古龍のブレスを防ぐんかい……。
とは言えドラゴンブレスの奔流をまともに受けたのだ。その衝撃でスケルトンキングは後方に吹き飛んでいく。後方に……
「あ、しまったにゃ…」
ブレスで吹き飛ばされたスケルトンキングは、街の方向に大きく飛んでいく。
街に飛び込んでしまったらどうしようかと思ったが、幸い、城壁の手前にポテッと落下して止まった。
+ + + +
■オクロン
街の防御結界を張り直してくれた
街は救われた……。
と思ったら、何を思ったのか、カイトは逃げるキングを追って空を飛び、追いついたと思ったら、キングを街のほうに投げ返して来た……。
「……へ?!?!?! なっ、何してるんだあの猫~~~!?」
街の城壁の前に落ちたスケルトンキングがゆっくりと立ち上がる。
スケルトンキングの身長は街の城壁より頭一つ大きい。
怪物はゆっくりと振り返り、上から城壁の中を覗き込んで笑った……ような気がした。
横に立つ冒険者ギルドのサブマスターがゴクリとつばを飲み込む音が聞こえた。
キングはゆっくりと手を伸ばし……俺を掴んだ。
くそ、あっけに取られて逃げ遅れてしまった、失態だ……。
だが、グリエルが咄嗟に剣でキングの手を斬りつけたので、キングは俺を離して手を引っ込めた。
「す、すまない、助かったグリエル」
グリエル「しっかりしろ! 気を抜くなよ!」
「お、おう!」
手を斬りつけられたキングは怒ったのか、腰に佩いていた大剣を抜き、振り上げる。
あんな巨大な剣で斬りつけられたら、一撃で城壁は破壊されてしまうだろう。
「くそっ、させるか!」
グリエル「おいオクロン! そんな剣で受け止められるわけないだろうが!」
俺は咄嗟に剣を抜き、化け物が振り下ろさんとしている剣を受け止めようとしてしまっていた。だが、グリエルの言う通りだ。あんな化け物の、あんな巨大な剣を受け止められるはずがない。だが受け流せば……ってそれも無理だよなぁ……
キングと目が合った気がした。剣を抜いて構えた俺を見て、キングは剣を俺の上に振り下ろす事に決めたようだ。
「グリエルは逃げろ!」
グリエル「ばっ、お前だけ残して行けるか!」
ごく短時間の間の出来事であったと思うが、すべてがスローモーションのように見えた。
グリエルが俺の横に走ってくるのが見える。
だが、もう間に合わない、化け物の剣が振り下ろされる。
仮にグリエルが間に合ったとしても、例え二人でも怪物の巨大な剣を受け止めるのは無理というものだ。
この街の防衛を担う衛士長としては立派な最後かな…。
グリエルは逃げればいいのに…
友人である俺を見捨てられないのは、奴らしい。
友と一緒に殉死というのも悪くはないか…
怪物の剣が迫ってくる。
その瞬間、俺の前に魔法陣が浮かび、服を着た猫の背中が見えた。
猫人「やらせるわけないにゃろ」
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