第141話 状況は良くないらしい

『こんなチビネコ一匹増えたところで大した違いはないだろ…』


グリエル「サル、せっかく来てくれたのに失礼だぞ。今は一人でも手が欲しい。チビネコでも何かしらの役には立つだろう…いや失礼」


スタッド「おいおい、コイツはとんでもない凄腕だぞ? 街に迫ってたコボルト・オーク、さらにはオーガの群れまでもコイツ一人で殲滅しちまったんだ」


グリエル「オーガもか?! お前達“鉄壁”が手を貸したのではなくてか?」


ボルディ「オーガなんて一匹でも手こずるのに、群れを殲滅なんて俺達にはできんさ」


サル「オーガを? コイツが? 嘘つけ!」


スタッド「俺達が嘘を言ってるとでも…?」


サル「……」


アリー「嘘だと思うなら見張りの衛兵に聞いてみればいいわ。城壁の上から全部見てたはずよ?」


グリエル「後で確認はさせてもらうが、スタッド達が言うなら本当なんだろう。凄腕の冒険者が来てくれたのなら助かる。ちなみに、ランクは?」


「Eにゃ」


サル「ぷっ! Eランクがオーガを倒したとか……アリエネーダロ…」


ジロリとスタッドとその仲間が睨んだのでサルは黙った。


アリー「あれだけの魔法を仕えるのになんでEランク?」


「登録したばかりだからにゃ」


スタッド「なるほどな、田舎から出てきてこれからランクを駆け上っていくホープってところか」


サル「ちょっと待てよ、魔法と言ったか? やっぱりおかしいだろ! 獣人は魔法が使えないんじゃないのかよ!」


グリエル「獣人の中にも魔法を使える者は居るぞ? まぁあまり得意ではない、使えても強力な魔法が使える者はほとんど居ないとは聞くが…」


サル「魔法が苦手な獣人族が、魔法でオーガを倒したとか…」


ダイモン「思い出したよ、そういえばサル、お前確か前にダンジョンでオーガに出会って逃げ出してきたんだったな?」


サル「…っ! ああそうだよ! 仲間はみんなオーガに殺されちまって、俺だけ生き残っちまったんだよ! …それなのに、そんなチビの、先祖返りの獣人がオーガを倒したなんて言われて信じられるかよっ!」


「俺は獣人じゃないにゃよ? 賢者猫ケットシーにゃ」


グリエル「ケットシー? 聞いた事ないな。獣人とは違うのか?」


ダイモン「あ、俺聞いた事ある。子供の頃聞いたお伽噺にそんな名前の妖精が出てた気がする」


アリー「お伽噺でも聞いたことないけど……エルフには伝わってるのねきっと」


(※ダイモンはエルフの男性である。)


サル「ガキのお伽噺なんざどうだっていいんだよ!」


「やれやれにゃ。まぁ俺の事はどうでもいいにゃろ。事態が解決すれば俺は居なくなるだけにゃ」


サル「生きて街を出れたらいいがな…」


「それは脅しかにゃ?」


サル「ばっ、そんなんじゃねぇ! 状況を考えろっつってんだよ!」


ダイモン「確かに……今の状況では……


 …街が全滅って結末もありえない話ではない……」


それを聞いて冒険者達は全員静まり返ってしまった。


「そんなに悪いにゃ?」


グリエル「…すまんな、高ランクの冒険者が居なくなった状態でスタンピードが始まってしまって、皆ピリピリしてるんだ…。強制招集で逃げるわけにもいかないしな」


サル「他人事みてぇに……ギルマスが判断を誤って高ランク冒険者達を死なせなければこんな事には…… 」


グリエル「ギルマスには何度も忠告はしたんだが、平民の俺の言う事など聞く耳持ってもらえなくてな…」


スタッド「で、そのお偉い貴族のギルドマスター様はどこに行ったんだよ?」


グリエル「領主と作戦会議だと言って領主邸に帰ったきり戻って来てない…」


サル「逃げたんだろきっと」


グリエル「……まぁ、こうして応援も駆けつけてくれている。スタンピードとは言え、街の城壁はそう簡単に破られはしないだろう。何日か持ちこたえれば他の街から応援の冒険者や騎士達も来てくれるだろうしな」


スタッド「それはどうだろうな…冒険者はともかく、騎士は来ないんじゃないか? まずはみんな自分の街の守備を固めるだろ? 守備を固めなくていいほど遠方の街からは、そもそも応援を出してくれるかどうか…」


「応援など来なくても俺がなんとかしてやるにゃ。オーガの群れ程度なら、俺が…前に住んでた森では雑魚だったにゃ」


スタッド「……あの程度は、まだほんの先走りにすぎないんだ……」


「それにゃ、後からどんな魔物が出てくるっていうにゃ?」


サル「ああもういいよ、クソチビ猫のホラ話に付き合ってられねぇ! それでサブマス! 作戦は?」


グリエル「正直、作戦というほどのものはもうない。ただひたすら籠城戦になるだけだからな。そして応援を待つ。それだけだな」


スタッド「だが、応援が来た後はどうする? 自然にスタンピードが収まるのを待つのか? そもそも城壁での攻防戦になってしまったら、応援に来た連中も街に近づけないだろう?」


グリエル「その時は、街の人間が総出で援護するしかないだろうな。そして、応援が来て余裕が出たら、冒険者組は再び街から出て魔物の討伐に入る……」


アリー「それはつまり…、応援に来てくれた高ランクの冒険者に頼るって事ね?」


グリエル「そういう事になるだろうな」


その時、外から慌てて一人の男が駆け込んできた。


『たったったっ大変だ! 魔物が! 街の中に入り込んだ!!』


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