第140話 アレってなんにゃ……?
■カイト
数十匹のオークを片付け終えたら、今度はオーガの群れがやってきた。一匹ずつ倒すのがだんだん面倒になってきたな。攻撃を広範囲に効果があるものに切り替えていくか。冒険者達も撤退して周囲に居なくなったしな。
俺は風刃を一つにまとめて水平に体の周囲に飛ばした。水平に飛ぶ鋭利な風の刃が半円状に広がっていき、取り囲むオーガの胴体をまとめて上下に切り分ける。
さらに火球……は森に火災が起きるから水球にするか?
※属性魔法というのは、火球でも水球でも石弾でも、いちいち魔法で弾―――つまり火の球や石の礫など―――を作り出してから射出するが、弾を生成するタイムロスがある。巨大な火球を作り出してそれを拡散するように細かく射出するというのは以前やったが、巨大な火球を作る時間がない。だが、属性に変換せずに純粋な魔力をそのまま使えばタイムロスは極小になる。その分大量の魔力と繊細かつ強力な制御が必要になるのだが。
魔力量に関しては、俺は周囲にある魔力を吸収・補給しながら魔法を使う事ができるので特に問題はない。(普通の人間でも、使用して減った魔力は少しずつ呼吸とともに吸収して回復していくのだが、それだとかなり時間が掛かるのだ。だが俺は意図的に周囲の魔力を集めてきて一気に吸い込む事で回復できる。周囲にある魔力を明確に感知し、強力に制御できる能力があるからこそできる事で、どうやら魔力に対する感度が鈍い
足元にちょうどいい形状の木の枝が落ちていたのでそれをマシンガンに見立てて先端から魔力弾を放ち、群がるオーガを片端から蜂の巣にしてやった。…まぁ木の枝はポーズ、雰囲気の問題で、別に必要ないのだが。
続々と迫ってくるオーガを片端からマシンガンで撃退していく。なんか、そういうスマホゲームを前世で見た気がする。やった事はないが。(やろうとしたらなんか違うゲームに飛ばされて結局できなかったのだ。)それをまさかリアルでやる事になるとは…。まぁ今の俺ならチマチマ殺らんでも、もっと高火力な攻撃魔法で範囲殲滅とかもできるんだけどな。
と言っている内にオーガの行進は終わってしまった。魔物の後続もないようだ。
スタンピードってこの程度? これなら森の奥のほうが大変だったぞ?
振り返ると、城門のところでさっきの冒険者が手招きしていた。何か言っている……今のうちに速く戻って城壁の中に入れと言っているようだ。(俺は耳が良いからこの距離でも聞こえる。)
+ + + +
『おい、助かった。俺はスタッド、こいつはアリーだ』
城壁内に入り城門(の通用口)を締めて一息ついたところで、俺を招き入れた冒険者が声を掛けてきた。
アリー「こっちの三人が、左からボルディ、ダックス、ダイモンよ」
スタッド「俺達は“鉄壁”というパーティを組んでいるんだ」
アリー「タンクが三人で
ダイモン「
ダイモンと紹介されたエルフの男が弓を見せながら言った。
「カイトにゃ。ウィレムグラードで強制招集を受けて応援に来たにゃ」
スタッド「助かったよ、他の街からの応援はもう少し掛かると思っていた」
「俺は速いからにゃ。他の連中もそのうち来るにゃろ…」
スタッド「そうか…今この街には冒険者が少なくてな、応援は多いほど助かる」
ダックス「実は、街に居た高ランクの冒険者が全滅してしまってな…」
「全滅?」
スタッド「…ああ。スタンピードを防ごうとして、この街の高ランク冒険者達を集めてダンジョン内の魔物の間引きに向かったんだが、失敗しちまってな…」
ダイモン「皮肉な事に、それがスタンピードの発生を速めてしまったんだと思う…」
「でもこれがスタンピードにゃ? なら大した事はないにゃ」
アリー「そ、そうね……。ねぇ、
「全然大丈夫にゃ」
スタッド「…そうはいかんさ、いくら強くても一人でどうにかなるもんじゃない。お前だって知ってるだろう? あのダンジョンの深層には…」
アリー「そうだった……やっぱり、アレ、出てくるのかな…?」
スタッド「間違いなく出てくるだろ。もう出てるかも? でなければ高ランクの冒険者達が全滅などしてないだろうからな」
ダイモン「だとすると、かなり苦戦を強いられる事になるな…」
「……? アレってなんにゃ?」
アリー「アレっていうのはねぇ…」
ボルディ「おい、ギルマスが呼んでる。冒険者は一旦ギルドに集合しろってよ!」
スタッド「ああ、じゃぁ行こうか」
+ + + +
◇冒険者ギルド
大男「ん? 見ない奴だな?」
スタッド「カイトだ! 救援要請に応えて隣町から来てくれた冒険者だそうだ」
「隣街じゃない、ウィレムグラードから来たにゃ」
大男「それは…遠くからすまんな」
(※辺境伯領ウィレムグラードからこのリブラムの街までの間には都市一つと中規模の村が三つほどある。)
大男「俺はこの街の冒険者ギルドのサブマスター、グリエルだ。救援に来てくれて感謝する」
すると、ギルドに集まっていた冒険者の一人が呟いたのが聞こえた。
『ちっ。こんなチビネコ一匹増えたところで大した違いはないだろ…』
別に俺の耳が良いから聞こえた、というわけではなく、皆に聞こえるようにわざと大きな声で言ったようだ。
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