第139話 ぬこどんだけ?!

冒険者がダンジョン内で死亡すると、死体はダンジョンに吸収され消えてしまう。それがダンジョンを成長させる栄養となると言われている。


そして、多数の高ランク冒険者がダンジョンに吸収された結果、ダンジョンが急成長し、ついに決壊してしまったのだと思う。


ガルシアは、なんとか残った者だけで対処しようとした。だが、残っているのは中堅以下の冒険者達。人数はそこそこ居るが、みんなCランク以下だ。


もちろん領主の騎士団も街の防衛に当たる。幸いガルシアがボンザレス家の人間であるので、その連携はスムーズだ。


だが、騎士団はどちらかと言うと対人戦闘のほうが得意だ。やはり魔物を狩るのは冒険者のほうが上手いのだ。そんな理由を挙げ領主のホセ・ボンザレスは、騎士団に城壁の守備を固めさせ、俺達冒険者は魔物を少しでも減らすべく、街を出て迎え撃てと命じた。


指示に従い魔物を減らすべく街を出た冒険者達だったが、ダンジョンの周辺には既に危険度Aランク超の魔物が出現し始めている。


冒険者達はダンジョンまで辿り着けず、中間地点で低ランクの魔物を狩るので精一杯だった。


なにせ数が多過ぎる。狩っても狩っても切りが無く、徐々に街のほうへと押し込まれて囲まれてしまうので、街の近くまで撤退して戦うしかなかった。


ジリ貧状態に危機感を募らせる冒険者達。当然、ギルマス・ガルシアを突き上げる。


『自分の失態となる』などとブツブツ言って渋っていたガルシアだったが、冒険者たちの剣幕に負け、周辺の街と帝都の冒険者ギルドに救援を要請した。(バカかよ。報告が遅いほうが問題になると思うんだがな。)


交代で魔獣の駆除に出る冒険者達。だが、押し寄せる魔物が多過ぎる。ついに城壁外での駆除は危険、籠城戦に切り替えた方が良いという判断となった。


冒険者達が街の城壁内に避難していく。防御力に定評のある“鉄壁”の俺達が殿を務めていた。


そこに、一人の猫獣人が現れた。


ちょうど犬系の魔物であるコボルトと戦っていた事もあり、猫系の魔物が出たのかと勘違いしたが、人語を話し、応援に来た冒険者だと名乗ったので先祖返りの獣人だと分かった。


正直、内心では小柄な先祖返りの猫獣人など一人増えても大した戦力にはならないだろうとは思ったのだが、とりあえず応援に来てくれたのはありがたい。要請を出したばかりで、応援が来るのは遅くとも明日以降だと思っていたからな。


だが驚いた。猫獣人の戦闘参加を許可した瞬間、コボルト数体の首が飛んだ。何が起きたのか分からない。エアカッターを使った気配はあったのだが、目視できなかった。さらに、猫獣人が走る。そして手を振る度にコボルトの首がいくつか飛ぶ。あれよあれよという間に百匹以上は居たコボルトは殲滅されてしまった。


城壁の中に撤退するタイミングを逸していたので正直助かった。俺達はすぐに城壁の中へと戻る。猫獣人にも一緒に入るように言ったのだが、見ると何故か、猫獣人は門とは逆方向に進んでいくではないか……


「ちっ! 何をやっていやがる!」


見れば、猫獣人の進む先にはオークの一団が居た。


「無茶だ! 一人でオークの群れに突っ込んでいくなんて…!」


相手は危険度Dランクのオークだ、危険度Eのコボルトとはわけが違うぞ? 確かに先程コボルトを倒した手並みは大見事なものだったが、あんな小柄な先祖返りの獣人にオークが倒せるわけが…


 …倒しているな。


先程と同様、すれ違うだけであれよあれよとオークの首が飛んでいく。何が起きている?


俺がいつまでも城壁内に入って来ないので、アリーが心配して戻ってきた。


アリー「ちょっとスタッド? どうしたの?」


「アリーか…。アレを見てみろ…」


アリー「さっきの獣人…? …って凄いわね。オークが次々と倒されてる…」


「剣を持ってるわけでもない、爪で首を切ってるのか? あの小さな爪でオークの首が斬れるとも思えんが…」


アリー「あれは――魔法ね。さっきは近すぎてよく見えなかったけど、離れたからなんとか分かる、風刃エアカッターを連発してオークの首を狩ってる。爪を使ってるように見えるのは、爪から風刃を発しているみたいね」


「エアカッター? 俺には何も見えんが。風刃はもともと見えにくい魔法ではあるが、あそこまで何も見えないというのも…?」


アリー「…恐ろしく速いのよ、魔法が飛んでいく速度が。近くに居たら私も何も見えないでしょうね。それに、よく見たら、風刃以外の魔法も使ってるみたい。速すぎて、何の属性なのかよく分からないけど…」


「多属性持ち?!」


アリー「他属性持ちも珍しいけど、それ以上に、あれだけ魔法を連発して魔力が尽きないのも異常……魔力を補う魔道具でも持っているのかしら?」


「しかも、オークの死体が倒れると同時に消えていく。あれはまさか、収納魔法持ちか? 一体何者なにもんだアイツ……?」


アリー「いやいや、多属性の攻撃魔法にさらにレア属性の収納魔法とか、賢者でもない限り、そんなのありえないでしょう。収納魔法は高性能なマジックバッグを持っているのかも? ……つまり……」


「つまり?」


アリー「……すごいお金持ちかも?」


「金持ちで強力な魔法使い…貴族か?!」


アリー「獣人の貴族なんて聞いたことある?」


「ないな。だけど、他国ならあるんじゃないか?」


アリー「以前、東に獣人だけの小国があったって聞いたけど…そこの出身という可能性はあるかも知れないわね。でも…」


アリー(獣人は基本、魔法は使えないはずなんだけど…???)


などと言っている内に、気がつけば数十体居たオークが全滅していた。


だが、スタンピードだ。魔物が途切れる事はなく、次がもう来ている……拙い! 今度はオーガだ!


さすがにオーガは相手が悪いだろう…。


戻ってこいと言っても声が届かない距離まで離れてしまっている。近くまで行って連れて戻るか?


だが、オーガは危険度Aランクの魔物だ。並の冒険者では太刀打ちできない。俺が行っても逃げ切れないだろう…。というか逃げてオーガを引き連れて戻ってこられても厄介だしな。


まぁ、たとえオーガでも城壁の中に逃げ込んで扉を閉められればなんとかなるかも知れないが…


だが、見ると猫獣人はオーガも普通に……いや、簡単に・・・倒している……。どんだけ…?!



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