第138話 リブラムで無双

リブラムの街の近くに【転移】すると、数人の冒険者が街の外でゴブリンと戦っているのが見えたので、俺はしばらく様子を見る事にした。


他の冒険者が魔物と戦っている時は手を出さないのが暗黙のルールだとノアのガイドブックに書いてあったからな。下手に手を出すと、獲物を横取りしたと言われてトラブルになってしまうのだそうだ。


魔物の素材の所有権はそれを倒した者にある。だが、誰かが頑張って弱らせた魔物を、別の冒険者が横からトドメを刺して所有権を主張する事があるのだそうだ。それだと、美味しいところだけ奪うなとトラブルになるのは当然だな。


もちろんピンチに陥っている時は別である。確認して、相手が救援を望むなら介入して構わない。


だが、相手はたかがゴブリンである、普通の冒険者ならばピンチになるような相手でもない。実際、戦っている冒険者達も余裕で次々ゴブリンを屠っていっている。


だが…、たかがゴブリン、されどゴブリン。雑魚魔物であるゴブリンでも、数が多ければやはり脅威となる。そしてさすがスタンピード? ゴブリンはかなりの数であった。ざっと見積もって百とか二百とかそういう数だ。初心の冒険者では危なかったかも知れない。


まぁ危なくなったら確認してから手助けしてやろうと思いながら見ていたが、俺の出る幕はなく、冒険者達は自力でゴブリンを殲滅できたようだ。


だが、休む間もなく続けて別の魔物の一団がやってきた。これがスタンピードか? 次に現れたのは狂犬の頭を持つ亜人の魔物、コボルトである。


冒険者達もさすがに疲れてそうだったので、俺は声を掛けてみた。


「手を貸そうか?」


冒険者A「おお!? 前から犬の魔獣、後ろから猫の魔獣か!」


「誰が猫の魔獣にゃ。冒険者にゃ」


冒険者A「なんだよ獣人か…、脅かすな」


「ギルドの緊急要請に応じて助けに来たにゃ。で、手助けは要るにゃ?」


冒険者B「ああ、手を貸してくれると助かる。あんまり頼りにならなさそうだが…」


「いちいち一言多い奴にゃね…」


許可が出たので俺は爪を出し、冒険者たちの前に躍り出ると、そのまま眼前に迫るコボルトの群れに向かって突っ込んでいく。


冒険者A「あ! おい、無茶するな!」


もちろん無茶などではないさ。


俺はコボルトの間を駆け抜けながら風刃を飛ばし、片端から頸を斬り飛ばしていく。


既に交戦中の冒険者が居るかも知れないので範囲攻撃で一気に殲滅はできない。一匹ずつ刈って行くしかない。だが、この程度なら造作もない。風刃を飛ばすだけの簡単なお仕事だ。


俺が飛ばす風刃にコボルトは反応する事もできず頸を刈られて次々倒れていき……、ほどなくして、コボルトは全滅した。


冒険者A「おい……見たか? すげぇな……」

冒険者B「風刃エアカッター…だよな?」

冒険者C「見えないけど、それっぽいわね」


魔法の攻撃というのは、その威力ばかりが注目されるが、その“射出速度”については考える者は少ない。だが、魔法が飛ぶ速度が遅ければ、どんなに威力がある魔法だろうと避けられてしまうのだ。


だが、俺はそこに注目して、自分の魔法の飛ぶ速度を速くする方向で魔力を使うようにしている。目に見えないほどの速度で魔法を飛ばす事で、相手に避ける隙を与えないのだ。(高速で飛ぶ弾丸が見えないのと一緒だ。)


さらに言うと、肉眼で捕えられないほどの速度域で射出するようになると、魔法の種類や威力もあまり関係なくなってくる。魔法で作った弾丸を射出するライフルのようなものだ。その速度自体が破壊力となり、あたった目標を粉砕していくのだ。


これは、俺にとっては当たり前の事。森の深奥に居る動きの素早い魔物相手にはそうでなければ当たらなかったのだ。


冒険者D「誰だ? 見たことない奴だな」

冒険者A「応援に来た冒険者とか言ってたが?」

冒険者E「他領で活動してる冒険者か」

冒険者B「ギルマスが応援要請を出すと言っていたが、やっと来てくれたんだな」

冒険者C「だけど一人……一匹だけ? 少なすぎない?」

冒険者D「だが、凄腕だな…あんな奴が居たんだな」

冒険者A「ちっ、拙いぞ! 今度はオークだ。これ以上は無理だな、撤退するぞ」


冒険者Aの指示で、他の冒険者達が街の城門に向かって走る。


城壁の上に居る兵士に合図すると、通用口っぽいところが開く。素早く中に入る冒険者達。


冒険者A「おい、お前も早く来……あ! 馬鹿野郎、一人でどうする!」


冒険者Aが俺にも声を掛けてきたが、俺は門には向かわず、迫ってくるオークの集団に向かって行った。




  +  +  +  +




■スタッド


俺はスタッド。ボルディ、アリー、ダックス、ダイモンの四人と共に“鉄壁”というパーティを組んでいる。


俺達が拠点にしているのはリブラムという街だ。近くにダンジョンがあるので一攫千金を求めて冒険者達が集まってくる街である。


だが、今この街は窮地に陥っている。そのダンジョンからスタンピード氾濫が発生してしまったためだ。


実はこのダンジョンは攻略済みのいわゆる“管理ダンジョン”である。所有者(管理者)はこの街の領主だ。管理ダンジョンは、普通、スタンピードをおこさないように管理されている。


だが、このダンジョンはスタンピードを起こしてしまった…。


まぁ、ダンジョンの管理というのはデリケートなものでなかなか難しいらしく、管理ダンジョンでスタンピードを起こしてしまう事故はたまにあるらしい。


それに管理者は領主だがそれは名ばかり。領主は権利を所有しているだけで、管理自体はこの街の冒険者ギルドに委託していたのだ。


だが、その冒険者ギルドのマスターが問題だった。


ギルマスは、安全性を無視して魔物の増産を行ったのだ。ダンジョンから取れる素材による儲けを重視したらしい。ギルマスは領主家の命令だ、儲けを重視する方針だと言っていた。


なぜ冒険者ギルドが領主の指示に従う? 冒険者ギルドは国や領主からは独立した組織であるはずなのだが…?


だが、そんな建前は意味がない。なにせ、この街のギルドマスターは領主家の人間なのだから…。


この街の冒険者ギルドのマスターであるガルシア・ボンザレスは、領主家であるボンザレス伯爵家の五男なのだ。


家を継げない五男であるガルシアは冒険者になった。そして、実家の威光と財力をフルに使ってマスターまで成り上がったのである。(噂ではボンザレス家は冒険者ギルドの本部とコネがあるらしい。)


ガルシアは貴族である事を鼻に掛けたムカつく奴だった。当然冒険者達には好かれてはいなかったが、小物なのでギルド本部に目を付けられるような目立つ悪事もせず。稼げるならと細かい事はあまり気にしない冒険者達が多かった。


ダンジョンが近くにあるので稼げる街として冒険者はいくらでも集まって来るしな。


そんなある日、ガルシアが高ランク冒険者達に強制招集を掛けた。ダンジョン内の魔物を減らすべく大規模レイドを組んで挑むという。どうやらスタンピードの兆候があると報告を受けて、慌てて対処しようとしたらしい。


スタンピードのための強制招集なので冒険者達に拒否権はなかった。


だが、なんとそのレイドは失敗。参加した冒険者の大部分が死んでしまう結果となった…。


(俺達は残念ながらランクが僅かに足りず居残り組になってしまったのだが、おかげで助かった。)


そして…死んだ高ランク冒険者を吸収し、ダンジョンの成長はさらに加速し……ついにスタンピードが発生してしまったのだ。


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2024年9月23日 00:01

パワハラで人間に絶望したサラリーマン人間を辞め異世界で猫の子に転生【賢者猫無双】~天邪鬼な賢者猫、異世界を掻き回す~(オリジナル版) 田中寿郎 @tnktsr

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