第136話 立派な商人になるにゃよ
ルグレフ「マキ君は私が帝都まで送り届けよう。それならいいだろう?」
「俺が帝都まで送り届けなければ、護衛依頼を達成した事にならんにゃ」
ルグレフ「依頼は往復での契約なのか?」
「そうにゃ」
ルグレフ「だが、冒険者の依頼というのは、依頼者が認めれば途中で変更も有りのはずだが? マキ君、私が責任を持って君を帝都に送り届けるから、依頼を達成した事にしてくれないか?」
マキ「は、はい、それなら……大丈夫です」
「……」
一度引き受けた仕事だ。もしここで別れて、その後マキに何かあったらと考えると、素直に認める気にはなれないが……
ルグレフ「辺境伯の名に掛けて責任を持つから信じてくれていい」
俺はマキの顔を見た。マキは少しオドオドした様子ではあったが、俺と目が合うと力強く見返し頷いた。
「……まぁ、マキが良いと言うならいいにゃ。でも、ちゃんと帝都に送り届けるにゃよ? 辺境伯自身が帝都までマキを送ってくれるという事でいいんにゃよな?」
ルグレフ「え…?! …いや、私は行かないが。マキ君の護衛には私の騎士をつけるつもりだ。もちろんマキ君を丁重に扱うよう命じておく。信頼できる部下をつけるつもりだし、ああ、旅費も全て私が持つ…。それでは信用できないかね?」
「信頼できる部下ね……ソイツは本当に大丈夫なんにゃ?」
カルロ「先ほどから無礼だぞお前! 辺境伯家に仕える者が信用できないというのか?」
「おかしな門番を雇っていたからにゃぁ」
ジョージ「それを言われると弱いね」
ルグレフ「む、確かに…。信用がないのも仕方がないか」
カルロ「門番? それはもしかして、この間やってきた隣国の貴族の紹介の……?」
その時、急に執事が喋りだした。
執事「……! 申し訳有りません! あれは、私が勝手に判断した事で…!」
カルロ「何を言ってる、あれは、俺がいいって言ったんだから、俺の判断だ」
執事「いえ! カルロさまの助言はございましたが、最終的にあの男を配置したのは私の判断なので、カルロ様の責任では…」
ルグレフ「なるほど。そうだな。雇用の判断をお前に任せたのは私だ。だからカルロが何か言ったとしても、責任は執事にある」
カルロ「そんな…」
ルグレフ「だが、子供や部下がやった事の全ての責任は、その親、その雇用主である私にある。だから結局は私の責任と言う事だよ…」
カルロ「父上…」
執事「お館様……」
「部下の責にして逃げる者も多いのに、ちゃんと責任を取るというのは上に立つ者としては大事な事にゃ…。その姿勢や良し。いいにゃ。辺境伯が選んだ騎士に任せるにゃ」
マキ「帝都についたら冒険者ギルドにちゃんと依頼完了の報告を出しておきますので」
ルグレフ「うむ、病気の母上を待たせているそうだから出立は早いほうがよいだろう。とはいえ今日はもう遅い。明日出発の手配するので、今日はゆっくり食事を楽しもうではないか。さぁ、ワインは飲めるか? 飲めない? 水でいい? そうか…。まぁこの街の水はそれだけでも美味いがな」
辺境伯が用意してくれた晩餐はなかなか美味かった。帝都ではメイヴィが日本の料理を広めた影響で、俺にとってもそれほど違和感のない料理が多かったのだが、辺境の街では独特の料理・文化があるようだ。もちろん、最高級の料理を用意してくれたようなので、庶民がいつもこのような食事を食べているというわけではないのだろうが。
辺境伯も、普段はこんなに豪華な食事はしていないそうだ。あくまで客をもてなすために用意してくれたらしい。
そして翌日。いろいろな手配があるので早朝出発とはならなかったが、騎士がついており、移動も高速な馬車を用意するので問題ないらしい。
「やっぱり…リリアンヌの回復が確認できるまでこの街に居て、一緒に帰ったほうがいいんじゃにゃいか?」
とはいえ、二~三日では許してくれそうにはなかったが。リリアンヌの容態は、最低以下一ケ月くらいは様子をみたいという事だったのだ。辺境伯の持つ高速馬車であれば帝都まで七日ほどで着くそうなので、待つよりはずっと早く着く。
マキ「いえ! 大丈夫です。というか、旅も楽しみです! 商人として、これから旅にも慣れていかないといけないですし」
「そうか……。分かったにゃ。気をつけて帰るにゃ。お母さんによろしくにゃ。……立派な商人になるにゃよ」
マキ「そんな、お別れみたいな事言わないで下さい。カイトさんも帝都に戻ってくるんですよね? そしたら一度商会に顔を出して下さい。約束ですよ!」
「ああ、戻ったら一度顔を見に行くにゃ。さぁ早く帰ってお母さんに顔を見せてやるにゃ」
+ + + +
◇辺境伯領冒険者ギルド
結局、マキの出発前に一緒にギルドに行き、依頼完了を報告した。
依頼の完了届けはこの街のギルドに提出すればよいらしい。辺境伯がギルマスに問い合わせたら教えてくれた。帝都のギルドへの連絡はギルド間通信で行えるそうだ。
この街の冒険者ギルドのマスターは辺境伯とは懇意にしているらしい。一緒に辺境伯も来て、リリアンヌを襲った魔植物、
そして、領主からの指名依頼という事で、冒険者達で対処する事になり、俺も成り行きで協力する事になる。詳しい人間が他に居ないからな。
まずは、俺が街の中を探索して、街の中にクラゲカズラが繁殖していないか調べる。結果、街の中で数か所、クラゲカズラが発見された。思ったより多い。
幸い、まだ成長途中で触手での攻撃はできない段階だったので被害者は居ないだろう。
発見したら後はギルドに報告、冒険者ギルドと辺境伯で対処するという事であった。近寄ると触手が伸びてくるが、離れた場所から火魔法で焼き払ってしまえばさほど手強い相手でもない。
ただ、地下茎で侵食して来るタイプなので、発見したら、地面を掘り返して根を処理しなければならないのが厄介であった。これも冒険者達への依頼となった。(根には攻撃性はないので掘り出して切り刻むか燃やしてしまえば良い。)
さらに、防壁の外周を調べ、街の近くにいる魔植物も根絶やしにする。放っておくとまた地下から街に侵入してくる可能性があるからな。
辺境伯にはクラゲカズラに効く毒(除草剤)を研究するように助言しておいた。すぐには難しいだろうが、あれば外壁の外の地面に撒いておけば予防になるだろう。
そしてリリアンヌだが……すっかり元気になり、再発する兆候はないようであった。一ヶ月以上は様子を見たいという要望であったのだが、二週間を過ぎた時点で、もう良いという事になった。(そもそも、これまでは2~3日で再発していたのだ。二週間再発がなかったのなら十分だろう。)
辺境伯からは丁寧な感謝と長く引き止めてしまった事への謝罪があった。
それから、娘の治療代としてかなりの量の金貨を貰った。遠慮なく頂いておく。
さらに、辺境伯からは、冒険者など辞めて自分の下で働かないか? とスカウトされた。もちろん断った。
今更上司部下の関係になって仕事に拘束されるなんて真っ平だからな。
というわけで、帝都に戻ろうとしたのだが……
…タイミングが悪かった。
一応ギルマスに挨拶をしてから帰ろうなどと思ったのがいけなかった。冒険者達に緊急事態の強制招集が発令されたとところに居合わせてしまったのだ。
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