第135話 信じてもらうしかないにゃ

カルロ「嘘つけ! 街を出たらそのまま戻ってこないつもりだろう!」


マキを帝都に送ってすぐ戻ってくると言ったらそう言われた。


ルグレフ・ジョージ「「カルロ…!」」


カルロ「言っておくが逃げても無駄だぞ。帝国中に指名手配して必ず捕まえてやる!」


ジョージ「カルロ! いい加減にしないか!」


カルロ「父上も兄上も人が良すぎます!この間もおかしな治癒士に騙されたばかりではないですか!」


ジョージ「騙されたわけじゃないよ、ちゃんと監視をつけていたしね。父上も、嘘の可能性が高いとは思っても、藁にも縋る思いだっただけだ。そうだよね?」


ルグレフ「……カイト殿、どうだろう?」


「?」


ルグレフ「君は残ってもらって、マキ君だけ帰ってもらうというのは?」


「…ん? ああ、別に帝都まで送って戻ってくるのに十分も掛からんにゃよ? 俺は転移が使えるからにゃ」


ルグレフ「……転移だと?!」


カルロ「またそんな嘘を……嘘はもっと上手につくものだ」


「別に嘘はついてない――」


カルロ「…! 消えた?!」


「――にゃよ?」


カルロ「…うわっ!」


次の瞬間、俺はカルロの後ろに立っていた。転移で移動してみせたのである。後ろから声が聞こえて思わずカルロは驚いたようだ。


すぐにもう一度転移で元の席に戻る。


ルグレフ「なんと……高度な治癒魔法だけでも希少なのに、転移魔法まで使えるとは……まるで【賢者】ではないか?」


「【賢者猫】にゃ、メイヴィスがそう言ってたにゃ」


ルグレフ「メイヴィス……というのは、もしかして、この国の大臣でもある【賢者】メイヴィス・アダラールの事を言ってるのか?」


「そうにゃ。メイヴィスとは……まぁ腐れ縁みたいなもんにゃ」


カルロ「キサマ、帝国の誇る賢者様に対して腐れなどと無礼であろうが」


「腐れ縁にゃよ? そういう言葉はこのせ…この国にはないにゃ? まぁ色々と過去に関わりがあった間柄だって事にゃ」


ジョージ「賢者猫、というのは私は聞いた事がないですが、賢者のような猫、という事ですか?」


ルグレフ「いや、妖精族の一種、ケットシーの別名だったはずだ」


「それにゃ! ケットシーにゃ。よく知ってるにゃ」


カルロ「馬鹿な……妖精族なんて、父上は信じているのですか?! 子供向けのお伽噺にしか出てこない存在ではないですか!」


ルグレフ「カルロ、妖精族は架空の存在ではない、実在する種族だぞ」


カルロ「……え? そんなの、聞いた事…ないですが…」


ジョージ「人間の世界ではまずお目に掛かる事はないからな…」


カルロ「兄上は知っていたのですか? あった事が?」


ジョージ「いや、俺も会ったのは事はない、カイト君が初めてだよ」


ルグレフ「転移が使えるなら、帝都からここへも…?」


「いや、行ったことがない場所に行く事は……できない事はないば大変なんにゃ。だから行きは走ってきたにゃ」


※本当は行ったことがない場所にも行けなくはない。だがそのためには行き先を魔力によってサーチして事前に調べる必要があり、目的地が分かっていないと大変なのだ。(地球で言えば、聞いた事のない街の名を言われて、どこの国なのかすら知らずにGマップを開いてマップの移動だけでその街を探し出せと言われているようなものである。そもそも、サーチも転移も遠方になるほど膨大な魔力を必要とするのである。当てずっぽうではなかなか難しいのだ。)


カルロ「たっ、たとえ転移が使えようとも、街から出る事は許容できない。本当に返ってくる保証がないじゃないか!」


「そんな心配は意味ないけどにゃ。だって、その気になればいつだって俺は転移で逃げ出せるんにゃよ? 今すぐに転移で帝都に帰る事も可能にゃ。マキを送ったらすぐに戻ってくるにゃよ」


マキ「あ、あの!」


「?」


マキ「僕だけ一人で帰ります、それなら辺境伯様も安心ですよね?」


「護衛なしで帝都まで帰るのは無理にゃ。マキに別の護衛を雇う金はないにゃろ? 俺の今回の護衛の報酬は銅貨五枚にゃ。そんな金額で護衛を引き受けてくれる冒険者はいないにゃ」


カルロ「銅貨五枚?! 安すぎないか? 余計に怪しいだろ!」


「今回は昇級試験を兼ねているにゃ。だから金額はどうでもいいにゃ」


ジョージ「なるほど…」


マキ「いえ! 辺境伯様から今回の依頼の報酬を頂きました。それも、当初の約束よりもかなり多めに」


ルグレフ「娘のために誠実に働いてくれたのだ。それに、薬草はともかく、治療ができる者を連れてきてくれたのは本当にありがたかった。だから報酬増額は感謝の気持ちだよ」


マキ「だから、カイトさんにも普通の依頼料を払います。護衛も、別の冒険者を雇って帰ります」


「別にいらんにゃ。俺は銅貨五枚で受けたにゃ、それ以上取る気はないにゃ」


マキ「それに、僕も普通の旅も経験してみたいんです、立派な商人になるために! カイトさんにおんぶされて移動しただけでは楽過ぎて」


「…だけど、冒険者もピンキリにゃ。おかしな冒険者に当たれば、マキ一人では舐められて酷い目に合わされる可能性もあるにゃ。マキが女の子だったと分かったらなおさらにゃ」


※マキが男の子のような格好と振る舞いをしていたのは、両親がマキを心配してそのようにさせていたのだ。いずれもっと商会がもっと大きくなれば護衛をつけられるようになるが、それまでは危険を少しでも避けたかったのである。


ルグレフ「いや、冒険者を雇う必要はない、護衛は私の騎士をつける。もちろん無料でだ。もちろん、騎士にはマキ君を丁重に扱うよう命じておこう。それならいいだろう?」


「それじゃぁ依頼を達成した事にならんにゃよ…」



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