第132話 フエヤリの場合

■フエヤリ


俺はフエヤリ・バンカン。ちょっと名の知れた鑑定士だ。鑑定士って知ってるか? 【鑑定】の魔法が使え、かつそれを仕事にしている者の事だ。


【鑑定】の魔法は、攻撃したり身を守ったりする魔法じゃない。ただ、知る事ができる、それだけの魔法だ。


だが、これが使い方によっては非常に大きな価値を持つ。


一番大きいのは、対象モノの品質を確認できる事だ。例えば、ウサギの肉を持ってきて「オークの肉だ」なんて嘘をつく奴がいても、鑑定士にかかれば嘘はバレバレだ。


だから、ギルドの素材買い取り職員などには【鑑定】が使える者が多い。当然、普通の職員より高い給料を貰ってその仕事をしているわけだ。


あるいは商人。商人なら品物の目利きは非常に重要だから、やはり高い給料で雇われる事が多い。(商人自身が【鑑定】を使える者である事も多いが。)


“目利き”だけじゃない。【鑑定】は戦闘時にも役に立つぞ? 対峙した相手や魔物の能力や弱点を鑑定で見抜く事ができれば戦略を立てやすいだろう?


そんなわけで、ものすごい価値の高い技能なのだよ、【鑑定】というのは。俺はこの魔法に誇りを持っている。


そもそも、【鑑定】の魔法やスキルを持っている者は希少なのだ。一説によると、魔法が使える人間の中でも【鑑定】が使えるのは千人に一人くらだなんて言われている。


魔法はたいてい誰でも使えるが、身をキレイにしたり水を少量出したり、小さな火を出したりする程度の生活魔法の話だ。


戦闘に使えるような強力な魔法が使える人間は十人に一人くらいと言われている。と言う事は、【鑑定】が使える者は一万人に一人という事だ。


さらに言うと、鑑定士にはランクというものがある。


【鑑定】と一口に言っても、調べられる範囲や内容が人によって違うんだ。レベルが低い者は調べられる範囲が限られている。何回かに一度、やっと名前が判る程度のレベルの低い奴なんてのも居るのだ。(まぁそういう奴は【鑑定】が使えるとは認められないが。)


また、鑑定できる対象の種類、得意不得意も人によって違う。植物の鑑定が得意な者や、魔物鑑定が得意な者など、色々だ。


そして、鑑定によって得られる情報も、鑑定士によって千差万別。対象の名前とレベルや品質だけが判る者から、対象の過去の歴史まで事細かに判る奴まで居る。


そんな中で、俺は鑑定士ギルドからAランクの認定を受けている。Aランクの鑑定士は稀有な存在なのだ。


ちなみに、俺の得意な鑑定範囲は怪我や病気だ。鑑定によってどんな怪我をしているのかどんな病気なのかが判るのだ。これはとても重宝された。どのような怪我なのか詳細が判ると、治癒魔法が効きやすくなるからだ。


最初、俺もほとんどの治癒士が所属している教会に勤めていた。


だが、俺自身が治癒魔法を使えない事もあり、教会での俺の地位は低く、酷い扱いをされた。


それに嫌気が差し、俺は教会を辞め、自身の能力を活かすべく新天地を目指した。多くの魔物と戦う冒険者の居る辺境の地だ。当然怪我をする冒険者も多い。きっと俺の力が役に立つはずだ。


そして、俺は辺境の街ウィレムライツに辿り着いた。


そこで、治癒魔法の下手な治癒士バリカルと出会った。バリカルは、そこそこ魔力は高いのに、治癒魔法の使い方が下手で、三流治癒士と呼ばれていた。


だが、俺が鑑定して適切な治癒魔法の使い方を指示する事で、見違えるほど成果を上げるようになったのだ。


そしてやがて、俺達は街の領主である辺境伯の目にとまった。


辺境伯は俺達の能力を高く評価してくれて、専属契約を結んでくれた。俺はその期待に答えるべく、我武者羅に頑張った。


結果は上々。俺達は辺境伯の使用人や騎士・兵士達に感謝され、尊敬されるようになった。


そんな時、辺境伯の令嬢リリアンヌ様が病に倒れた…。


俺達はすぐに鑑定と治療に当たった。


鑑定の結果、体が毒に侵されている事が分かった。聞けば、少し前に植物の魔物に絡みつかれたという事だったので、おそらくその時に毒を受けたのだろう。


すぐにバリカルに解毒の治療をさせた。幸いにも解毒はバリカルの得意分野だったのだ。リリアンヌ様はすぐに回復した。


念の為毒が残っていないか念入りに鑑定したが問題無し。これで解決したと思った。辺境伯にも感謝され、ボーナスを貰った。


だが…数日後、またリリアンヌ様が倒れてしまった…。


再び鑑定すると、以前と同じ毒に侵されている状態であった。おかしい、確かにあの時は毒は完全に消えていたはずだ…。


バリカルに解毒させると、リリアンヌ様はすぐに良くなったのだが……解せない。


前回の治療が上手く行ってなかった? いや、そんなはずがない。


…そうか、あの後また毒を受けたのだろう、そうに違いない! というかそうとしか考えられない。


そう思い、それを辺境伯には報告した。だがルグレフ様はリリアンヌ様は屋敷から出ておらず、魔物と接触する事などないはずだと言う。


ではお嬢様が嘘をついているのだろうと言ったが、本人はそんな事はないと言っているとの事。


結局、原因は分からず様子を見ると言う事しかなかった…。


そして、三度目の発症。回を重ねるごとに症状が酷くなる。俺達は慌てて治療した。すると回復はするのだが、ダメージは重く、毒が抜けても身体が回復するのに時間が掛かるようになってしまった。治癒魔法でも体力の回復はできない。栄養をとってゆっくり養生するしかない。


しかし…何故? リリアンヌ様が外に出ていないのであれば、屋敷内の誰かが毒を盛ったのでは? と俺は推測した。それをルグレフ様に進言。理由を問われたが、他に考えられないからだと答えた。特に怪しいのはリリアンヌ様の世話をしている使用人達だろう。


俺の進言を受けて、辺境伯は使用人達、さらには屋敷に出入りした者を全て調べたが…結局犯人は見つからなかった。


そして、四度目の発症……。まずい、症状が酷すぎる。幸い、俺とバリカルの必死の治療で一命は取り留めたが……。


今度こそ、念入りに、何度も、何度も、鑑定を行う。


なんとか毒の侵入経路まで鑑定できないか? 頑張ってみたが、俺の鑑定では毒の歴史・・までは判らないのであった…。


とりあえず、鑑定では毒は完全に消えている。


だが、回を増すたびに症状は重くなっている。おそらく、次に発症したら命はないだろう……


そんな時、ルグレフ様が妙な猫獣人を連れてきて、リリアンヌ様を診させると言い出した。


当然反対した。必死で入念に調べた後だ。誰かに触れてほしくない。


だいたい、誰が毒を盛っているのか分からないこの状況で、もしそいつが犯人だったらどうするのだ? トドメを刺しに来た刺客だって可能性もあるじゃないか?


するとその猫獣人が急に、魔植物のトゲが体内に残っていると言い出した。


トゲだと?!



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