第130話 この猫も捕らえて処刑しましょう!
「やっぱりにゃ。トゲが残ってるにゃ」
フエヤリ「トゲだと……? フン、この間の詐欺師と一緒だな。辺境伯が分からんと思って適当な嘘を並べて騙すつもりなんだろう。だが残念だったな、まさか鑑定士が居ると思わなかったのだろう? 私が鑑定した限りではトゲなど刺さってはおらん!」
「お前の鑑定のレベルが低いから見えないだけにゃ。目に見えないほど小さいトゲにゃ」
フエヤリ「なんだと! 私はAランクの資格を持つ鑑定しだぞ?! それをレベルが低いなどと……」
ルグレフ「フエヤリ、少し黙れ。カイトと言ったな? もう少し詳しく聞かせてくれるか?」
そこで俺は森での体験と鑑定結果、治療方法について説明してやった。
フエヤリ「…ふん、よくもまぁもっともらしい理屈を並べたものだ。ルグレフ様、騙されてはいけませんぞ? この間のインチキ治癒士ももっともらしい話を並べていたではないですか?」
ルグレフ「……その話が本当なら、カイト、お前なら娘を治せると言う事だな?」
「……少し難しいにゃ。時間が経ちすぎているにゃよ。もう全身にトゲが回っているにゃ。次に発芽したらもう身体が耐えられないかもしれんにゃ」
フエヤリ「ほれ見た事か! 結局、訳の分からん屁理屈を並べたあげく、もう手遅れだ、治せないと言い出すのだ。ルグレフ様! 此奴も捕らえてあの詐欺師と一緒に処刑しましょう!」
「難しいとは言ったが、治せないとは言ってないにゃ」
ルグレフ「本当か?!」
「ただ、時間が掛かるにゃ。全身に回った見えないほど小さなトゲを、魔力を使って一つずつ絞り出して取り除く作業が必要にゃ。何時間、あるいは何日も掛かるかもしれん作業にゃ。ものすごい集中力も必要にゃ。そこで馬鹿みたいに喚いている奴がいる環境では無理にゃ」
フエヤリ「よく悪知恵の回る奴だ。ルグレフ様、騙されてはいけませんぞ」
ルグレフ「確かにフエヤリの言う事ももっともだとは思う」
フエヤリ「そうでしょうとも! さすがは辺境伯様、賢い判断です」
ルグレフ「……だが! フエヤリがもう大丈夫と何度も言ったにも関わらず、結局治ってはいなかったではないか?」
フエヤリ「そ…それは……」
ルグレフ「カイト、頼む、やってみてくれないか?」
「やってみてもいいけどにゃ。俺がいいと言うまで何日でも絶対に邪魔が入らないようにしてもらわなければできないにゃ」
ルグレフ「約束しよう」
フエヤリ「ルグレフ様! そんな得体の知れない奴を私より信用するのですか? そんな小汚い獣人に、リリアンヌ様の身体を触れさせるのですか?!」
ルグレフ「フエヤリ、バリカル。部屋を出ていけ。私がいいと言うまでこの部屋に近づく事は許さん!」
フエヤリ「…! ルグレフ様、その猫にどうしても治療させると言うのならば、このフエヤリ…とバリカルは辺境伯様の下で働くのは終わりとさせて頂きますぞ!」
バリカル「え?! 俺も?! いやいや、巻き込むなよ! 辞めるならお前一人で辞めりゃいいだろ!」
フエヤリ「
ルグレフ「……フエヤリ。部屋を出て、いいと言うまで部屋に近づくな。二度も言わせるな」
フエヤリ「……分かりました。お世話になりました。もうお会いする事もないでしょう!」
バリカル「お、おい?! フエヤリ?! 本気か?!」
フエヤリは憮然とした表情で部屋を出ていった。それを慌てて追いかけるようにバリカルも出ていく。
ジョージ「父上、良かったのですか?」
ルグレフ「仕方がなかろう。それより今はリリアンヌだ。カイト、頼めるか?」
「にゃ」
俺はベッドの脇に椅子を持ってきて座ると、リリアンの手に肉球で触れ、【顕微鑑定】を開始する。
どんどんリリアンヌの身体が俺の感覚の中で拡大されていく。そして、細胞一つ一つを調べるくらいのつもりで体内をサーチしていく。もちろんクラゲカズラの
全身くまなく調べて、その
だが、全身を細胞レベルで調べていく作業はとてつもなく時間が掛かる。だが、根気よく続けるしかない……
・
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どれくらい経っただろうか?
どれほどの数のトゲを取り出しただろうか?
トゲだけではない、既に発芽して伸び始めている種子もかなりあったのだ。その伸びた根やら芽やらも一つずつ除去していく。
一つでも残せばまた再発してしまうので絶対に見逃せない。
ただ、数を熟したおかげで治療の最中にも鑑定の技術が上がった。トゲの持っている微細な魔力が分かるようになったのだ。
トゲの魔力は宿主の魔力は当然異なっている。曖昧だったそれをはっきり感知できるようになったので、指定した範囲の中からトゲがある場所を一瞬で見つけ出せるようになってきたのだ。
おかげで作業は捗り、それなりに時間は掛かったものの、ついに最後の一つを取り除く事に成功した……。
「……終わったにゃ」
顔を上げてそう言うと、壁際に控えて船を漕いでいた使用人が慌てて部屋を飛び出して行った。
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