第128話 辺境伯の事情

辺境伯ルグレフ「いや、実はな、その薬草はもう必要なくなってしまったのだよ……」


マキ「え?! そんな……それじゃあお金は……?」


「まさか、金は払えんとか言い出さないよにゃ?!」


ルグレフ「……もし払わんと言ったらどうする?」


ジョージ「父上?!」


マキ「そんな……お母さんの治療代も払えないし……お金が貰えないと商会が潰れてしまう……」


「それはおかしいにゃ。契約書もキチンと交わしてるにゃ。既に仕入れに多額の金が掛かってるにゃ。その段階ではキャンセルはきかないのが普通にゃろ? もし、貴族だからって契約を反故にすると言い出すにゃら……俺も黙ってはいないにゃよ?」


ルグレフ「お前はここまでの旅の護衛として雇われただけだろう? 目的地についたのなら、それ以上の事をする義理はないのではないか?」


「義理はにゃいが……権力を笠に着て理不尽な事を言う横暴な奴が大嫌いなんにゃよ」


こうなったら、ドラゴンの威圧を叩きつけて脅してやろうか? と思ったのだが…その前にルグレフがその言を撤回した。


ルグレフ「いや、すまん! 冗談だ。契約は契約だ、金はちゃんと支払うから、そう殺気立たんでくれ……」


「金を払うにゃ?」


ルグレフ「もちろんだ、契約通り、いやそれ以上に色をつけて払おう」


マキ「ほ…」


「それにゃらいいが……冗談? にしても質が悪いにゃ」


ルグレフ「すまん、実は、最近、悪質な詐欺にあったばかりでな、気持ちが荒んでいて、少し意地悪を言いたくなってしまったのだ。悪かった、この通り」


ルグレフがマキに向かって頭を下げた。辺境伯と言えばかなり高位の貴族のはずだが、それが平民の商人、しかも子供に頭を下げるとはちょっと意外だった。


「……薬草が不要になったと言う事は、病気か怪我? はもう治ったという事にゃ?」


ルグレフ「そうであったら良かったんだがな……騙されたのだよ…」


「さっきの詐欺の話にゃ?」


ルグレフ「そんなところだが……まぁ君等には関係がない話だ。済まなかった、金を払おう、部屋に来てくれ」


    ・

    ・

    ・


「……騙されたってどういう事にゃ?」


ルグレフを先頭に領主の執務室に向かったが、その途中でジョージに事情・・を尋ねてみた。


ジョージ「いや、実はね、妹が森で変わった魔物に襲われて怪我をしてしまってね。そのまま寝たきりになってしまったんだよ」


ルグレフ「ジョージ、あまり余計な事を言うな」


ジョージ「なぜですか? 別に隠し立てする事なんて何もないでしょう?」


ルグレフ「まぁそうだが……」


結局、ルグレフも話に乗ってきて、事の詳しい経緯を話してくれたのであった。




  +  +  +  +




■ジョージ


僕はジョージ、ジョージ・ウィレムライツ。


父はルグレフ・ウィレムライツ。辺境の街、ウィレムグラードを治める貴族。位は辺境伯を授かっている。(※辺境伯はこの国では侯爵家相当、それも公爵に近い高い地位である。)


一応僕が父の跡取りと言う事になるのだろうけど、僕としては弟のカルロに継いで欲しいんだよね。辺境伯なんて背負うものが重すぎて大変だと思うんだ。


弟は能力的にも人格的にも優れており、辺境伯を継ぐに相応しいと思うんだ。だけど、なぜか僕に後を継がせたがってる。別に自分が継ぐのが嫌というわけでもないみたいなんだけどねぇ。


そして、もう一人、僕にはリリアンヌという妹がいる。少々お転婆だが可愛い妹だ。


リリアンヌはよく街を散歩している。(もちろん護衛は連れているけれど。)だけどある日、リリアンヌが散歩中に魔物に襲われた。


街は外から魔物が入りこまないように、高い塀で覆われているのに何故? それは、街の隅に咲いていた“花”が植物系の魔物だったのだ。


外から地中に根を張り街の中に入ってきたようだ。しかも、植物系の魔物に詳しい者でも知らない新種であった。


リリアンヌがその花に近づいた時、突然植物が動き出し、ツタがリリアンヌに絡みついた。


護衛の騎士が慌ててその花を切り払いリリアンヌを助け出したが、リリアンヌは激しく苦しみ出し、気を失ってしまった。


城に運び込まれ、常駐している治癒士の治療を受けたが、リリアンの身体には、ツタに絡みつかれた部分が爛れて酷い状態だった。【治癒魔法】でそれらの傷はすぐに治ったのだけど、そのままリリアンヌは何日も高熱を出して寝込んでしまったのだ。


ショックを受けただけだろう、傷は治っているのですぐに回復するだろうと治癒士は言ったが、一向にリリアンヌが回復する兆しがない。もう一度リリアンヌを治癒士に見させたところ、治ったはずの身体にまたツタの跡が現れ、以前より広がっていた。


治癒魔法を掛けるとその跡は消えるのだが、またしばらくすると再現する。徐々にリリアンヌは衰弱していってしまった。


ツタの跡が現れている時は【鑑定】に“毒に侵された状態”であると出る。そこで治癒士が【治癒】と【解毒】の魔法を掛けると傷跡も消え、毒状態もなくなる。


だが、しばらくするとまた同じ状態に戻るの繰り返しであった。


父もいろいろな治癒士や薬師、鑑定士を呼んで調べたが、一向に治療法が見つからない。


そんな時、治療法を知っているという怪しげな男が現れたのだ。


ハセイと名乗ったその男は、旅をしながら修行中の治癒士だと言う。そして、情報料と引き換えに治療法を教えると言いだした。


怪しいのは重々承知の上であったが、藁にもすがる思いで、父は金を払い治療方法を教えてもらった。それによると、ハイポーションの原料である聖月露草を、特殊な方法で精製した薬を使えば治ると言う。


だが、聖月露草はそう簡単に手に入る代物ではない。仮に手に入ったとしても、鮮度が重要なので、大抵は薬師ギルドによってすぐにハイポーションに加工されてしまう。だが、この病気の治療には、通常の製法で作ったハイポーションではダメで、特殊な製法を使って作った薬が必要だとハセイは言うのだ。


父は金に糸目をつけず、八方手を尽くし加工前の聖月露草を手に入れるべく努力した。


そして、ついにとある行商人から聖月露草を手に入れる事ができた。


父は早速薬の調合を頼もうとしたが、その方法を知っているはずのハセイという男は、いつのまにか屋敷から消えてしまっていたんだ……。



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