第127話 落ち着くにゃ。一度深呼吸するにゃ

辺境伯ルグレフ「して、冒険者がなぜ城を襲った? 返答如何に寄っては…」


「別に襲ったわけじゃないにゃ。帝都で商会の納品の護衛依頼を受けたにゃ。その届け先がここ・・、依頼主は辺境伯だったにゃ」


ルグレフ「なるほど、だから、“依頼主は辺境伯オレ” と言うわけか」


「お、飲み込みが早いにゃ」


門番「だっ騙されてはいけませんぞ閣下! こんなガキが商会の納品など、ありえんでしょう! きっと嘘をついてこの城に侵入するのが目的に違いありません」


マキ「うっ、嘘などついていません!」


ルグレフ「君は……?」


マキ「はっ、その、僕は…」


「落ち着くにゃ。一度深呼吸するにゃ」


マキ「…はい。スーハー……」


マキ「…すみません、ご挨拶が遅くなりました。私はマキ、帝都のコバルト商会の主、ゲットーの娘です」


「……娘?! 


  …男の子かと思ってたにゃ…」


マキ「え?! 気づいてなかったんですか?!」


「ボクとか言ってたし。…まぁ別にどっちでもいいにゃ。その話は後にゃ」


マキ「そうだった。辺境伯様のご依頼の品を、父に変わって届けに参りました!」


門番「嘘をつくな!」


マキ「嘘などついていません! 品物はここに…!」


門番「気をつけてください閣下! 近づいてはなりません! 閣下を前にしてまで嘘をつき続けるとは、何か危険な企みがあるに違い有りません!」


ルグレフ「なぁ門番の…。名はなんという?」


門番「はっ! 私はゲスゴウと申します! 閣下に名前を憶えて頂けるとは光栄です!」


ルグレフ「ゲスゴウか。見覚えのない顔だが?」


門番「はっ! 先日、マニブールからこのウィレムグラードにやってまいりました」


ルグレフが振り返ると、ずっと黙っていた老人(おそらく執事)が答えた。


執事「ダイレン伯爵の紹介状を持っておりました。身元が確かで実力もあるという事だったので、仮採用と言う事で、様子を見ておりました」


ルグレフ「なるほど…道理で」


ゲスゴウ「閣下! 自分で言うのもなんですが、剣の実力には自信がございます! 門番などではなく、是非! 閣下の親衛隊に――」


ルグレフ「…うるさいな」


ゲスゴウ「――入れて下さい! 私の実力があれば、必ずや閣下のお力に――」


ルグレフ「うるさいと言っている! ゲスゴウとやら、少し黙っていろ!」


ゲスゴウ「――なってみせ……は? 今なんと?」


ルグレフ「黙れと言ったのだ。人の話も聞けんのか?」


ゲスゴウ「はっ、申し訳…ありません……?」


ルグレフ「コバルト商会のゲットーと言ったか? すまんがその名前は憶えていないな」


マキ「え…」


ゲスゴウ「やはり!」


ルグレフ「だが発注については覚えがある。中身は薬草であろう? …色々な商会に依頼を出したからな」


マキ「はい、そうです!」


ゲスゴウ「え?! それじゃぁ……まさか?!」


「だから本当だと何度も言ってるにゃ。それなのに、この門番が嘘だと決めつけて通してくれなかったにゃ。契約書もあるのだから、一応念の為確認してこいと言ったのににゃ。だけどコイツは、『自分の勘が正しい』と言い張って門前払いしようとしたにゃ。納期もあるし、仕方なく強引に入ったら、こう・・なったにゃ」


ルグレフ「…なるほど、大体事情は分かった。どうやら門番が失礼な事をしたようだ」


ジロリとルグレフが門番を睨む。青くなるゲスゴウ。


ルグレフ「私の部下には、私を訪ねて来た者を確認もせず門前払いにするような者は居ないはずだったんだがな…」


ゲスゴウ「わっ、私は閣下のためを思って…」


ルグレフ「カッカカッカと呼ぶな、むず痒くなる。


なるほど、先だって併合されたマニブールから流れてきた田舎騎士か。執事ボロン、他領から来た者を雇う時はきちんと躾をしてから表に出すようにしろと言っているだろうが」


執事ボロン「はっ、申し訳有りません、ダイレン伯爵の紹介で、これまでこのような事はなかったもので…」


ルグレフ「ダイレン伯爵にも言っておかないとならんな。特にマニブールから流れてきた者は気をつけろ。質が悪いという噂だ」


ジョージ「父上? この男一人を持ってマニブールの全ての者を断じてしまうのは、ちょっと言い過ぎかと思いますけど?」


ルグレフ「どうかな? マニブールには酷い獣人差別があったのはジョージも知っているだろう? 大方、そこの猫獣人を見て侮った結果だろう?」


ゲスゴウ「……」


ルグレフ「図星か。良いか、この街にも獣人は多く居る。彼らも大切な我が領の領民なのだ、軽蔑するような態度は許さん。ゲスゴウ、一度目のミスは許す。だが、二度目はない、憶えておけ」


ゲスゴウ「……は。申し訳……ありません…」


「偉そうな貴族かと思ったが、どうやら辺境伯様は話が分かる人みたいだにゃ?」


ルグレスが周囲を見渡す。先程エアボールで蹴散らされた兵士、騎士達も徐々に回復して起き上がっている者もあるようだ。


ルグレフ「門番の粗相はともかくとして…我が城の騎士達は、少し鍛え方が足りんのではないか?」


ジョージ「いや、それは、彼が規格外であると判断すべきだと思いますよ? 扉を治癒魔法で治すとか、賢者級の魔法の使い手かと」


「賢者猫と呼んでもいいにゃよ」


ルグレフ「賢者猫? なるほど、騎士達が敵わないのも仕方がないな」


「それより、マキ、納品を済ませるにゃ」


ルグレフ「あーそれなんだが……すまん」


「?」


ルグレフ「もういらなくなってしまんだ」


マキ「…そんな?!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る