第125話 押し入るにゃ

マキが一人で門番に話しかける。


俺は少し離れてそれを見ている。


マキが『自分でやる、一人で大丈夫だ』と言ったからだ。


「本当に大丈夫にゃ?」


マキ「はい。ここからは僕の仕事ですから。父の…商会の代理人としてしっかり勤めを果たしてみせます」


「そか、じゃがんばるにゃ」


だが、近づいて話しかけたマキに対し、門番はつっけんどんな態度であった。


門番「なんだ? ガキと……猫獣人?」


門番はまだ子供であるマキと数歩後ろにいる俺を見て露骨に嫌な顔をする。


門番「ここはお前達みたいなガキが来ていい場所じゃねぇぞ? 特に獣人に用はない、さっさとどっか行け!」


マキ「あの…、ぼ、僕は帝都の商会の者です! ウィレムライツ様のご依頼の品を届けに来たんですが…」


門番「辺境伯様の依頼だと? 帝都の商会? お前がか? 怪しいな…」


マキ「本当です、辺境伯様との契約書もあります」


門番「契約書? 偽造じゃねぇのか? だいたい、商品の納品なら普通荷馬車で来るもんだろうが。ガキ一人で何を持ってきたっていうんだ?」


マキ「品物はバッグの中に入っています、そんなに大きなものではないので」


門番「なら見せてみろ、本当にそんなモノがあるのならな」


マキ「それは……


…できません。貴重な品なので。辺境伯様に直接お見せいたします」


門番「ふん、そんな言い分で通す事はできんな。本当は何も持ってないんじゃないのか?」


マキ「本当です、品物はあります!」


門番「いくら喚いたところでお前が本当の事を言ってる証明にはならん」


マキ「…でも…」


門番「見せられんのならとっとと帰れ。うまく騙せると思ったんだろうがそうはいかん。とは言えまぁ、まだガキだから今日のところは見逃してやる」


マキ「……分かりました。見せるだけなら……」


マキは背中に背負ったバッグを降ろし、中から箱を取り出した。


門番「ほう、マジックバッグか」


マキ「ここに品物が入っています」


門番「開けてみせろ」


マキ「それはできません、中身が劣化してしまいます」


門番「確認できないなら通すわけにはいかん。嘘をついて危険物を城に持ち込む輩かもしれんからな」


仕方なくマキが箱の蓋を開ける。


中を門番が覗き込む。


門番「なんだぁ? この汚い花は…? こんなもの、領主様が頼んだっていうのか?」


マキ「薬草です、とても貴重なものだと帝都の薬師ギルドの方が言っていました」


門番「薬草? これが?」


門番が薬草に手を伸ばす。即座に俺はその手首を掴んで止めた。嫌な予感がしたので俺もそっと近寄って警戒していたのだ。


門番「痛っ、何しやがる、離せ! …あ痛てててて」


魔力で強化している俺の腕を門番は振り払う事はできない。強く握ると爪が飛び出してしまって手首に食い込むが自業自得だ。


「おい、それは大変貴重な薬草だと言ったにゃろ。お前なんかが触れて駄目にしたら、お前の給料などでは払いきれんぞ?」


俺は門番を突き放す。手首を押さえながら数歩下がる門番。子供のような身長の猫獣人とは思えない力の強さに少し驚愕しているようだ。


門番「お前はなんだ?!」


「俺はこの子の…この商人に雇われた護衛にゃ」


門番「護衛だと…?」


その時、背後から音がした。馬車がやってきたのだ。かなり立派な馬車である。


馬車の御者が門番に声を掛ける。


御者「ボツヘルム商会の馬車です、納品に参りました」


門番「ああ、聞いているぞ。今門を開ける」


門番が合図をすると、門が開き、馬車が中に入っていく。


俺はマキに目配せした。マキも頷いて、慌てて荷物をしまう。

そして、俺達もそのまま馬車の後ろについて城の中に入ってしまおうとしたのだが…


門番「おっと、そうは行かねぇぜ?」


門番がマキの前に槍を差し入れ足止めする。


「おいお前、一応念の為、確認ぐらいはしてきたほうがいいんじゃにゃいか? この子が言っている事は本当にゃ。後でお前が怒られる事になるにゃ」


門番「……いいや、嘘だな。俺の勘がそう言ってる。そんなガキの嘘に騙されていちいち確認しに言ったらそれこそ怒られちまうさ。というか、辺境伯様の城に侵入しようとするとはけしからん! 捕らえて吐かせてやる!」


門番は槍の穂先を俺の前に突き出して来た。


「…やめておけにゃ。攻撃すれば、その瞬間に反撃するにゃよ。お前ごときでは俺には勝てんにゃ」


門番「うるせぇ! ちびネコ風情に何ができるもんか! まずはお前の手足を斬って動けなくしてからガキをとっ捕まえてまとめて牢にぶち込んでやるぜ!」


「やれやれにゃ…」


おれはひとつため息をついた後、徐ろに歩を進めた。


槍の穂先が俺の身体に触れる。


門番はそのまま刺すかと思いきや、一瞬躊躇い、槍を引き後退ったため刺さる事はなかった。


だが、それでも構わず俺はどんどん距離を詰めていく。


それを見て門番はついに意を決して槍を勢いよく突き出してきた。


だがその槍が俺の身体に届く事はなく、門番は跳ね返されて吹き飛んだ。俺が門番の顔面に空気弾エアボールを叩きつけたからである。門番はそのまま昏倒してしまったようだ。


マキ「ちょ! カイトさん! 殺してしまったんですか?」


「殺してはないにゃ」


マキは俺が森の中でエアカッターで魔物を狩るのをさんざん見てきたので、門番も同じように殺してしまったと思ったのだろう。だが、さすがに商売に来たのに相手の部下を殺してしまうのもまずいと思って、風刃ではなく空気球にしたのだ。


「さぁ、行くにゃ」


マキ「え? でも…」


マキが門と俺を交互に見た。門は門番に止められている間に閉じられてしまっている。


「閉じられた門は開けて入ればいいにゃ」


俺は爪を出し何度か素早く手を振ると無数の風刃が飛ぶ。俺の風刃の乱射に晒された門扉はバラバラに切断され崩れ落ちてしまった。


マキ「…!」


「さぁ、行くにゃ」


マキ「だ…大丈夫かな…?」


俺が先に立って城の中に踏み込む。その後ろをマキがビクビクしながらついてくる。


中に居た兵士が驚いて剣を抜き、襲いかかってくるが、エアボールを叩き込んで全員吹き飛ばしてしまう。


すると騒ぎを聞きつけてか、今度は騎士達がワラワラと湧いてきた。


騎士たちは倒れている兵士を見て剣を抜き襲いかかってくる。


俺は襲ってくる騎士にはエアボールを片端から叩き込んでやった。こめかみ、顎、後頭部を狙う。見えない高圧縮空気弾を躱す事ができず、意識を刈り取られていく騎士達。


すると、奥から男が三人出てきた。一人はいかにも執事という服装の老人、もうひとりは高位の騎士、そしてその後ろに上等な服装の男。この三人はいきなり襲いかかってはこなかった。


上等な服装の男が言う。


『おや何だい? 訓練か…?』


騎士「正門を入ってすぐの場所で訓練などするわけないでしょう!」


騎士は見慣れない俺とマキを見て、男と執事を庇うように前に出た。


騎士「何者だ?!」


「帝都の商人にゃ。依頼の品を納品に来たにゃ」


男「とても商人の振る舞いには見えんが?」


後方でバラバラになった扉、倒れている者たちを見回しながら男が言う。


「仕方ないにゃ。門番が俺達を嘘つき呼ばわりして取り次ぎすらもしてくれなかったにゃ。それで、お前が辺境伯にゃ?」



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