第124話 辺境伯領へ到着!

俺は少年マキを入れたバッグを背負い、森の中を疾走する。


ルートは全て森の中・山の中で、街道は通らない。街道には時々旅人が居るので、デカい猫が猛スピードで走っていると魔物の襲撃と間違われるかもしれないし、そもそも俺は空中に足場を作って走れるのだから、わざわざ街道で渋滞にはまる必要もない。


街道はそれほど広くはない場所も多く、馬車もすれ違えないような場所もある。運悪くそういう場所で対抗馬車が来てしまった場合、下位の側が無理やり端によって道を開け、相手が通過するのを待つのである。避けるスペースもない狭道の場合は、偵察を先に出してルートが空いている事を確認したりもする。


余談だが、馬車も後進バックする事は可能である。そのまま馬に押させる形で後退する事もできるし、場合によっては馬車の前方に繋がれている馬を外して後方に連れていき、馬車を逆方向に引かせる事もある。だが地球の自動車のようにギアを入れ替えるだけとは行かないので、できればすれ違えないような場所では鉢合わせしたくない。


そんなわけで道なき道オフロードを進むわけだが、しかし街道からあまり離れる事もできないのが少し面倒である。略地図は見せてもらったし、その画像は画像記憶で記録してあるのでいつでも脳内で見られるのだが、人間が書いた手書きの地図なので、方向が当てにならないのだ。闇雲に森の中を“直進”すると、僅かでも方向が間違っていた場合、距離を進むほどその影響は大きくなる。ヘタをすると見当違いの場所に向かってしまい、永久に目的地につかなくなってしまうだろう。そのため、ある程度街道に沿って進むしかないのである。(いずれ、超高空から画像記憶で地図を作ってみてもいいかも知れないとは思うが、今はそんな事をしている暇はない。)


目的地までは途中にいくつも街がある。街に近づいたら速度を落とし徒歩に戻り、門番や旅人に街の名前を訊く。街の名前を確認し、自分達がどこまで進んできたか、目的地まであとどれくらいか確認しているだけである。門番にいきなり近づくと入城待ちの者達から横入りするなと文句を言われるが、名前を尋ねるだけなので無視。名前が分かったらすぐに門を離れ、街の外周を迂回して次の街を目指す。


目的の街は遠い。この国のはずれ、辺境の街だそうだ。


普通に旅をしたら十日~二週間ほど掛かると聞いた。だが基本この世界の移動は徒歩か馬車。速度は急ぎ旅でも小走り程度での話である。俺ならたとえ地上を走っていてもそのくらいの距離、一気に走り抜けてしまう事も可能だろう。


…と思ったのだが、マキが怖がるので、あまりスピードを出せず…。


程々の速度で進んだ結果、目的地まで辿り着けず、途中で一泊せざるをえなくなってしまった。元々夜行性の種族特性があるっぽい俺は、別に夜通し走ってもいいんだが、この移動速度なら、そこまで頑張らなくても余裕で着くはずなのでちゃんと休む事にした。マキも居るしな。


街道から離れた場所に停止し、木々を収納して土魔法で整地。そこに亜空間に収納にしてある屋敷をドンと置く。そして屋敷の周りを土魔法で高い塀で囲めば完了である。


屋敷を見てマキが目を丸くして驚いていたが。


森を駆け抜けてきて体に結構土埃がついているので【クリーン】の魔法で身ぎれいにしてから、亜空間に収納してある料理を出して食べる。マキが居るので前に帝都ではない場所で手に入れた料理を出してやると驚き喜んで食べていた。


腹がふくれると眠くなる。マキは背負われていただけなのだが、それでもかなり緊張して疲れたようで、すぐに船を漕ぎ始めたので、客間のベッドに放り込んでやる。王都で仕入れた最高級寝具の寝心地は最高だろう。


俺も自分のベッドに行き、丸くなる。もちろん最高級寝具に入れ替えてあるので寝心地は最高、加えて俺も一日走った疲れもあり、すぐに眠ってしまった。


翌朝は、マキに起こされた。もうかなり日が高い。

まぁ焦る必要はない目的地はもうすぐのはずだ。


屋敷を収納し、マキをバッグに入れて背負うと再び走り始める。マキも大分慣れてきたようで、少しスピードを上げても大丈夫であった。


その日の午後、いくつめかの街や村を通過し、辿り着いた街の門番に尋ねたところ、街の名前は『ウィレムグラード』であると教えてくれた。ついに目的の街、辺境伯が治める国境の街に着いたのだ。


目的の街である事が分かったので、入城待ちの列に並ぶ。と言ってもそれほど列は長くはなく、すぐに街に入る事ができた。


依頼のリミットの一週間も前についてしまったとマキは喜んでいる。


早速依頼主のところに向かった。依頼主はこの街の領主、ウィレムライツ辺境伯だそうだ。つまり、領主の館に行く事になるわけである。


辺境伯の屋敷は街の中心部にあった。屋敷というか城である。城には年季の入った苔が生えていた。推察するに、最初はこの領主の城が街だったのだろう。そこから長い年月を経て、街の規模が拡大して今のサイズになったのだと思われる。


城の門に行き、マキが門番に声を掛ける。


門番に門前払いにされる的な、テンプレイベントが起きないといいいのだが、と思っていると……


門番「なんだ? ここはお前みたいなガキが来ていい場所じゃねぇぞ?」


「やれやれ、またかにゃ…」


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