第123話 おんぶ紐

■カイト


スターダクーの街に到着した俺達は、城門で入城の列に並ぶ。順番が来てチェックを受けるが、マキは商業ギルドの身分証ギルドカードを出した。あとで訊いたら、これは父親の代わりという事で、商業ギルドから発行してもらったそうだ。


俺はもちろん冒険者のギルドカードを出す。


だが、衛兵が妙な顔をして、なかなか通してくれない。


衛兵「お前達……」


「?」


衛兵「子供だけで旅をしてきたのか?」


「マキは子供だが、俺は成人しているにゃ。ギルドカード見たにゃろ?」


衛兵「え? …ああ、そうだな。身長はそっちの子供のほうが大きいからついな。というか、お前はそんな小さい身体で冒険者などつとまるのか?」


「ほっとけにゃ」


衛兵「……それで、旅の目的はなんだ?」


マキ「僕の商会に注文があった品物を、辺境伯領まで届ける途中です」


衛兵「僕の? 子供が商会をやっているのか?」


マキ「ああいえ、商会は父さんと母さんがやっています、僕は今回はその代理です」


衛兵「ほう、それは偉いな……だが妙だな? 帝都ガレリアーナからやってきたのだろう?」


マキ「そうです」


衛兵「いつ、帝都を出発したんだ?」


マキ「今朝、城門が開いてすぐ出発しました」


衛兵「おかしいじゃないか。日の出とともに帝都を発ったとしても、この街に着くのは夕方になるのが普通だ。夜中に移動すればこの時間に着くかもしれんが、魔物が活発化し、しかも視界の悪くなる夜に移動するなど、常識のある人間がする事ではない。


だが…この時間に街の外に居たのは間違いない事実…。一体どういう事なんだ???」


マキ「カイトさんの背中に乗せて運んでもらったんです! カイトさん、メチャクチャ足が速いんですよ! あっという間についてしまいました!」


衛兵「カイトって…お前が? そんな話、信じられるわけが……」


だが、空中に浮かび上がって見せた俺を見て衛兵の言葉が止まった。


俺はさらに魔力ホバークラフトで衛兵の頭の上を右へ左へ高速で往復通過してやると、衛兵は嫌がって声をあげた。


衛兵「なんだそれは?! 魔法か? ああ、分かった! 分かったから! もうやめんか!」


俺は衛兵と目の高さが合う位置に足場を作り出してそこに立つ。傍から見ていると空中に立っているように見えるだろう。


衛兵「それは魔法か? 空中に浮かぶ魔法など、聞いた事もないが…」


「風属性の魔法の応用にゃよ。魔法は使い方次第にゃ」(本当は空間属性も使っているがまぁ細かく説明しなくてもいいだろう。)


衛兵「…なるほど、魔法が得意なので、護衛が一人でも大丈夫というわけか…」


マキ「そうなんです、カイトさんは本当に凄いんですよ!」


衛兵「ああ、凄さは今眼の前で見せつけられているよ。しかし、それだけの腕があるなら名前を知られていてもおかしくないが、聞いた事のない名だな」


「俺が冒険者になったのは一昨日だからにゃ。帝都に来たのも一週間ほど前にゃ」


衛兵「一昨日?! 一週間前? …なるほど、田舎から出てきたというわけか」


「そんなところにゃ。少し買い物をしたら、この街もすぐに出発するにゃ。急ぐ旅にゃんでな」


衛兵「犯罪歴も登録されていないようだし、止める理由はないか…。よし、いいだろう、通れ」


マキ「ありがとうございます」


「あ、でかいバッグを買いたいんにゃけど、店はどのへんにあるにゃ?」


衛兵「バッグ?」


「なければロープとかでもいいにゃ」


衛兵「門を入ったら右手に進んでいけば商店が建ち並ぶエリアがある。そこで大抵のものは揃うと思うぞ」


「ありがとにゃー」


教えられた場所へ向かう途中、マキに尋ねられた。


マキ「バッグなんかどうするんですか?」


「お前を入れて運ぶにゃよ」


マキ「え?!」


「お前を入れたバッグを俺が背負っていけば、お前はしがみついていなくて済むにゃろ?」


マキ「な、なるほど…」


店に行って、マキがすっぽり入るほど大きなバッグをくれと言ったが、あいにくちょうどよいモノがなかった。手足を縮めてギュウギュウに押し込めが入る程度のモノはあったので、仕方なくそれを買い、すぐに街を出る。


出るのは入ってきた門からである。次の街に向かう街道へは街の反対側の門から出たほうが近いのだが、それだと街を縦断する必要があるが、街の反対側まで歩く時間が惜しかったのである。城郭都市というのはそれほど大きさはないものだが、此処は侯爵家の領地でもあり、それなりの大きさがあるようだったからだ。街の中を“ビッグサイズ俺”が疾走するのは問題があるだろう。だが街の外に出て城壁をぐるりと迂回していくなら問題ない。


ビッグサイズ化してバッグにマキを押し込んで見たが、さすがにちょっと窮屈そうだったので、側面下部に穴を空け、足をそこから出すようにしたらちょうどよかった。赤子を背負うおんぶ紐みたいな形だ。マキが赤ん坊みたいで恥ずかしいと言っていたが、気にせず走り出す。


城壁をぐるりと回ったので、何箇所か、城壁の上から監視している衛兵が『魔物か?』と警戒していたが、バッグを背負った魔物は居ないからか、特に何もなくあっという間に反対側の街道に出て、そのまま街から遠ざかっていった。


巨大猫が猛スピードで街に近づいてくるとさすがに警戒されるだろうが、離れていく分には問題ない。


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