第122話 エアスケーター
カイト「ここからは街道を普通に歩くにゃ。さっきみたいに猛スピードでデカい猫が街に近づくと魔物の襲撃と間違われるからにゃ」
腕だけでなく足も震えていたけど、歩いている内に回復してきた。
カイトさんは小さいサイズに戻り横を歩いている。でも、なんか浮いてる? そしてなんか滑るように空中を移動しているんだけど…? 一歩足を進める度に…いや、一歩後方に足を繰り出す度に、スーと滑るように数メートル前に進んでいくのだ。
「…カイトさん、それ、どうなってるんですか?」
カイト「これは魔力ホバークラフトにゃ」
「ホバー…?」
カイト「ずっと一定の高さで空を飛ぶ方法を考えていたにゃ。最初は重力魔法で無重力にして空に浮かんでたんだけどにゃ。意外と無重力は制御が難しかったにゃ」
「じゅ…うりょく魔法? そんな魔法があるんですね…」
カイト「そうにゃ。空を飛ぶには例えば風属性の魔法を考えたんにゃけど、単純に突風を起こして吹き飛ばされてくというのは、飛んでいるのとはなんか違うんにゃよねぇ。それよりは、重力魔法で体重をゼロにしてしまえばプカプカふわふわ浮かぶにゃろ」
そう言って、カイトさんが僕に向かって指を鳴らした。すると、急に目眩がするような感覚があって、体がふわふわ浮かび始めた。
「えっ?! なに?!」
カイト「今マキの体重をゼロにしたにゃ。でもその状態だと、一定の高さを維持するのが難しいんにゃよね。上に力を掛けると、そのまま際限なく上に登っていってしまうにゃ、そんな風ににゃ」
って、僕の体が徐々に地面から遠ざかっているんですけど?
カイト「さっき地面を慌てて蹴ったから、上方向に移動し始めたにゃ」
「ちょっ、カイトさん!」
再びカイトさんが指を鳴らすと、ゆっくりと体が落下し始めた。
カイト「体重をほんの少しだけ戻したにゃ」
地面が近づいてきて、無事着地できたと思ったんだけど、歩こうとしたらまた高く上がってしまう。数メートル上がっては落ちてくるを繰り返すような、ふわふわとした歩き方になってしまうのだ。
カイト「慣れれば普通に歩けるようになるけど、力むとすぐ飛んでしまうにゃ。跳ねると落下してくるのにも時間が掛かるから、あまり自由に動けないんにゃよねぇ。」
「なっ…るほどっ…おっと!」
カイトさんが再び指を鳴らすと体重が戻り、急に体が重くなって僕は地面に着地した。
カイト「ほら、俺は背が小さいにゃろ? 空中に浮かばないと人間達に蹴っ飛ばされてしまうからにゃ。だから、人間と同じ目線の高さに浮かぶ方法を考えてたにゃ。だけど、無重力になってしまうと高さが維持できなくて意外と不便なんにゃ。一気に空高く上がって、大雑把にどこかに向かって落下していくのにはいいんにゃけどにゃ」
「…背が小さいのが嫌なら、さっきみたいに大きくなればいいんじゃ…?」
カイト「まぁそうなんだけどにゃ。このサイズが気に入ってるにゃ」
「そ、そうなんだ。僕は早く大きくなりたいけど…」
カイト「マキもすぐ大きくなれるにゃよ。それで、次に考えたのは空間属性魔法で床を作ってしまう事にゃ。これはうまく行ったにゃ」
僕が止まると、再びカイトさんが指を鳴らす。
カイト「今、マキの前に空間属性魔法で見えない階段を作ったにゃ。そっと登ってみるにゃ」
僕は恐る恐る足を前に出してみる。すると、何かに当たる感触があった。見えないのでよく分からないので、手で触ってみることにした。
「あ、階段がある! …でも、見えないから登るのはちょっと難しいかな…」
カイト「魔力を見る感覚が鋭ければ見えるんにゃけどな」
そう言うとカイトさんは自分の前に階段を作ったようで、とんとんとんと高く登っていってしまう。
カイトさんが登った階段にも触ってみようとしたが、手は空振りしてしまった。
カイト「足が離れたら魔力が消えてしまうようにしてあるにゃ。自分の足が触れている場所にだけ、常に足場を作り出せるわけにゃ。これは便利にゃ、瞬間的に足場を作れるよう練習したにゃ。これで空中にどこでも足場を作れるにゃ。そして作った足場は足が離れた瞬間に消えるにゃ」
カイトさんが手招きして足元を指差すので触ってみると、確かにカイトさんが立っている場所だけ透明な板があるみたいな感触がある。そして、カイトさんがその板から降りると、フッとその板が消えてしまった。
「へぇ…」
カイト「これは壁としても使えるにゃ。例えばこんな風にすると…触ってみるにゃ、マキの周囲に壁を作ったにゃ」
僕は手を伸ばして見ると自分の前に見えない壁があるのが分かった。さらに右にも左にも壁がある。後ろにもあった。
「あれ、出られない」
カイトさんはすぐに壁を消してくれたけど、これで戦闘中に相手の進路を妨害したり閉じ込めたりできると説明してくれた。
「じゃぁカイトさんは、その見えない板?を足元に作って、その上を滑っているのですね?」
カイト「そういう方法もあるにゃ。板の上の凹凸をなくしてツルツルにしたりザラザラにしたりする事で、摩擦係数を増やしたり減らしたりできるにゃ。これを応用して、相手の足の下に滑る板を作り出してやって、相手を転ばせる事もできるにゃよ」
「へぇ…おわっ!」
歩きながら話を続けていたのだけど、カイトさんが言った瞬間、踏み出した足が突然滑って、数センチズレた。なるほど、これをもっと広範囲にやれば、相手はきっと転んでしまうに違いない。
カイト「でも、俺が目指してたのはこれでもないにゃ。今俺が移動しているのは、足の下に板を作り出して、その下に風魔法で風を起こす事で、地面から一定の距離を保って浮かんでいるにゃ。最初はエアホッケー式にしてみたんにゃけど、今はホバークラフト式にゃ」
「えあ…?」
カイト「地面から上に空気を吹き出して、それを板で受けるにゃ。ただその方式はうまく行かなかったにゃ。地面の凹凸に影響を受けすぎたにゃ。地面が真っ平らならいいんだけどにゃ。今は、乗ってる板のほうが風を吹き出してるにゃ。ただ下方向に風を吹き出すだけだと安定しないにゃ。それを異せ…異国のホバークラフトっていう技術を参考にして、魔力で板の周りにカーテンを作って、風圧を板の下に閉じ込めて、その受けに乗っているにゃ」
カイトさんが色々説明してくれるけど、半分も理解できない。
カイト「あとは、押し出す足の下に足場板を生成して蹴れば、ほとんど抵抗なく進んでいけるにゃ」
まぁよくわからないけど、魔法を使って浮かんでいる、というのは分かった。
「カイトさんは、魔法が得意なんですね」
カイト「そうにゃ。俺に使えない魔法はないにゃ」
「凄い…」
そんな話をしながら歩いていると、街の城壁が見えてきた。
次の街は“スターダクー”という、侯爵が収めている街である。この街は今回の旅の通過点でしかない。マキが行かなければ行けない街は、さらにいくつかの街を抜けた先にある、国の外れ、辺境伯領である。
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僕とカイトさんは入城待ちの列に並んだ。
だけど、訝しげな顔をした衛兵が、すなんり通してくれなかった。
衛兵「お前達…子供だけで旅をしてきたのか? なんだか怪しいな…」
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