第20話 人族? 絶滅したかも?
とは言え、このまま黙って殺されるわけにも行かない。
いよいよ俺は、魔力も、生命力も、戦術・覚悟についてもリミッターを全て外した戦闘準備に入った。
のだが…
その時その巨龍が喋った。
巨龍『なかなかやりおるのぅお主』
「にゃ?!」
巨龍『だがもうこの辺にしておけ。これ以上は、お互いタダでは済まん結果になるぞ?』
「喋った?! お前、喋れるのか?!」
相手に高い知性があると、なぜ気づかなかった? やっぱりまだどこか野生化した知能が完全に戻ってなかったか。
相手に知性があったと気付けば、急激に頭が冷え戦意も失われていく。
言葉を喋る、高い知性を持つ相手は、あまり食う気にはなれない……。
相手にもその気はないようで、これにて巨龍とは手打ちとなったのであった……。
龍は、話してみると気さくな爺さんという印象だった。(あくまで印象、聞くと相手の寿命のスパンが長過ぎて、若いとか年寄りとか判断できる領域ではなかった。)
いきなり襲った事を謝罪したところ、快よく笑って許してもらえた。
龍「なんと、ワシを食いたかったのか? そんな事を考えるやつは、数十万年でお前が初めてじゃ」
豪快に嗤う龍。
「すまんにゃ、ドラゴン美味かったんでにゃ。…あ、仲間のドラゴンも食わないほうがいいにゃ?」
龍「別に構わんよ、下級種のドラゴンは知性もないただのトカゲじゃからの」
許可を得て詳しく鑑定してみると、そのドラゴンは龍種の最上級種、
竜種ではなく龍種。どうやら下級種と言われる竜とは種そのものが違うらしい。龍種はみな知性があるそうなので、今後は気をつけよう。
その後は、知性のリハビリも兼ねて、その古龍と色々な話をした。
なんとなく、戦闘力ではなく、器の大きさで負けた気がした。
まぁ仕方がないところもある。相手は数十万年の長き時を生きているのだそうだから。
龍として野生の生活をどれだけ長く送っても経験なんて積めないだろうと思ったが、龍種はなんと人間に化ける事もできるのだそうで、人間の社会で生活していた時代もあったのだそうだ。
前世を入れても数十年しか生きた記憶しかない俺とは経験値が違うのだろう。
(てかやっぱり、この世界にも人間は居たのか…。)
この世界に来て十余年。暇なので色々な事をゆっくり考える時間があった。
前世と生まれ変わりについても考えた。
今回、俺は一度死んで生まれ変わったわけだが、それはつまり、人は死んだら終わりではない、生まれ変わりはある、という事になる。
前世の日本では「死んだら塵になるだけだ」と頑なに言い張っていた者も居たが。多くの日本人は、死後の世界があるとなんとなく思ってる人のほうが多そうな気がする。
死後の世界? いや、生まれ変わりは死後の世界ではないのか?
この世界に来る前に一瞬だけ居た、行き先と種族を選択したあの場所が死後の世界なのだろうか? いや、もしかしたらこの世界そのものが死後の世界なのか?
まぁ考える時間がいくらあっても答えが分からない事は分からないままなのだが。
ただ、生まれ変わりがあるとするなら、前世の地球での人生以前にも、もしかしたら生まれていた可能性があるのだろうか?(生まれ変わりは二回だけ、という制限がなければ、と言う事だが。まぁ二回だけ限定する意味はあまりなさそうな気がする。)
ただ、人間は、生まれ変わってもそれ以前の人生の記憶を持っていない。(この世界ではどうか知らないが、地球の人間はそうだったはずだ。俺は覚えていなかったし、他の人間達も記憶があるとは言ってなかった。極少数、前世の記憶があると主張する者も居たようだが、極めて少数派だし、彼らも前世の知識や生活の全てを細かく覚えているというわけでもないようだった。)
何度も生まれ変わるにしても、その度に記憶がリセットされてゼロからのスタートになってしまうのでは、人生経験は数十年しか積むことができず、成長しようもない。そういうシステムになっていなければ、(地球の)人類ももっと賢い生き方ができていただろうにな。
まぁ、この眼の前に居る龍のように、数十万年も生き、その記憶を持ち続けるるというのがどういう気持ちなのか、それは想像もつかないが。
もしかしたら、あまりに長く生きて記憶が多くなり過ぎると気が狂ってしまうんじゃなかろうか? とも思う。
地球で、人は老化すると記憶力が落ちるというのは間違いだと言う説をネットで読んだ事がある。二十代と六十代の人間の記憶力をテストしたところ、それほど大きな差は出なかったと言うのだ。
ではなぜ、加齢とともに記憶力が落ちると感じるのか? それは、記憶の量が増えすぎたため、それを引き出してくるのが困難になってくるという仮説が立てられていた。
なるほど、パソコンのHDDだって、保存しているデータ量が多くなりすぎると、インデックスをつけて整理するシステムがあっても、情報を検索するのに時間が掛かるようになっていくからな。ましてや人間の脳には(多分)インデックス機能はないしな。
仮にインデックスがあったとしても、同じ項目に情報が百、千、万とあったら、その中から必要な情報を選択するのも一苦労になりそうな気はする。
この説に関連して、関連して、年を取るとダジャレが多くなるのは、一つの情報から引き出される関連情報が多くなるからだ、という説があった。
歳を取ると情報量が多くなりすぎて、ある言葉から引き出される情報が一つではなく、似た言葉がたくさん関連して連想されてしまうため、ダジャレを言いたくなるというわけだ。
ダジャレを言うのはダレジャ? みたいな?
なんだか妙に納得してしまった。
まぁ記憶というのは適度に忘れたほうがいいんだろう。地球でも、記憶を忘れる事ができない特殊な症状の人間が居たという話を聞いた事があるが、その人間は、最後は気が狂って自殺してしまったと聞いた気がする。
してみると、数十万年も生き続けて、その記憶を全部持っていたら大変な事になってしまいそうだ。まぁ龍は精神や脳の構造・機能が違う可能性もあるのでなんとも言えないが。
話は戻るが、その古龍とは、仲良くなってその後色々な話をした。
この世界についても色々教えてもらった。古龍は何十万年も世界を移動しながら、時には人間の姿で人間の街で生きてきた事もあるので、あまり動き回らず、植物の事しか知らないアルラウネよりはるかに世界について知っている事が多かった。
古龍「そういえば、お主と同じような種族が昔、居たような気がするのぅ」
突然、古龍がそんな事を言い出した。
「ん? 似たような? 猫族、猫系の獣人って事にゃ?」
古龍「昔の事なのであまりよく憶えておらんが、そう、獣人ではない、確かに妖精族じゃった。
ただの獣人と、妖精族では魔力の性質がまったく違うからの。間違える事はない。おそらく、同じ種族じゃろう」
「へぇ…。それはどこに居るにゃ?」
古龍「さぁ、知らん。大昔の事だし、もともと数は多くなかったからな」
「じゃぁもう絶滅しているかも?」
古龍「いや、世界のどこかで生きている可能性はあると思うぞ。妖精族は儂ら龍族と同じ、長い時を生きる種族であったはずじゃからな…。
…やはり、仲間に会いたいか?」
そう言われて考えてみたが、別に会いたいという事はないな。仲間を欲していないし、もともと俺は人間だったわけだしな。
そう言ったら、その古代の猫型妖精族も、あまり群れを作らない種族だった、気がすると古龍がいい出した。
長く生き過ぎて忘れてしまった事も多いらしいので、古龍の記憶もあまり当てにしないほうがいいかも知れないな。
古龍「前世で人間だったと言ったな。ならば、人間に会いたいか?」
「会いたい、とは思わないが……ちょっと人間らしい文明の産物は、あるとありがたいなぁとは思うかも? 人間はどこかに居るにゃ?」
古龍「さぁ、分からん。人間は寿命が短く儚いからな。街を作って集まって生きていたが、簡単に滅亡してしまった。何度もそんな人間達を見てきたからの。今、世界のどこかに人間がまだ居るのか、それとも絶滅してしまったのか、それは分からん」
「そうにゃ…」
古龍「分からん、人間はしぶといからの、どこかで生きている可能性はあるじゃろ」
そう言われて、ちょっと興味が出たので、俺は人間の街を探してみることにしたのだった。
古龍に人間が居そうな場所を教えてもらい、そちらの方角に向かって移動を続けた。
それは結構長い旅であった。あまり長く続く原生林と野生の世界に、人間は居なくなってしまったのではないか? と少し不安になってくる。
まぁそれでも別に構わないのだが……
と諦めかけた頃、人間の生活の痕跡を発見した。
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