第19話 まずい、勝てない?!

それからも、俺はより高位の獲物を求めて森を進んだ。どうやら“ランクが高い”魔物のほうが美味いという法則は間違いないようだ。ドラゴンの肉は美味かったが、地竜よりはもっと上位種のドラゴンのほうが美味いのだ。そして……ある時、すごいデカいドラゴンを発見した。


そいつの発する迫力、魔力は凄まじかった。これは…さぞ美味いんではなかろうか。


うん、この時の俺は、ずっと誰と話す事もなく捕食活動を続けていたせいか、半分野生化してしまっていて、知能がちょっと下がってたかも知れん。美味そうだ、という理由で、そのドラゴンを普通に狩って食べようと思ってしまったのだ。


もちろん、その迫力、威圧感。そして感じる魔力の質と量。相手がこれまで狩ってきたモノとは違うのは重々分かっていたので、慎重に狩りを進めたのだが……それでも、油断はあったのだと思う。ここに来るまで、簡単に倒せない魔物には遭遇してこなかったからな。もしかして俺はこの世界の生物の頂点なのではなかろうか? などとも心のどこかで思い始めていたと思う。


だが、ついに、倒せない相手に出会ってしまった。それが、エンシェント・ドラゴンであった。


このドラゴン、強かった。慎重に行って正解だった。油断した状態で真正面から行ったら殺されていただろう。


その動きは巨体に似合わずとても速かった。身体強化を使った俺と同等以上。ふるわれる爪は速く、何度かまともに食らってしまった。しかも、爪には俺と同じく攻撃魔法が宿っていて、岩でも簡単に切り裂いてしまう。かろうじて直撃を割け、かつ全力で魔法障壁を張ってブロックしたので無傷で済んだが、危なかった。


他にもとんでもない速度と物量で横や背後から襲ってくる尻尾による薙ぎ払い攻撃。もちろん空を飛ぶし、口から吐かれるブレスは周囲一帯を焼け野原にしてしまう。


俺も持てる能力を全て投じて戦った。


野生化して鈍っていた知能も本気の戦略を練るために冴えて来る。


相手の魔法や攻撃を【反射】してしまう魔法障壁。


転移を使った瞬間移動攻撃。


なんなら相手の体内に攻撃魔法を直接転移で叩き込む事も試してみたが、相手の体内の魔力のほうが強いようで全て弾かれてしまった。


それどころかその巨大ドラゴンもまた、転移魔法まで使って来た!


まぁ転移してくる時の魔力の気配を俺は感じ取れるので、転移攻撃にも即座に対応できたが、そうなると転移による追いかけっこにもなってしまう。


……まずいな。


いざとなったら転移で逃げるつもりでいた。全力の魔法障壁を張りながら同時に転移を使って遠くに脱出する。それはいざという時のために練習してきた俺の最後の安全装置だ。


だが、相手が転移を使うとなると、転移で逃げても追ってくる可能性がある。


そして最悪なのは、相手のほうが魔力スタミナが多いのだ。長期戦になれば、こちらの魔力のほうが先に尽きてしまう可能性がある。


ちょっと詰んだかも?


倒さない限り、殺られる?


どうやら安全圏で戦うのには限界があるようだ。


実は、苦戦はしていたが、まだ、身の安全をギリギリ確保できる余力を残しての戦い方を俺はしていたのだ。だから相手も俺を仕留めきれていなかった。


だが、殺るか殺られるかしかない死闘となったら…


この強大な相手に対して己の身を守りながらではこの相手には勝てない。身を捨てた攻撃が必要になるだろう。


正直に言うと、本当の死闘となったら勝てる予感・手応えはあった。ただ、勝ってもこちらの支払うダメージも大き過ぎて、その後、この世界で生きていけなくなる可能性も感じていた…。


これも、調子に乗って相手を侮り強大な敵に挑んだ結果。自業自得か…。


弱肉強食の中で、獲物を狩って食ってきたのだ。俺が食われても恨む事もできはしないな……



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