第18話 喋る奴、二人目
この世界に来て十年過ごした“最初の泉”からの旅立ちである。
まぁ、この“最初の泉”は俺にとって故郷のようなものなので、ちょくちょく戻って来るつもりではあるが。
住宅展示場を亜空間に収納するついでにアルラウネにも旅立つことを告げたのだが、アルラウネにしては珍しく『寂しくなるね』などと植物らしからぬ事を言っていた。
いや、植物も、長く一緒に過ごした者が居なくなると寂しく感じたりしているのかも知れないな。嘘発見器を植物につけるとちゃんと人間を識別している事が判明したなんて実験が確かあったはず…。
一応、アルラウネに、この世界にどんな生物が居るのか、“人間”が存在しているのか訊いてみたが、俺が知っている程度の世界しか彼らも知らないようであった。あとは、自分で確かめるしかなかろう。
まさか…この世界に知的な存在が俺とアルラウネ以外居ないなんて事はないと思うが…。
もしそうだったらどうしようか?
まぁそれでも、一人、死ぬまで生きていくだけか。
特に問題はない、かな…。
住宅展示場のあった場所はアルラウネが植物を育てて復旧しておいてくれるそうなので任せて、とりあえず旅立つ事にした。
まず、空高く登って確認してみる。
泉の周囲は、見渡す限りの森が広がっている。
見えるのは、地平線までひたすら続く木…森であった。
地上に降りて移動を始める。
泉から離れると、徐々に動物や魔物に遭遇し始める。熊やら狼やら猪やら鹿やら兎やら。どれも、地球のソレとは違い、巨大だったり角があったりと凶悪な外見をしていたのだが、おそらくただの動物ではなく、魔物という事なのだろう。
別に珍しくはない。これまでも時折、泉から離れて動物や魔物を狩っていたからな。泉の周囲にある果物だけで
狩りは簡単だった。どの魔物も全ての魔法を使いこなせる俺の敵ではなかったからだ。攻撃と防御の魔法は一通り、泉の辺りで訓練してきたからな。
やはり肉は美味い。猫は肉食だしな。最初は酷かった肉を捌く腕も、数をこなすうちに上達していった。この先も狩りをしながら食っていくのには困らないだろう。
さて。さらに歩を進め、いよいよ未踏の領域入っていく。
予想通り、これまで見なかった動物や魔物と遭遇し始める。
今後は手強い相手にも遭遇するかも知れないから慎重に行動する事にする。狩りをするつもりがこっちが狩られて食べられてしまう可能性だってあるからな。
知らない動物や植物、魔物に出会ったら、まず【鑑定】する。これでだいたいの強さや食べられるかどうかが分かる。
まぁ結論としては、俺が警戒しなければならないような強敵には滅多に出会う事はなかった。
ドラゴンに出会ったこともあった。鑑定してみると、
最初は一応慎重に戦ったが、慣れてくれば猫パンチ(爪なし)一発で気絶させられるまでになった。
食ってみると、このドラゴンの肉、実に美味かった。特に、最初の泉の周辺に生っていた果物と一緒に食べるとさらに絶品であった。
俺はこの肉の旨さに惚れ、ドラゴンを求めて森を彷徨う。完全に捕食者ムーブである。
必然的に、より強い魔物が居るほうへと歩を進める事になるわけだが…やがて(ついに?)、アルラウネ以外に言葉を交わす事ができる種族にも何種類か会う事になった。
まずハイ・エンシェント・トレント。トレントという動く木の魔物が居るが、その上位種であるハイ・トレントが、さらに長い時を経て上位種に進化したものらしい。
山のような巨木の幹に巨大な顔がついているその姿は、前世の映画の特撮やCGで見たような、まさにファンタジーという姿であった。
下級のトレントやハイ・トレントは積極的に動き回って他の生物や魔物を捕食して回る好戦的な種族で、会話が成立するほどの知性はない。エンシェント・トレントも同様である。だが、ハイ・エンシェント・トレントとなると、会話が成立するほど知性が高く、また性格は温厚、物静かで、特に敵対する必要はなかった。
まぁ積極的に動き回って敵を多く作るような生き方では返り討ちに遭う可能性もあるので、あまり好戦的な性格でない温厚なモノが長く生きて進化したのかもしれない。
(そう考えると、ちょっと自分自身についても反省すべきところはあるかも知れない、などという思いもふと浮かぶが……いやいや、自分は自分の食べる分を狩るか襲ってきた相手を返り討ちにしているだけ、好戦的とまでは言えないはずだと思い直す。)
ハイ・エンシェント・トレントは下級のトレント種と違って自ら移動する事はないようだ。いや、その気になれば移動できるのかも知れないが、大地に広範囲に深く根を降ろしているように見えるので、移動されると周囲に影響が大きいだろう。
ただ、ハイ・エンシェント・トレントは、知性が高く会話は成立するのだが、やはり植物種。長く生きていてもあまり博識さは持っていなかったのが残念であった。ただ、植物魔法についてのコツを少し教わる事ができた。
※自分は全種類の魔法を使う事ができるが、全ての魔法を便利に使い熟しているわけではない。そもそも存在も知らない(覚えていない)魔法もたくさんあるのだ。認識していれば使えるが、知らなければ使いようもない。意外と便利な魔法を知らないで居るのかも知れないが、特に不自由はしていないので、追々確かめていけばいいだろう。
ちなみに移動系の魔法は上達した。上達というか使い方を工夫したと言うべきか。空中に浮かび、上空から獲物を探したほうが効率が良い時もある。(上から見ていたのでは分からない時もあるので、ケースバイケースで使い分けているが。)それより特筆すべきは【転移】魔法。一瞬で思い描いた場所に移動できる、とても使い勝手の良い魔法であった。色々と制約もあるが、それも様々なシチュエーションで使って特性を掴んで使いこなしていく必要がある。消費魔力が多いのが欠点か。
見える範囲に移動するのはそれほどでもない。近距離転移は戦闘中に一瞬にして相手の背後を取ったりできるので便利である。
だが、距離が伸びるほど魔力が多く必要になる。そして、行った事がない場所に行くにはものすごい大量の魔力を消費するのだ。
最初は、行った事がない場所には転移できなかった。そういうものかと思ったのだが、ある時、魔力を使って獲物を
だが、行った事がある場所へは意外と簡単に転移できるのだ。例えば、最初の泉に戻るのは簡単であった。(距離が離れるほど消費魔力が大きくなっていくのだが、俺の魔力なら十分賄える。泉の周囲に生っていた魔力が増える果物を十年食べ続けたおかげで、魔力量は結構増えていたのだ。それこそ、最初から比べると桁違いと言える程度には。
最初の泉の周囲に生っていた果物は大量に亜空間収納に入れてあったが、食べ続ければ在庫はいずれなくなる。道中で似たような果物が見つかるかと思っていたのだが、予想通り何種類かの果物は発見したものの、最初の泉の周辺に生っていた不思議な果物はどこにもなかったのだ。
出発した時は、なくなったなら諦めるつもりであった。十年食べ続けたので、美味かったがさすがに飽きてもいたのだ。しかし、あの果物を使ったソースを使ったドラゴンステーキは絶品だったのだ。なので、転移で時々戻っては果物を収穫した。
転移魔法があるので最初の泉にはいつでも一瞬で戻れるのだ。転移魔法最高。もっと極めて行こうと思う。課題はやっぱり魔力消費量か。まぁそれもおいおい考えていこう。
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