第17話 旅立ち

アルラウネ「森は誰のモノでもないし。自由にすればよいわ……


…ただ、こっち側にはこの子達がいるから、切らないでくれると嬉しい、かな? この子達はまだ移動ができないから、切られたら死ぬだけだから…」


「ああ、木じゃなくて花を切られると困るという事か。そりゃそうだにゃ。…じゃぁ、あっちの方ならいいにゃ?」


アルラウネ「そっち側・・・・はいいわよ。その先、もう少し行くとトレントが多く居るけど、邪魔なら刈っちゃっていいから。というか、どんどん刈っちゃってくれると嬉しい。魔力の量で分かるわ、あなたならそれくらい簡単でしょ?」


「自分達が切られるのは嫌だけどトレントは刈ってもいい、にゃ?」


アルラウネ「アイツラはただの魔物だから。知性が低いし、妖精族の私達とは違うわ。というか、時々私達の領域に入り込んできて荒らすから迷惑なのよね」


「妖精族? 魔物じゃないにゃ?」


アルラウネ「大きい括りで言えば魔物そうとも言えるかも知れないけど……っていうか、あなたも妖精族よね? 魔力の質で分かるわ」


「そうにゃのか? 知らんにゃ、俺はずっと一人だったからにゃ……その、妖精族ってのは他にも居るにゃ?」


アルラウネ「他には……あっちずっと先にはドリアードが居たと思う。あなたみたいなタイプは初めて見たけど」


「ドリアード? どんな奴にゃ?」


アルラウネ「私達が花の妖精なら、ドリアードは木の妖精ってところかしら? 妖精族と言っても、私達アルラウネとかマンドラゴラよりも、ドリアードのほうが精霊寄りの存在とは言えるかもね」


「精霊? また違う名前が出てきたにゃ。それは妖精とは違うにゃ?」


アルラウネ「精霊というのは、肉体を持ない、完全に霊的な存在ね。普通は見えないけど、魔力の感度の高い妖精族なら見えるかも?」


「へぇ」


アルラウネ「この辺では見たことないけどね。そもそも、滅多に遭える存在じゃないし」


「この辺では? 他では会ったことあるにゃ? というか、お前移動できるにゃ?」


アルラウネ「移動? できるわよ? ほら」


するとアルラウネの少女はくるくると花弁と葉にくるまれ、蕾になってそのまま小さくなって土の中に引っ込んでしまった。


そして振り返ると、俺の後ろの地面から植物が生えて来る。


先程までは植物の魔力を意識していなかったが、注意して観察すれば、地中に伝わる根の魔力も追う事ができた。そのため、背後に現れるのも分かった。


蕾ができ、花弁が開いて中から先程の少女が現れる。


アルラウネ「土のあるところならどこでも。岩の中とかは無理だけど」


「にゃるほど。ところで……」


アルラウネ「……?」


「妖精族ってのは、食えるにゃ? 美味いにゃ?」


アルラウネ「ちょっ! 私達を食べる気?! ってかあなたも妖精族なんだから、食事なんかしなくても魔力を吸って生きていけるでしょ?」


「まぁにゃ。でも食べる事もできるにゃ。食べるのは美味しいにゃ。いや、美味しいのは美味しいものを食べた時だけだけだにゃ。でも俺は、美味しくないものは食べないから一緒だにゃ」


アルラウネ「私達は美味しくないわよ!」


「冗談にゃ。言葉が話せる相手を襲って食うほど野蛮じゃないにゃ」


アルラウネ「脅かさないでよ……」


それからは、たまに森の中で出会えば会話するようになった。ただ、こちから積極的に彼らの領域に近づく事はなかったし、食べられるのか尋ねた事で警戒されてしまったようで、向こうもあまり積極的に話しかけてくる事はなかった。まぁ遭ってもそれほど会話するネタがあるわけでもない。彼らは活発に移動するような種でもなく、また、彼らも森の中の事しか知らないので、特に話す話題があるわけでもないのだ。


そもそも、彼らは基本は植物なのだ。どちらかと言えば動物に近い俺とは生きている世界が違う。


少し分かってきたのは、彼らはどうやらかなり気が長い種のようだ。そして、何を考えているのか分からない。(というか何も考えていなさそうだ。)まぁ、植物というのはそのようなものなのだろう。


その後、たまにアルラウネと話す以外は特に話し相手がみつかる事もなく、淡々と同じ事を繰り返す日々を俺は重ねていった。


そして……







…十年の歳月が流れた。


ちゃんと数えていたわけではないが、ステータス画面の時計とカレンダーのおかげでだいたい正確である。まぁこの世界の一年が、地球の一年と同じかどうかは結局不明のままだが。


俺の家造りの技術も一旦完成を見た。(ネタが尽きた、とも言う。)


そこで俺は少し外に意識を向けてみる事にした。拠点である泉から少し離れてみる事にしたのだ。


この世界に来て十年過ごした“最初の泉”からの旅立ちである。




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