第21話 人の生活の痕跡?
古龍に教えられた方向に向かって森を移動し続けると、徐々に魔物の質が変わってきた。
以前は美味い肉を求めて寄り強い魔物が居る方向に進んで行った結果、古龍に出逢ったわけだが、どうやら人間が居ると思しき方向へ進むほど、出現する魔物が弱くなっていくのだ。なるほどそれはそうか。人間は弱い。強い魔物が出る地域に住み着くわけがない。
だが、魔物の肉は、雑魚になるほど不味くなる。これは、ちょっと失敗したかなと思ったが仕方がない。美味い肉が食いたくなったらまた強い魔物の居る地域にに転移で戻れば良い。特にやる事もないし。今はこの世界を探索して行こう。
ちなみに、今いる辺りでは、現れる魔物はオークやゴブリンなど。俺の力であれば、羽虫をはらうかの如くケチらせる。
オークは安っぽいに豚肉みたいな味で、これはこれで良かった。高級肉も美味いが、毎日では飽きるので、こういう素朴な肉の味も良いものだ。
ゴブリンはとても食えないほど不味かった。その辺は、俺の知るラノベの知識と同じだな。
他には、リザードマンなど爬虫類系の魔物にも遭遇した。これも食ってみたら独特な味がした。不味くはないが俺の好みではないかな。
おっと、気をつけないと、また野生化してしまいそうだ。人間に会いたいわけではないが、言葉を話す相手が居ないと、なんだか知性が下がっていく気がする。
人間がみつからなかったら、古龍のところにでも戻るかな。
などと思い始めていたところ、山中に洞窟を見つけた。別に洞窟など珍しくもないが、妙な違和感を感じ近づいてみたら、そこには人間の生活の痕跡があったのだ。
だが、魔力を探ってみたところ、中に人や動物、魔物の気配はなかった。
入ってみると、中には古びたチェストやクローゼットなどの家具があり、さらに奥、倉庫と思われる場所には財宝の入った箱があった。
奥に扉のついた部屋があったので開けてみる。(埃っぽく妙な臭いもしたので即座に【クリーン】を掛けて浄化し、風魔法で空気を入れ替えた。)
部屋の中にはベッドがあり、
だが、洞窟の近辺には人間の村や街など見当たらない。孤独な隠遁生活でもしていたのであろうか?
ふと思いついてミイラを【鑑定】してみたところ、成功。ミイラは盗賊の死体と表示された。なるほどここは盗賊のアジトであったようだ。
鑑定でおおよその死因まで分かった。どうやら襲撃に失敗して負傷した盗賊が、アジトまではなんとか戻ってきたものの、傷が悪化し、ベッドで事切れたらしい。
ベッドで死ねたのならラッキーな最後であったと言えるかも知れないな。
俺はアジトにあった衣類や家財道具で使えそうなものをありがたく頂く事にした。
まぁ今の野生の生活ではほとんど必要ないものだが、人間の道具、人間の生活は少し懐かしかった。
服もあった。色々な種類とサイズがある。天然の毛皮の身には必要ないものであったが、なんとなく、身体に合いそうな服を見繕って着てみた。
自分のサイズにあうのは子供服になってしまうが。(箪笥の中には盗賊が奪ってきたが使わずに収納していたのであろう子供服があった。)
もちろん、すべて【クリーン】で清潔にしてから着用している。【クリーン】がなければ、盗賊のアジトにあった古着など、とても着る気はおきなかっただろう。
服を着て、ブーツを履き、腰に剣を差し、カウボーイハットを冠ってみれば…
…どっかで見たスタイルだな。
あれだ、地球で見た童話『長靴をはいた猫』。
……なんとなく小っ恥ずかしくなったのでハットはやめた。この世界で地球の童話を知っている者は居ないだろうが、もし俺以外に地球からの転生者が居たら…? 絶対、件の童話を連想するだろうからな。
地球のネタを知っているかどうかで転生者かどうか判別できるかもしれないが…仮に居たとしても、別に遭いたくはない、関わりたくないので秘密にしておいたほうがいいだろう。
結局、子供用のシャツと短パン、それにブーツを履いて腰には短剣を差す。そしてフード付きのマントというスタイルに落ち着いた。
やっぱりどこかで見たことがあるようなスタイルになってる気はしたが、これ以上はしょうがないだろう。
そして……
少し自分でも意外であったのだが、一度服を着てしまうと地球で人間であった時の常識が蘇ってくる。
この世界に来てから十余年、ずっと裸で過ごしてきた。天然の毛皮を着ているので裸というわけではないのだが、人間の服を着て、人間の生活の痕跡を見て、急に人間性を思い出してしまったというか。なんとなく裸で居るのが恥ずかしくなり、それ以降は服を着て過ごす事にしたのであった…。
人間と違う生物に転生を望むほどには人間に絶望していた俺だが、人間の文化的生活まで完全に切り捨てるのはちょっと惜しかったか。
もちろん、人間の酷い面は重々理解している。それは決して受け入れられるものでもないが…。
盗賊のアジトを中心に、周辺を探索してみると、少し離れた場所に古い街道らしきものの痕跡を発見した。雑草が生い茂っているが、木が生えていない場所が一本道のように続いているのだ。そこを辿っていくと…
…二台の馬車が見えた。
近寄ってみると馬車は二台とも朽ち掛けている。
一台は転覆してしまっており、周囲には誰も居なかった。
馬車の中を見てみると、積み荷がまだ少し残っていた。
食べ物が入っていたと思しき箱は、魔物か動物に食い荒らされたのだろうか、破壊されていた。
食べられないモノは匂いで分かるのか、ほとんど破壊されず放置されていた。
箱を開けてみると、かなりの数の金貨と宝石が出てきた。盗賊のアジトにもかなりの財宝があったので、あわせて結構な金持ちになった、かも知れない。
まぁ森で生きている限り使う機会はないのだが。
だが、街道があると言うことは、もしかして、街が近くにあるのだろうか…? 街道は使われておらず痕跡だけなので、もしかしたら人類はもう居ないのか?
俺は空に浮き上がり、街道の痕跡を辿ってみる。
そのものずばりの空を飛ぶための魔法というのはないのだが、空を飛ぶ事を可能にする魔法はいくつか考えられる。
俺は重力魔法と風魔法を使っている。重力をゼロにして、風魔法で風を自分に当て移動させる。(急ぐ時は重力の落下方向を進みたい方向に向け
高く登り、街道の痕跡に沿って移動していくと、途中、崖崩れで道が塞がれている場所があった。
空からなので崩れた崖の先も見える。反対側にも道の痕跡は続いている。さらに辿っていくと、やがてその先に別の街道が見えてきた。どうやら峠が崖崩れで塞がれたため、山を大きく迂回するルートに別の街道があった。元々あったルートなのか、あるいは崩れた崖を除去するより別ルートを作るほうが早かったのかも知れない。
こちらの街道は雑草も少なくある程度整備されているように見える。今のところ街道を通行する者の姿は見えないが、道の状態からして、今でも時々使われているのだろう。
道を辿っていけば、その先に人間の街があるなら確認しておきたい。街があるなら転移用にマッピングしておきたいしな。別に人間の生活に戻りたい(人間に戻りたい)などと思う事はないが、一応念の為、だ。
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