第120話 猫さんは強いんだよー
納品の期日が迫っている。僕は一人で旅立つ決意をした。
とは言えもう街の門は閉まる時間なので、旅立ちは明日だ。最後に母の顔を見ていこう。もしかしたら…これが今生の別れになるかもしれないから…。
母には、心配させないように仕事はなんとかなったから大丈夫と嘘をついた。
母の入院している治療院からの帰り道、冒険者ギルドの前を通ったので、ダメ元でもう一度、護衛が頼めないか聞いてみた。ダメだろうとは思ったけど、藁にも縋る思いだったんだ。そして…
…そこで、猫人の冒険者、カイトさんに出会った。
カイトさんは、僅かな金額で護衛依頼を受けてくれるという。
ギルドの受付のオバサンは、護衛に猫一匹で大丈夫かって心配してたけど、もともと、護衛なしでも一人で行くつもりだったのだ。たとえ頼りなくても、一人だけでも、冒険者の護衛がついてくれるならありがたい。
しかも、もう一人の変な喋り方のオバサン(※ノア)が、猫さんは強いんだよーって太鼓判を押してくれた。
(※ノアはまだ十八歳だが、まだ十歳に満たないマキから見ればノアも十分オバサンであった。)
そしてその言葉は本当だった、いや、それ以上だった。その猫さん、カイトさんはとんでもない強さだったんだ。
翌朝、その他の商人の人達の
ただ、このままキャラバンにくっついていたのでは、期日に間に合わなくなってしまう。それをカイトさんに話したら、カイトさんは急ぐならこっちにゃと言い、別れ道を馬車とは違う方向―――森へ向かう方向へ進んでしまった。
『森を飛び越える』ってカイトさんは言ってたけ。ど、その時は意味が分からず、僕は森を抜けるって事だろうと思った。
本当は冒険者としては、急ぐからと行って森を抜けるような事は、決してやってはいけない事だったと後で聞いたけど、この時は知らなかった。でも、森の中には魔物がたくさん居る。危険だから、旅人は皆、森を迂回するルートを行くというのは聞いていた。
大丈夫なのか不安になったが、カイトさんが大丈夫とどんどん行ってしまう。急ぐ理由があると言った手前、僕も黙ってついていくことにした。
森に近づくと、案の定、すぐに魔物が現れた。ゴブリンだ。
ゴブリンに道を塞がれ、慌てて逃げようとしたけど、後ろにも既に回り込まれ…気がつけばとり囲まれていた。
だけど、カイトさんは余裕の表情だった。いや、猫の顔なので表情はよく分からないんだけど…。雰囲気はまったく焦っている風ではなかった。
その理由はすぐに分かった。
僕らを囲んでいたゴブリンは、カイトさんが手を二~三度クイクイと振っただけで、全てクビを切り落とされて死んでしまったのだ…。
まるでゴブリンなど気にせずカイトさんは進む。気がついたらゴブリンの死体もどこにもなくなっていた。
僕は幻でも見たんだろうか……?
カイトさんに尋ねてみたら、邪魔だから全部森の奥に転移させたと言っていた。転移ってよく分からないけど、そういう魔法なんだろう。
カイトさんは魔法がとても得意なんだそうだ。ゴブリンの首を切ったのも風属性の魔法だと言っていた。
なるほど、『猫さんは強いんだよ』って言っていた受付のオバサンの言葉の意味が分かってきた。
と思ったら、その後でもっととんでもない経験をする事になってしまった……。
カイトさんが、「ここら辺でいいにゃ」と言って立ち止まった。そして、突然僕の体は宙に浮かび始めたんだ…!
あれよあれよと地面が遠ざかっていく。
僕はパニックになり……その後の記憶はない。
そして……気がつけば、また森を入ってすぐの街道に戻っていた…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます