第119話 コバルト商会の受難~

■マキ


僕はマキ。帝都に住む平民の子供だ。両親はコバルト商会という店を営んでる。


父さんはゲットー。真面目な性格で、一攫千金のような博打は討たず、安全を重視しながら地道にコツコツやっていくタイプだった。そのせいで、商会が急成長すると言う事はなかったみたいだけど。でも、父の生真面目さを評価してくれる人も増えてきて、商売は順調そうだと母さんは嬉しそうに言ってた。


だけど……ある日、行商に行った父さんは、予定の期日を過ぎても戻ってこなくて……そのあとしばらくして、父さんが行方不明になったという知らせが届いたんだ。


知らせは、たまたま一緒に居たという別の商会の人からだった。なんでも、旅の途中で貴重な魔物を見つけた父さんは、止めるのも聞かず、深追いをして森の深くに入っていき、そのまま行方不明になったっていうんだ…。


だけど嘘だと思う。母さんも信じなかった。だって、あの慎重な父さんがそんな事するわけない。そもそも父さんは冒険者じゃない。貴重な魔物だったとしても、なんで父さんが自分で追いかけるのさ?


……何があったのか分からないけれど……でも父さんはきっと切り抜けて帰って来る、僕はそう信じてた。そう言うと、母さんもそうだねと笑ってくれた。


ただ、父さんが居なくても、父さんが既に受けてしまった注文についてはこなさないといけない。父さんがこれまで築き上げてきた信用を落としたくない。だから、母さんと僕はがんばった。


父さんの仕事机の上に積まれていた注文票を、上から順に処理していく。父さんが堅実な商売をしていたおかげで在庫もすべて確保できており、どうやら今受けている注文については目処が立ちそうだと母さんは安堵していた。


だけどそんな時、薬師ギルドから納品があった。その品物の請求書とともに。


それは、ハイポーションの原料となる薬草の納品であった。伝票を探すと、どうやら父さんが薬師ギルドに注文を出していた事が分かった。


薬師ギルドの人が言うには、最近ハイポーションの原料となる薬草が冒険者ギルドから売りに出され、それを全て薬師ギルドが買い取ったそうだ。


その薬草はほとんどがポーションに加工されてしまったんだけど、最後に残った一本を父さんがなんとか売ってもらったらしい。


それはいいんだけど……その購入価格がとんでもない金額だったんだ。状態を維持するために、時間の進行が遅いマジックバッグ込みの金額だったからだ。薬師ギルドの人は、無理して最後の一本を確保したのだ、今更一本だけ返されても困ると、キャンセルを受け付けてくれない。結局、店にある現金では支払いに足りず、母さんは借金をしてなんとか支払った。


そもそも、父さんはなんでそんな薬草を購入したんだろう?


それは、最後の伝票を見て明らかになった。(というか、伝票は上からではなく、下から処理なければならなかったみたいだ。でもそれを母も僕も知らなかった…。)


父の受けた注文は、その貴重な薬草を確保し、辺境の貴族に届けるというものだった。


その報酬は、すごい金額だった。薬草購入に借金が必要だったとしても、成功させれば帳消し、それどころかものすごい利益になると思う。(それに、マジックバッグも売ってしまえるしね。)


だけど……もし薬草を期日までに納品できなければ、逆にその貴族に莫大な違約金を支払わなければならないという契約だったんだ。


母は自分が行くと、すぐに出発しようとしたんだけど……その貴族が居る街は遠い。途中魔物が多く出没する地域を通る必要もある。当然、優秀な護衛が必要となる。だけど……もうウチには護衛を雇うお金なんてなかったんだ…。


母さんは護衛を雇うためのお金を工面するべくあちこちに駆け回ったけど、既に借金をしているのに、さらに追加の借金はなかなか承諾してもらえない。


しかも、母さんは必死で走り回ているうち、通りで暴走する貴族の馬車にはねられて重症を負ってしまったんだ…。


…幸い母さんの命に別状はなかったけど。しばらく入院が必要になってしまった。


母さんの世話を治療院にお願いし、今日のご飯を買うための僅かなお金を持って僕は冒険者ギルドに向かった。


なんとか護衛を雇う方法がないか相談したかったんだ。


だけどやっぱり……当然と言えば当然だけど、金額が安いと断られてしまった。そりゃそうだよね。晩ごはん程度の金額で護衛なんて引き受けてくれるわけないよね…。


後払いの成功報酬という方法もあるとは教えてもらったけど、よほど信用がある商会や貴族ならともかく、子供の僕では誰も受けてくれないだろうって、冒険者ギルドの受付のおばさんに言われた。


それでも、納品の期日は迫ってくる。というか、普通に旅をしていたらもう間に合わない段階まで来ている。それは僕にも分かった。


僕は一人で旅立つ決意をした。すばしこい僕一人なら、魔物に襲われてもなんとかなるんじゃないかな……?



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