第116話 その依頼、俺が受けるにゃ
番頭「昨日登録した者をすぐさまEランクに昇格させ護衛に寄越すとは、冒険者ギルドはよほど人材不足なのか……?
まぁ帰れと言われてもお前も困るか。お前は依頼を受けただけなんだろうからな。分かった、一緒に来い」
どこへ行くのかと思いきや、結局、俺はその番頭と一緒に冒険者ギルドに戻ってきたのであった。
ノア「あー猫ちゃんだー」
見るとノアが小さく手を振っているが、別の冒険者の応対中のようだ。他にも冒険者が受付待ちで並んでいたが、番頭は別の受付カウンターに向かった。そこで、冒険者用の受付と依頼主用の受付は別になっていると今日気がついた。確かに、仕事の依頼主が荒くれ者も多い冒険者達と一緒に列に並んで待つのも変な話だな。
番頭「アニル商会のスリンだが」
依頼窓口の受付嬢「これはスリン様、いつも冒険者ギルドをご利用ありがとうございます」
依頼窓口の受付嬢の名札にはマーゴットと書かれていた。
スリン「コレだよ」
スリンが俺を頭の上から指差す。
「何か失礼だにゃお前…」
スリンは俺を無視して受付嬢に言った。
スリン「護衛依頼にこんな猫一匹寄越すとはどういう事だ?」
マーゴット「も、申し訳有りません、冒険者の手配は別の担当になっているものですから…今担当を呼んで参りますので」
スリン「いつも護衛依頼を受けてくれている“谷間の春”はどうしたんだ?」
マーゴット「ええっと少々お待ち下さい……あ、どうやらパーティ“谷間の春”は現在別の
スリン「ふむ、居ないなら仕方がない。なら他の冒険者でもいいが、もう少し頼りになりそうなのをお願いしたいのだがね?」
マーゴット「そうですか、申し訳ありません。いつもは適正な冒険者を選定しているはずなのですが、まったく、誰が受付したんでしょうねぇ…」
『あれ、スリンさん、どうかしましたか?』
そこに背後から声を掛けてくる者が居た。
スリン「おお、シャプ。それにいつもの“谷間の春”のメンバーも全員居るな? いつもの護衛依頼だ、頼む。君達が居なかったら、こんなのを寄越されてしまって困っていたんだ」
シャプ「猫…獣人? お前、冒険者なのか? 見ない顔だな?」
「昨日登録したばかりだからにゃ。今日、Eランクになったから、護衛依頼も受けられるにゃ」
シャプ「昨日登録して今日昇格? ちょっと何言ってるか分からねぇが…まぁいい。俺達が戻ってきたんだから、スリンさんの依頼は俺達が受ける。チビ猫の出る幕はねぇよ」
マーゴット「今、依頼から帰ってきたばかりで疲れているのでは?」
シャプ「大丈夫さ、確かに多少疲れてはいるが…
…スリンさん、出発はいつからですか?」
スリン「明日早朝出発だ、悪いが急ぎの用件があってな。シャプ達が疲れているのなら別の冒険者に頼んでもいい、こんなのでないまともな冒険者なら、な」
シャプ「ああいや! 大丈夫です! 自分達がやります。一晩寝れば大丈夫、なぁお前達も大丈夫だよな?」
後ろに居た谷間の春のメンバーと思しき三人も頷いた。
スリン「たしかに弱小商会ではあるがね! 今後はコンナノを寄越さないでもらいたいものだ、頼むよ?!」
マーゴット「は、はい…申し訳有りません」
「とことん失礼な奴だにゃお前。お前のような奴の依頼はこっちからお断りにゃ! ほれ、依頼票返すにゃ。それと、今後この男…アニル商会とか言ったか? の依頼は俺は受けんにゃ」
スリン「…構わん。というかこちらこそ、アニル商会は今後この猫は出禁としておいてくれ」
マーゴット「はい…そのように申し送りしておきます」
スリン「では明日…シャプ、頼むぞ。日の出前に門のところで待っている」
シャプ「はい、では明日…」
結局スリンは最後まで俺とまともに向き合おうとはせずに出ていった。
そこに、やっと手の空いたノアがやってきた。
ノア「猫ちゃん! どーしたのー?」
「護衛依頼、断られたにゃ」
ノア「えーどーしてー?」
「猫が護衛では嫌らしいにゃ」
ノア「えー? 何で猫ちゃんじゃダメなのよー?」
マーゴット「当たり前でしょ! 護衛なんだからこんな頼りなさそうな小さな猫じゃ断られるに決まってるでしょ」
ノア「猫ちゃん強いんだよー? 今日だってー、熊男模擬戦でやっつけたしー。コテンパンだぜ?」
ノアが変なファイティングポーズを取りながら言ったので、俺もそれを真似てポーズを取ってみた。
マーゴット「熊男……? ってまさかAランク冒険者のボロノフさんの事?! そういえば医務室に運ばれたって聞いたけど…」
ノア「そうだー猫ちゃん、またおっきくなってみせてよー」
「にゃ」
マーゴット「!?」
俺はまた身長2メートルのデカ猫にサイズアップした。(ちなみに巨大化するとボデイも若干横方向にサイズアップするのでデブ猫になる。)
ノア「でっかい猫ちゃーん!」
ノアが腹に抱きついてモフ摺りし始める。
マーゴット「なにこれ?!」
ノア「この姿で護衛依頼を受けに行けばよかったねー」
マーゴット「確かに、これなら…スリン氏も断らなかったかも知れないわね…」
ノア「もう一度行ってみればー?」
「別にいいにゃ。俺はあの男の商会の依頼は受けないにゃ」
ノア「そっかー。でもどうするー? ちょうど今、Eランクで受けられる護衛依頼他に出てないんだよねー。有力な商会は高ランク冒険者使うからさー」
「そうにゃ…まぁしょうがないにゃ。こればっかりはしょうがないにゃ。少し待てばまた出てくるんにゃろ?」
その時、依頼受付カウンターに新しい客がやってきた。マーゴットが対応したが……
マーゴット「いらっしゃいませ! 冒険者ギルドにようこそ! 本日は依頼をお持ち込みで……あら、またあなたなの?」
やって来たのはまだ未成年と思しき少年であった。
※この国では成人は十六歳となっているが、この少年はそれよりも幼い。幼児とは言えないが……十歳前後であろうか。
少年「どうでしょうか? 依頼を受けてもらえそうな冒険者さんは居ましたか?」
マーゴット「あのねぇ、前にも言ったけど、あなたが持ってきた金額では、護衛依頼なんて受けてくれる冒険者はいないのよ…?」
少年「依頼料はちゃんと払います! すぐには払えないけど、今回の仕事が上手く行けばお金が入りますのでそれで…」
マーゴット「ごめんなさいね、後払いは受け付けてないのよ。何度も依頼を受けた実績がある商会とかならまだしも、あなたは依頼を持ち込むのは初めてでしょう?」
少年「ウチはなんども護衛依頼を頼んだ事があります、コバルト商会と言います!」
マーゴット「あら? コバルト商会なら知っているわ。ゲットーさんの商会よね? 小さいけど堅実に働いていて好感が持てる商会ね。するとあなたは…?」
少年「僕はマキと言います。ゲットーは僕の父です」
マーゴット「そのゲットーさんはどうしたの?」
マキ「それが、父は行商に行った先から旅の途中で行方不明になったと連絡を受けまして…」
マーゴット「まぁ…魔物に襲われたのね? お気の毒に…」
マキ「父はきっと生きてます! 父が帰ってくるまで、コバルト商会を潰すわけにはいかないんです!」
マーゴット「そうだったんだ…。お気の毒だけど、でも、銅貨数枚では、冒険者は雇えないのよ…ゴメンネ」
ノア「ちょうどいいじゃん、猫ちゃん、その依頼うけてあげなよ?」
「ん、その依頼、俺が受けるにゃ」
マーゴット「え?」
マキ「ほんとですか?!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます