第114話 もふもふだー

「ブレスにゃ?!」


ドラゴンのブレスは街を一撃で壊滅させるほどだが……さすがに熊のブレスにはそこまでの威力はなかった。言うなればプチブレスである。


が…それでもなかなかの威力がある。魔物だったら大物でも一撃で仕留められるだろう。


スティング「ベアブレス! ボロノフがAランクに昇格したのはこのスキルがあったからなんだ」


「獣人ってブレスが使えるにゃ?!」


俺を狙って断続的に吐き出されるブレス。まずい、的が大き過ぎる。俺は慌てて元のサイズに戻って素早く避けた。


「危なかったにゃ。…しかしなんか、放射能吐くゴジラみたいにゃね」


ノア「なんかずるいーこれって反則じゃないのー? 魔法攻撃は禁止のはずだよー?」


スティング「いや…スキルの使用は禁じていないからな…」


熊は何度かブレスを吐いたが、俺はそれをヒラリヒラリと躱す。魔力の先触れはより顕著になったので躱すのは難しい事ではないのだ。


だが……もともとそれほど命中精度の高い攻撃ではなかったが、どうも様子がおかしい。そのうち、熊はブレスを俺の居ない方向にも乱射し始めたのだ。


ついに、流れ弾がギャラリーの冒険者に当たってしまい悲鳴があがる。まぁさすがは冒険者、なんとか自力で致命傷は避けていたようだが。


あ? これってもしかして、熊の体内のブレスの術式が破壊されて暴走している…?


(※スキルも魔法の一種である。その発動のための術式が身体的・構造的に組み込まれているだけなのである。竜種など、ブレスを吐く魔物が居るが、そのための器官が内臓にあると言われており、実際にそれらしい器官はある。だが、その器官を解剖して調べてもブレスが生成されるような仕組みは発見できないのである。とある研究者は、それらの器官は魔法の出口の役割をしているだけなのではないかと仮説を発表しているが、謎は多いままなのだ。)


おそらく、体内のブレスを発生させる術式が含まれている臓器が、傷ついて制御が効かなくなっているのだろう。これってもしかして俺のねじり込み式魔力発剄のせいか?!


逃げ惑う冒険者達。


別に野次馬の冒険者共などどうなってもいいので放って置く。冒険者は自己責任だからにゃ。だが…


…攻撃の射線上にノアが入ってしまったらそうも行かない。


ずっと俺を応援してくれていたノアである、庇ってやらねばなるまい。


俺はノアの前に割って入り、ブレスを受け止める事にした。


いや、正確に言うとまったく受け止めてはいないのだが。亜空間収納の入口を自分の前に開け、ブレスをすべて亜空間に収納したのである。


熊はさらに連続してブレスを打ってくるが、俺はその前に割り込んで全て収納してしまう。別にノア以外を庇ってやる気はなかったのだが、どうせだから熊のブレスを収集しておく事にしたのだ。


ちなみに、俺の亜空間収納の中には昔、知り合った古龍に頼んでブレスを吐いてもらったのを何発か収納してある。威力が高すぎて使う機会がないのだが…。


十数発プチブレスを打った熊はついに力尽きたようで、小さな煙を吐いて打ち止めになった。


「もういいにゃろ」


いい加減試験を終わらせたくなった俺は熊の背後に転移し、肉球パンチを後頭部に叩き込んでやった。脳まで破壊して死なれても困るので、発剄ではなく体重を増やしてひっぱたいただけであるが。


「死んでないよにゃ?」


動かなくなった熊をツンツンしてみる。うん、気を失っているだけのようだ。


俺は振り返ってスティングを探した。…居た。物陰に隠れて顔だけ出している。


「俺の勝ちって事でいいにゃ?」


スティング「あ? …ああ、そうだな…」


スティングがそそくさと訓練場の中央まで出て来る。


スティング「それまで! この試合、カイトの勝ちだ」


「で、昇級試験は合格って事でいいにゃ?」


スティング「ああ合格…でいいのか?」


「なんで疑問形にゃ」


スティング「……合格だ。ノア、冒険者証を更新してやれ…ノア?」


ノア「ねぇねぇ猫ちゃん、さっきみたいに大きくなってー」


「なんでにゃ」


ノア「いいから早くー」


「こ、こうにゃ?」


ノア「おっきい猫ちゃーん!」


ノアが巨大猫と化した俺の腹に抱きついてきた。


ノア「もふもふだー」


「やれやれにゃ…」


抱きついて来たのが男だったら跳ね飛ばしているところだが、ノアならまぁいいか……。



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