第113話 新技試してみるにゃ

熊「ふ…いつまで逃げ続けられるかな?」


「扇風機みたいにブンブン腕を振り回したって “当たらなければどうということはない” にゃ!」


熊「センプウ? なんだって?」


「“扇風機”はこの世界にはにゃかったか。まぁそれはどうでもいいにゃ。反撃にゃ」


熊「ふふん、お前の攻撃など通用しないのはもう分かったろう? なんなら攻撃魔法有りにしてやろうか?」


「必要ないにゃ。俺も似たようなスキルはあるにゃよ」


熊「? ……なっ?!」

スティング「おお?!」

ノア「おーーーでっかい猫ちゃんだぁ!」


「巨大猫と巨大熊の怪獣大決戦にゃ!」


熊「…ちっ、でかくなりゃいいってもんじゃねぇぜ?」


「それを巨大化してるお前が言うにゃ?」


熊「デカくなりゃ、その分、的が大きくなって当たりやすくなるってもんだ、ぜっ!」


熊の爪が俺の顔に迫る。


だが、それより俺の掌打が熊の胴に当たる方が速い。それはそうだ、バックスイング付きの弧を描く攻撃よりも、予備動作なしに最短距離で突き出される掌のほうが速いに決まっている。


俺は熊の胴体に肉球を使った掌打を打ち込んだ。


実は、巨大化せずに重力魔法で体重を増加させる方法もあったのだが、それをせず、あえて俺が大きくなったのはこのためである。小さいままでは、巨大化した熊の膝より下にした手が届かなかったのだ。


足を攻撃してもいいのだが、一つ、試したい事があったので、熊の胴体に手が届く身長にサイズアップしたというわけである。


俺は掌打に合わせて力強く訓練場の土間を踏み締める。“震脚”である。中国拳法のひとつ、八極拳には、打撃の際に地面を強く踏み込む事で瞬間的に体重を増やし打撃力を増すという技術があるが、それを真似してみたのである。


だが、俺の震脚はそれほど上手く行ったとは言えなかった。まぁこれも漫画から学んだ事をぶつけ本番でやってみただけなので、成功しないのは想定内、駄目でもともとである。


実は、確実に威力を上げるため、俺は瞬間的に重力魔法で体重を千倍に増やしていた。というかこっちがメインの作戦だな。(そもそも元の俺の体重では仮に震脚がタイミングバッチリで決まったとしても大した威力にはならないだろうしな。)


俺の踏み込みのせいで轟音とともにギルドが揺れた。訓練場の土間には俺の肉球の痕跡がくっきりと刻まれた。周囲のギャラリーも振動でひっくり返ってしまったようだ。


俺の元の体重が約三十キロ。サイズアップして約百キロ。その千倍だから約百トン。仮に巨大化して熊の体重が一トンになっていたとしても、百トンの体重から繰り出される張り手には敵うまい。


あえて爪ではなく肉球の掌打にしたのも理由がある。もちろん殺してしまわないためもあるのだが、衝撃を熊の体内に叩き込むためである。


柔らかい肉球なので、ボクシンググローブを嵌めたように“力積”は大きくなる。そうすると、固いものを割るような破壊力はないが、その代わり、よりダメージが内部に“浸透”しやすくなるのだ。


熊の毛皮は身体強化で強化され、爪では傷がつかなくなっていたが、果たして内臓はどうかな? (浸透したか?)理屈は知っていたが全てぶつけ本番。なので成功する確証はがなかった。


だが大丈夫。さらにさらにダメ押しも追加しておいたからな。


実は、俺はインパクトの瞬間に“魔力”を掌打から放出してやったのだ。


中国拳法には“気”を打ち出す発剄という打撃法があるが、それを魔力で行ってみたのである。それも内部に浸透しやすくなるよう、ドリルのようにねじ込むイメージで。(中国拳法ではたしか、螺旋状に剄を伝えるのを纏絲勁てんしけいと言うんだったかな?)


思いつきだけでやったなんちゃって発剄シリーズであったが、果たして……?


熊「ぐ…お……」


熊の胴に掌打が食い込む。熊はその強烈な圧力にくの字に折れ曲がり、そのまま膝を突き、床に突っ伏した。中途半端な威力だと吹き飛ぶが、より強烈な威力だとくの字に折れ曲がるというが、そうなったようだ。


強烈な腹痛にうめき声を上げている熊。


「降参にゃ?」


熊「うー……ぐそっ、こんな……


……こんな負け方じゃ……モブ達に顔向けできねぇんだよ」


そう言うと熊は膝をついたまま顔だけ上げ、大きく口を開いた。


「…? にゃんと?!」


なんと、熊の口の中に光が発生し、そこから爆発的奔流が吹き出すではないか。


「ブレスにゃ?!」



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