第111話 ランクアップ試験
ノア「あ! 猫ちゃん。おはよー」
冒険者ギルドに行くと、ノアが受付に居た。
「はようにゃ。ランクアップ試験の日程はどうにゃったにゃ?」
ノア「もうランクアップ? すごいねー! ちょっと待ってねー」
ノア「あ、試験は今日やってくれるってー。なんかねー、ボロノフさんっていう人が試験官やってくれるみたいよー。確かダンジョンに遠征に行ってたAランクの冒険者の人だったと思うけど、戻ってきたんだー。たしか猫ちゃんと同じ、先祖返りの熊の人だよー」
「……熊?!」
ノア「?」
「……ちなみに、先祖返りの熊獣人は何人か居たりするにゃ?」
ノア「んー……ボロノフさん以外には見たことないかなー」
「昨日の奴で間違いなさそうだにゃ…。まぁ別にいいけどにゃ!」
昇級試験は筆記試験と実技試験に別れており、まずは筆記試験からだと言われた。
会議室に移動しての試験だが、試験監督はノアがやってくれた。
内容は、馬鹿にしてるのか? と思うほど簡単な文章による計算問題であった。
『りんごが十個ある。一つ百円である。全部でいくらか?』
みたいな感じだ。
一瞬、簡単そう見えて引っ掛け問題なのではないかと疑って考えてしまったが、どうやらそんな事はなく、シンプルに計算して答えればよいだけであった。
なんでもこれは、字の読み書きができる事とお金の計算ができる事の確認なのだそうだ。冒険者は最低限、依頼票や契約書の内容を読めて、報酬の計算ができる必要があるからだとの事。
ただ、帝国では皇帝と賢者が学校を作り国民の教育を義務付けているため、この程度の問題が解けない者は今はほとんど居ないそうだが。ただ、田舎から出てきたような者だと、まだ字が読めない者も居るのだそうで。読めないなら読めないと言ってくれれば問題ないのだが、見栄を張って読めると嘘をついてしまう者が意外と多いのだとか。
筆記が終われば実技試験である。内容は毎度おなじみ、訓練場に移動して試験官相手の模擬戦であるが…
試験官は…やはり、昨日の熊男であった。
立会の記録係としてノア、審判はギルドマスター・スティングが務めてくれるそうだ。ギルドマスターは普通は試験に立ち会ったりはしないのだそうだが、今回はどうしても俺の試験を見たかったそうな。俺がまた相手を殺してしまわないか心配であったらしい。別に俺だって手加減はできるんだが…。
熊「本当は、お前に決闘を申し込むつもりだったんだがな。ギルマスにどうしてもだめだって止められてな」
熊「だが、模擬戦なら良いというので、俺が試験官をやらせてもらう事にした」
熊「模擬戦なら断って逃げる事もできるが、試験となれば逃げられないからな」
熊「俺が試験官である以上、生半可な成績では絶対合格はさせねぇからな?」
「それはパワハラかにゃ?」
熊「ぱわ? なんだって?」
「職権乱用って意味にゃ。俺はそういう風に、立場を笠に着て偉そうにする奴、不当な評価をする奴が大嫌いだにゃ」
スティング「いやいや、ボロノフだって役目はしっかり熟すはずだ。不当な評価などしない、そうだよなボロノフ?」
「もし不正な評価をするような事があったら、今度は俺のほうから【決闘】を申し込むにゃ。熊男と…ギルマスに」
スティング「俺もかよ」
「当然にゃろ、監督不行き届きにゃ」
スティング「やれやれ、責任のある立場になど、なるもんじゃないよなぁ…」
熊「ふん、安心しろ。別に不当な評価などするつもりはない。だが、手加減する気もない。覚悟しろよ?」
スティング「言っとくが二人共、殺すのは反則だからな? 後遺症が残るような怪我もだぞ?」
「大丈夫にゃ、手足が捥げる程度なら、俺が治癒魔法で治してやるにゃ」
スティング「それも駄目だ! 治癒魔法は禁止だ。怪我はギルドにあるポーションで治療できる範囲まで、それ以上の怪我をさせたら反則、試験は即失格扱いとする」
「……まぁいいにゃ。熊は不満そうだけどにゃ?」
スティング「ボロノフ、分かってるだろうな?」
熊「……ちっ、それだったら試験官なんかやらず闇討ちしたほうが良かったじゃねぇか…」
スティング「ボロノフ!」
熊「しょうがねぇなぁ分かったよ…」
スティング「それから魔法の使用は一切禁止だ。木剣と、自分の肉体を使っての模擬戦を行ってもらう」
ノア「えー、それって、熊男に有利過ぎないー? 不公平ー。ギルドマスターの
スティング「なっ何を言い出す? こっ、これはパワハラじゃない、ギルドマスターの正当な権限の範囲だ」
「そのルールは俺もナンセンスだと思うにゃ。魔法は俺にとっては息をするようなものにゃ。使わないほうが難しいにゃ。まぁ魔法戦になったら妖精族の俺が有利過ぎるってのも分かるけどにゃ」
スティング「そ、そうだ、そういう判断だ」
ノア「でもー、猫ちゃんあんなに体小さいんだよー? 筋肉だって全然違うじゃん! 肉弾戦じゃ不利すぎでしょー」
そうだそうだ、それじゃ賭けが成立しないだろ! といつのまにか集まってきていた野次馬からもヤジが飛び始めた。
スティング「うるさい、Eランクの試験なんだ、そんなもんでいいだろう」
「そもそも、魔法って、どこまでが魔法にゃ?」
スティング「どういう意味だ?」
「例えば、俺は術式化されていない純粋な魔力を扱うことも得意にゃ。それは魔法なのか? もしそれをぶつけてKOした場合、魔法を使ったのかどうか、誰が判断できるにゃ?」
スティング「じゃぁ魔力の使用も禁止だ」
「それもどうかにゃぁ? 生き物は、動くだけでも魔力が動くにゃ。俺はそれを見て避けたり攻撃したりするにゃ。俺には種族的特性で人間より魔力がよく見えるからにゃ。それも禁じるって言われると、目も耳も塞いで戦えって話になってしまうにゃ。まぁ目をつぶっても魔力は感じ取れるから意味ないんだけどにゃ」
スティング「そんな能力があるのか? じゃぁどうすればいいんだ?」
「術式化された攻撃魔法は禁止、って事ならどうにゃ?」
スティング「攻撃魔法だけじゃダメだ。防御魔法や身体強化も使用禁止だ」
「だから、それをお前は判断できるのか? って話にゃ。身体強化は術式化されてなくても、魔力を身体の内部に纏わせるだけでも可能にゃ。攻撃魔法なら外から見ていても分かるけれど、身体内部の魔力の動きまでは人間はよく見えないんにゃろ? (俺は見えるけどにゃ)」
スティング「う…むー、いいだろう。じゃぁ身体強化と防御魔法は使用を許可する。攻撃魔法は禁止って事で」
「まぁその辺が妥協点かにゃ」
熊「いいだろう」
スティング「どちらかが戦闘不能になるか、参ったと言ったら終了だ。あ、試験だから別にカイトは勝たなくてもいい。ボロノフも、実力を見極めるだけでいいんだぞ? 手加減しろよ? 分かってるか? なんか分かってなさそうだが大丈夫か…?」
熊「コイツはBランクを三人瞬殺した実力者だそうじゃないか? 手加減なんかしてたら俺がやられちまうよ。そうだろ?」
「手加減は無用にゃ。まぁ俺は手加減してやるにゃよ、殺してしまったら失格になってしまうからにゃ」
熊「その減らず口、すぐに利くなくしてやるぜ」
俺と熊は訓練場の中央に移動し、渡された木剣を構えた。
スティング「よし! それでは……試合開始!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます