第109話 大熊と小猫
タイラー「薬草を採ってきてくれ」
「嫌にゃ」
タイラー「なんでにゃ!?」
「俺はランクアップの試験で忙しいにゃ」
タイラー「じゃぁランクアンプ試験の後でいいにゃ!」
「嫌にゃ」
タイラー「なんでにゃ?!」
「その後も忙しいにゃ! てか真似するにゃ!」
タイラー「何が忙しいっていうんだ?」
「Eの次はDランクの試験を受けるからにゃ」
タイラー「じゃぁその後で…」
「Dの次はCランクの試験にゃ」
タイラー「そうそうポンポン受けられるもんじゃないだろ? 受験資格に納品の項目はまた出てくるぞ?」
「まぁその時に考えるにゃ」
タイラー「あ、おい…待てって、なぁ頼むよ……」
+ + + +
■
俺はボロノフ。熊の獣人だ。冒険者をしている。俺はいわゆる先祖返りってタイプだ。とかく舐められがちな先祖返りだが、俺は冒険者としてAランクまで上り詰めたのでとやかく言う奴は居ない。むしろ、この強靭な腕力と爪は冒険者の間で恐れられている。
ここ数週間はダンジョンに潜っていた、今日の夕方、帰ってきたばかりだ。とりあえず、酒場で酒を一杯飲んで一息ついているところだ。
すると、受付カウンターに小さな猫人が近づいていくのが見えた。珍しい、先祖返りの獣人だ。って俺が言うのも変か。
見たこと無い奴だな、新人か? あんな体で冒険者ができるのか? カウンターに背が届いてないぞ? あ、箱を出して乗っかった。その箱どっから出した?
俺は獣人なので耳が良いのでチビ猫がランクアップ試験を受けたいと受付嬢に言っていたのが聞こえた。
受付嬢は
『あら? 猫じゃないの! ちょっとこっち来なさいよ!』
声がしたほうを見ると、受付嬢の主任モルメルが酒場の反対側の席に居た。猫はモルメルの知り合いか?
猫「なんにゃ…? 仕事終わりに晩酌にゃ?」
モルメル「やけ酒よ」
モルメルが自分の横の椅子をばんばんと叩く。猫は叩かれた椅子にかけると、いくつかの料理と酒を注文した。
猫「やけ酒? どうかしたにゃ?」
モルメル「アンタのせいでしょううが! アンタの持ってた紹介状を嘘だと判断した件で、ギルマスに叱られちまったんだよ! 降格処分だってさ。主任から平に逆戻りよ!! ボーナス減っちゃうじゃないのさ、どうしてくれんのよ!」
猫「知らんにゃ。自業自得にゃ」
すぐに料理と酒が出てきて、猫はそれを口にすると『不味いにゃ』と口にして、店員に嫌な顔をされていた。
その時、隣で飲んでいた冒険者達から信じられない話が聞こえてきた。
冒険者A『おい、見ろよ。アイツ、昨日モブ三兄弟を殺した奴だぞ』
冒険者B『マジか?!』
冒険者C『マジマジ。俺は見てたからな』
冒険者A『瞬殺だよ瞬殺』
冒険者C『その前はラルゴを模擬戦でボコってたらしいぞ。ラルゴはショックで寝込んじまったって噂だ』
冒険者A『あのチビ、かなり喧嘩っ早いらしいから絡まないほうがいいぞ』
モブ三兄弟が……
……殺された?!
「おい! それは本当か?!」
俺は思わず隣の冒険者の胸ぐらを掴んだ。
冒険者A「うげ、ボロノフ……?!」
冒険者B「おい、落ち着けって」
「ああ、すまん…」
冒険者C「帰ってたのかボロノフ」
「ああ、ついさっきな。それで、モブ三兄弟は…?」
冒険者A「ああ、あのチビ猫の新人、かなり生意気な奴で、納品受付のタイラーにも酷い態度をとってたらしいんだよ。それを見かねたモブ達が
冒険者C「だが…あの猫とんでもねぇ強さでな…モブ三兄弟はあっさり殺されちまったんだよ…」
「モブ三兄弟はBランク、それもAランク目前と言われていた実力があったはずだぞ? あんなチビ猫一人に殺られるなんて信じられん」
冒険者A「ああ、俺達だって噂だけなら信じられなかったろうさ。だが」
冒険者C「俺達はこの目で見てたからな。わずか数秒でモブ達は輪切りになって終わったよ…」
「……モブ達が…死んだ……?」
信じられん……。
「そっ、それで、それをギルマスは黙って許したのか?!」
冒険者A「ギルマスは出かけてて居なかったらしい」
冒険者C「それに、受付が証人になって正規の【決闘】として届け出をしてて認められたので、猫は無罪放免らしいぞ。煽られたとは言え、挑んだのはモブ達のほうからって事になってるからな。殺されても自己責任ってわけだ…」
周囲の他の冒険者達も、猫を見ながらヒソヒソ話している。猫も視線が気になるのか、時々キョロキョロ周囲を見回しているが、皆目が合いそうになると慌てて逸らしている。
モルメル「…ふふふ…気になる? 昨日の決闘の事が広まっているのよ。Bランクの冒険者三人相手に一人で瞬殺しちゃったんだから、腫れ物扱いにもなるさ!」
猫は皆が視線をそらすのが面白くなってきたのか、わざとあちこち顔を振り向けていた。
そしてその視線がついに俺のほうを向く。だが、俺は視線をそらさず睨みつけてやった。猫は少し驚いた顔をした。
俺は席を立つ。
冒険者A『おい、やめろよ、アイツはヤバいって』
腕を掴んで止められたが俺はその手を振り払う。
『おい、ボロノフ、やめとけって……!』
『いや、ボロノフなら大丈夫かも知れんぞ? Aランクだろ?』
『そうかぁ? モブ達は瞬殺だったんだぞ? たとえAランクでもあやしいんじゃないか』
『ランクが一つ違えば実力は段チだ、ボロノフならきっと殺れるさ』
俺は猫の横に立った。近づいてみると、本当にチビだ。俺の膝くらいまでしかない。
「お前がモブ兄弟を殺したって猫か?」
猫「そうにゃ。決闘を挑まれたからにゃ」
「お前…新人だそうだが、ランクは?」
猫「Fランクにゃ。昨日登録したばかりだしにゃ」
「Fランク……お前みたいなチビ猫の新人冒険者にモブ三兄弟が殺られたってのか?」
猫「別に信じなくてもいいにゃよ。お前には関係ないにゃろ?」
「関係はある! モブ三兄弟は、俺が鍛えたんだ。弟子でもあり、友達でもあった。それを殺されて、黙ってられると思うか?」
猫「なら教え方が悪かったにゃ。相手の実力も見抜けないのに決闘を挑まないように教えておくべきだったにゃ」
「きさま……」
猫「あ、三人の死体は俺の収納の中に入ってるにゃ。友達なら引き取るにゃ? 要らないなら後で森の中にでも捨ててくるにゃ」
「捨てるだと!? きっさまぁ…!!」
俺は猫の態度に怒りを抑え切れず、思わず爪を振り上げていた……
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