第108話 冒険者達の教育がなっとらんからじゃ
スティング「賢者様に迷惑をかけたくなければ―――
『別に構わんよ。訴え出てみるが良いぞ』
俺の懐から声がした。
スティング「?!」
「あ、忘れてたにゃ」
俺は懐に入れていた通信機を取り出す。
昨日あった事を話したら、ギルマスと話したいとメイヴィスに渡されていたのだった。いつの間にかそれがオンになっていたようだ。
スティング「賢者…様?!」
メイヴィス『ひさしぶりじゃの、スティングよ』
スティング「お、久し、ぶりです、師匠…」
メイヴィス『久しぶりじゃないわい、聞いておれば好き勝手言いおって。訴えたければ訴えてみるが良い、恥を晒すだけじゃ』
「どの辺から聞いてたにゃ?」
メイヴィス『割と最初のほうから? それはともかくスティングよ。全てはお主の冒険者達の教育がなっとらんからじゃろう、そうではないか?』
スティング「それは…まぁそう言う面もありますが…」
メイヴィス『絡まれただけの被害者であるカイトにギルドの売上減少の責任をとらせようとするとか、お主が普段どんな風に冒険者を扱っているか目に浮かぶぞ』
スティング「くっ…、そっ…、いくら賢者様とは言え、冒険者ギルドの経営に口を挟む権利はないはずですが?」
メイヴィス『忘れたのか? 儂と皇帝陛下は、今でもギルドに所属する冒険者じゃぞ? 一冒険者として、最近聞こえてくるギルドの噂を心配して何が悪い?』
スティング「そんな屁理屈を…あなた方はもう何十年も冒険者活動などしていないではないですか」
メイヴィス『儂がカイトに言ったんじゃ、自重無用、暴れてやれとな。問題があったら責任は全部儂が、いや、皇帝陛下と賢者庁が取る! まぁ冒険者同士の【決闘】で死者が出たから減ったギルドの損害分を補填しろなどと言われても徹底的に争うがな』
スティング「ぐぬぬ…」
「まぁ別に、メイヴィスに迷惑を掛ける気はないにゃ、問題が起きたら俺が全部片をつけるにゃ」
スティング「ほう? 話が分かるな。責任をとって賠償金でも払ってくれるか?」
「金は払わんにゃ。責任も感じてないしにゃ」
スティング「じゃぁどう片を付けるというのだ?」
「うーん…、関係者全員皆殺しにして逃げる、とか?」
スティング「うぉい!! お前、お尋ね者になりたいのか? 冒険者ギルドは世界的組織だ、逃げられんぞ?」
「別に…。もともと俺は人間達と関わらないで生きていくつもりだったにゃ。まぁそれ以前に……
…証拠が残らないように
スティング「何と
メイヴィス『ほっほっほっ、カイトなら本当にやれるかもしれんな? なにせ、儂を越える【賢者】じゃからな』
スティング「そんな脅しに、冒険者ギルドが屈する訳がないでしょうが…。いくら帝国が強大だからと言って、全世界の冒険者を敵に回して勝てるわけが…」
「まぁ冗談にゃ」
メイヴィス『うむ、冗談の通じない奴だな、相変わらず』
スティング「…!
メイヴィス『まぁお主も、カイトに売上を補償させるとか、本気で言っていたわけではなかろう? そうやって難癖つけて冒険者を押さえ込んでうまく使おうとしておるんじゃろうが……あまり褒められたやり方ではないのう…』
スティング「…はぁ。まぁいいでしょう。
メイヴィス『うむ、そういう事にしておいてやろう。今度また遊びに行く。茶でも飲ませてくれ』
ブツっと音がして通信が切れた。
スティング「まったく……扱いにくいな。師匠も……お前も」
「褒めるにゃ」
スティング「褒めてねぇし。こうなったらランクアップの優遇の権もなしだ」
「優遇ったって気持ちだけ、具体的には何もないんにゃら一緒にゃ」
スティング「もういい、行け…。ランクアップのためでいい、せいぜい頑張って稼いでくれ……」
スティングがひらひらと手を振るので、俺は部屋を出たのだが、廊下を歩いてきたタイラーに捕まった。
タイラー「ああ、やっと話が終わったか。お前に話があったんだ、来てくれ」
「話ってなんにゃ?」
タイラー「お前がさっき納品した薬草についてだよ。あれを薬師ギルドの担当に見せたら、もっとたくさん欲しいと言われてな。あれをどこで採ったかは……
…教えられんよなぁ?」
「教えても、地竜が狩れないレベルの冒険者ではたどり着けないと思うにゃ」
タイラー「やっぱりそうか……。じゃぁ依頼を出す、もっと採ってきてくれないか? 花は無理でも、それ以外の部分でも構わん」
「嫌にゃ」
タイラー「…やっぱり無理か。お前でもそう頻繁に行けるわけではない場所ということだな?」
「行くのは簡単だけどにゃ」
タイラー「じゃぁなぜ…?」
「俺はランクアップの試験で忙しいからにゃ。薬草の納品はアレでOKだったんにゃろ? なら、Eランクの昇格試験が受けれるはずにゃ」
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