第104話 問題大有りだ

「紹介状? って…コレだな? 開封されているのだが…? ノアが開けたのか?」


ノア「ボクじゃないですよーそんな事するわけないじゃないですかー」


「…では誰が…?」


ノア「モルメル主任がー、ギルマスは忙しいからギルマス宛の書類は自分が確認して選別する事になってるんだって言ってましたよー?」


モルメル「ノア!! だって! マスター前に言ってたじゃないですか!? 『書類は開封して緊急の用件があったら知らせてくれ』って…。だから、マスターが会議で居なかったからアタシが代わりに…」


「それはオレが長期出張に行っている時の話だろうが! 日帰りで不在の時までやれなどと言っとらん!」


モルメル「…気を効かせたつもりだったんです…。だって、賢者とかSランクとかあまりに嘘っぽかったので、ギルマスに見せるまでもないかと……」


「とにかく、内容を読むからちょっと待ってろ…」


   ・

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   ・


「うむ、賢者アダラール様からの紹介状で間違いないな。件の猫人はSランク認定しても良いほどの実力がある、賢者が保証すると書いてある…」


モルメル「――偽造じゃないんですか? なんで賢者があんな猫を……そうだ、紋章の確認をしてないじゃないですか?!」


「確認するまでもない、筆跡は賢者様のものだ。俺は賢者様とは既知の仲なんだよ」


モルメル「そ…うだったんですか?! …でも! 筆跡はそっくりに偽造されているかも?」


「そうまで言うなら調べてもいいが」


ノア「そう言うと思って持ってきてるよー」


「お、気が利くな」


俺はノアに渡された小さな水晶が嵌った器具を、手紙に捺されている賢者の紋章にかざす。すると、水晶の上に賢者の紋章が浮かび上がり、本物である事が証明される。


「……モルメル。賢者様はこの国の賢者庁の大臣トップだ。ギルドマスターと大臣の通信は国家機密である場合もあるんだ。それを勝手に開封して見るなど、重罪に問われてもおかしくない事だぞ?」


モルメル「すっ、すみません……」


「まぁ、今回のは国家機密ではないが…それに、前にモルメルに書類の確認を頼んでいたのも事実だしな、今回はその件については不問としよう。だが今後は禁止だ、俺が長期不在の場合でもだ。いいな?」


モルメル「はい、それはもう…!」


「本当は出張中に部下に信書を確認させていたというのがバレたら俺も罰せられかねんからな」


ノア(なんだよ保身かよー)


「何か言ったか?」


ノア「別にー?」


「それにしても……その猫人? 獣人の新人、随分悪質だな…」


モルメル「ですよねー?!」


ノア「えー、猫ちゃん何も悪くないよー?」


「殺す必要はなかっただろう、実力差は歴然だったようじゃないか?」


ノア「でも【決闘】だから殺しても問題ないんでしょー?」


「問題大有りだよ! Bランクの冒険者が三人死んだんだぞ? Bランクと言えば事実上、ギルドの主戦力だ」



― ― ― ― ― ― ―

※帝都の冒険者ギルドにはAランク以上の冒険者も多数居るが、数は多くはないし、Aランク以上となると貴族に囲い込まれたり、自由気ままに活動するようになり、ギルドの依頼をあまり精力的に受けなくなってくるのだ。

― ― ― ― ― ― ―



「まぁ、モブ三人は最近調子に乗っていて問題行動も多いとは聞いていた。そろそろ教育が必要かと思っていたところだったんだが…こんな事になるなら早めに締めておくべきだったな…」


ノア「そうだよー」


「他人事みたいに言うな、お前達職員にも責任はあるだろうが」


ノア「だってボク達みたいな受付嬢がどうやって冒険者を教育しろって言うのさー?」


「……まぁそうか。俺の怠慢だな…」


ノア「と言う事で! 猫ちゃんはSランクにランクアップだねー」


「いや、そうは行かんさ。いくら賢者が保証すると言っても、ギルドマスターとして、はいそうですかと認めるわけにはいかんのだよ」


ノア「だよねー、Sランク認定は一支部のギルマス程度じゃできないもんねー」


「こら! 知ってるなら言うな!」


ノア「へへへごめーん。ボクはもう行っていいよねー?」


「ああご苦労だった。もう行っていいぞ。今度その猫人…カイトと言ったか? が来たら、俺のところにすぐ通してくれ。ラルゴも後で見かけたら俺の所に寄こしてくれ、話を聞きたい。


…あ、今後は簡単に決闘も受理するんじゃないぞ?」


ノア「はーい」


モルメル「私は?」


「お前はまだ報告があるだろう?」


モルメル「報告?」


「死んだ三人についてだよ。死体は医務室か? 遺族に連絡は?」


モルメル「あ、死体は……ありません」


「なぜだ? 死体も残さず消し飛ばされたとでも?」


モルメル「いえ、その、猫人が、【収納魔法】を使えまして、死体と血をすべて回収してしまったんです」


「そうか、【収納魔法】を使えるんだったな。賢者の紹介状には【賢者猫】だと書いてあった。アダラールを越える【賢者】だと…」


モルメル「そんな事書いてあったって、本当だと思えないですよ…」


「まぁ、気持ちは分かるがな。だが悪いがお前は主任から降格だ。平に戻ってやり直せ」


モルメル「そんな! 紹介状を勝手に見た件は不問にするってさっき…」


「バカヤロ、冒険者が三人も死んでるんだぞ? 騒動の責任を取れ」


モルメル「せっかく給料増えて楽ができる立場になれたのに・・・」


「その姿勢もどうかと思うが…諦めろ。問題が起きた時、その責任を取るために役職があるんだよ…」


モルメル「ガックリ・・・」


「モブ三兄弟については、遺族の連絡先を調べて、連絡しておけ…。あ、遺族には、死んだのはあくまで個人的に行った【決闘】の結果だ、ギルドは関係ないと言っておけよ?」


モルメル「……はい」


「タイラーも仕事の途中で呼び出して悪かったな。査定が終わったらそのドラゴンの素材について詳しく聞かせてくれ……」



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